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第1回Blitzトーナメント準決勝第1ゲーム[宮本フレデリカ vs 北条加蓮](解説・鷺沢文香 / 聞き手・工藤忍)

 

藤忍「はろー!いよいよトーナメントも大詰め!準決勝から宮本vs北条戦を解説していきますよ!」

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鷺沢文香「宜しくお願いします」

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忍「宜しくです!文香さんは第3試合、お疲れ様でした。この後の準決第2ゲームも控えていますが……立て込んできましたね。それにしても……なかなか熱いカードですよね!」

 

文香「そうですね……」

 

忍「早速ですが、文香