愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

速水奏の映画メモ(『チェックメイト』)

 

速水奏「美嘉、今度の土曜、オフよね」

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 城ヶ崎美嘉「うん。どったの?」

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「前、美嘉が言ってたじゃない。ショッピング、行きましょ?」

 

美嘉「いいじゃんいいじゃん!あ、あとね、スイーツなんだけどさ、アタシこの前、行ってみたいお店見つけたんだ!マジ卍」

 

「ついでに泊まって行く?」

 

美嘉「え、いいの!じゃ、そうしよ!」

 

 *

 

美嘉「え、やだよ。アタシ観ないよ」

 

「却下」

 

美嘉「えぇ~……意味わかんない……他の映画じゃダメなの?だいたい、映画なら伊吹ちゃんと観ればいいじゃん……」

 

「たまにはいいでしょ。それに……小梅ちゃんに借りたからなるべく早く観て感想を伝えたいし」

 

美嘉「ひとりで観ればいいじゃん!小梅ちゃんから借りたって……ほらぁ~絶対ホラーじゃん……」

 

「そうね、本当は今夜、ひとりでゆっくり観ようかと思って楽しみにしてたのよ。だけど親友が泊まりに来るっていうから、楽しみをお裾分けしないとと思って」

 

美嘉「えぇ~……意味わかんない……ってもうディスク入れてるし!あぁ、もう!わかった!」

 

「そう、聞き分けがいい子は好きよ」

 

美嘉「アタシは奏のこと嫌いになりそうだよ」

 

「……なんだかんだ言って、美嘉ってお姉ちゃんなのよね」

 

美嘉「なんだかんだ言わなくても、アタシには妹が一匹いるよ?」

 

「飲み物淹れて来るわ、何か飲む?」

 

 

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水奏の映画メモ

イドル・速水奏。彼女ほど、『夜』のイメージと親和性の高いアイドルもそうそういない。秘密を覆い隠すベールのような夜、少女との妖しい夜、そして大人の女の艶めく夜……

 思議な夜、ハロウィンの始まりに、この女が欠けることなど許されようか。

 本誌屈指の人気コーナー、『速水奏の映画メモ』が一夜限り、復活する。百鬼夜行が跳梁跋扈する夜、彼女が扮するものとは――

 

 (文責・鷺沢文香)

 

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 ……目が逢ったわね。考えてみれば当然なのかも。だって、私はあなただけを見ているんだから…なんて、ね。

 なぁに?この柘榴が気になるの?……それとも、唇?ふふっ。

 柘榴って、冥界の食物なんですって。冥界から死者が蘇り、祭礼に誰とも知れず加わる――こんな夜にぴったりじゃないかしら。

 

 今日紹介するのは、ハロウィンにぴったり、ホラーとチェスの融合。

チェックメイト 2009年のフランス映画よ。

 

「チェスで勝ったら、解放してやる」――その条件と共に突然、監禁されたら、どうするのかしら……?

 

 映画監督を目指す主人公、ヤニック。彼には綺麗なガールフレンドも居て、映画学校への進学も決まり……と充実した生活を送っている。

 ……ホラーとわかっていてこの演出は、今後突き落とされることに身構えてしまうわよね。だからこそ、そのオーディエンスの期待をどう裏切るかが、ホラーの導入部では問われるのだけれど。

 ここでちょっと気になったのは、彼女の家を通して少しだけ描かれる、妻に強く当たる夫の姿なのよね。伏線というには直接的な繋がりが無いように見える、このぼんやりとした縛りが全体をうまく統括する束縛要件になっているというか。フランス映画はそういうことを時々やる印象があるわ。

 

 とにかく、ヤニックはとても幸せに満ちた穏やかな日々のなかにある。彼自身もとても性格がよく、悪餓鬼に虐められている少女を助けてあげて、その少女と彼女の母から感謝をされたり、というほのぼのとした情景が描かれ――不安がどんどん掻き立てられていくのよね。

 

    ヤニックは生活の安定からかそれともその気質が安定を招いたのか、性格も優しく、悪餓鬼に絡まれている少女を助けて彼女とその母親から感謝を受けるシーンも描かれるわ。ホラー映画で性格の良いキャラクターは碌な目に合わないと相場が決まっているから、楽しみよね。

 

  自主映画を撮るために、カメラを持って街を歩くヤニック。そこへ猫が飛び出してきて、彼は気を取られ転倒してしまうの。

  そこにあった家で洗面所を借りようと訪ねるヤニック。そこはタクシー運転手の男とその一家が住んでいたのね。

  そのとき、洗面所を借り手を洗うヤニックの耳に、人間の呻吟の声が聴こえるの。声に導かれるように進んで行くと、そこには監禁された一人の男。

 

  突然の事態に動転するヤニックの元へ、銃を持った主人が戻ってくる。そして囚われていた男を撃ち殺し、一部始終の目撃者となったヤニックは監禁されることになるーー

 

 


  ここから先は、何を語ってもネタバレになる。そして、ミステリーホラーの趣を示す本作に対して、それ以上に無粋で不敬なこともないように思うの。
  なので私は、この作品に重要なファクターとして存在する、『ふたつのチェス』について、述べることにするわ。

 

  ひとつが、鍵となる『主人とヤニックとのチェス』よね。監禁されたヤニックは、兇行の目撃者であるにもかかわらず殺されない。それは、この主人は『悪人しか殺さない』という極めて透き通った、歪んだ義侠心から殺人を犯しているからなのね。だから、都合は悪いが、悪人ではないヤニックを殺すわけにはいかない。しかれども、解放するわけにも行かないわよね。そこで主人がヤニックに提示した条件が、『チェスで自分に勝ったら、ここから解放する』というものなの。
  主人は不敗のチェス・プレイヤー。そして、少し背景的な知識になるのだけれども、西欧においてチェスに優れていることは、単なるボードゲーム上手に留まらず、極めて優秀な頭脳と勇敢な胆力を示している証拠だ、と見る向きがあるのね。カスパロフが政治に担ぎ上げられたように、わかるでしょう?だから、この異常性と義侠心の間でサイコな兇行に手を染めるこの男も、単なる異常者と言い切れない。チェスの背景にまで計算が及んだ、精緻なフランス映画だと思ったわ。

 

  もうひとつが、『人間チェス』。
人間、といっても、『猫を抱いて象と泳ぐ』に出てきたような、生きた人間を使うわけではないの。
  そう、ピースは死体。黒のピースは、タクシー運転手の男が成敗した悪人の、そして白のピースは、善人とされる人間の墓を掘り返して得た死体。
  彼は悪を裁きながら、この凄惨なチェス・セットが完成する日を待っているーー

 


  このふたつのチェスを巡りながら、『善人』である闖入者の登場によって、『悪人』の営んでいた穏やかな生活が掻き乱されていく、という、とても変わった監禁ものとなっているのが本作の特徴。
  最後は、警察に保護され事なきを得たヤニックのカットなのだけれど。彼は精神をやられてしまっているの。そして、いつまでも、頭の中でタクシー運転手の殺人鬼と対戦し続けているーー



 「ところで、タイトルにもあるチェックメイトはいつくるのかしら……」と思ったとき、ハッとしたのよ。私はもう術中にハマっているんだって。
 人の心を閉じ込める――そんな妖しいチェスの魅力が、ここに生きて来るのよね。
 チェスに人生を捧げる、というのは見方を替えれば、チェスに人生を破滅させられるということでもあるのかもしれない。

  私たち日本人にとっての囲碁や将棋といった棋道とも違う、たとえば信仰のような、もっと生活基盤や民族性といったものの深部にまで達したチェスの根を垣間見た。そんな気分になったわ。
  残虐性の描出を遍く含むホラーテイストな映画は、オーディエンスに鮮やかで色濃い生の実感を賦与してくれる。


  ハロウィンの不思議な夜に託けて、偶には、こんな映画もいかがかしら。

(続く)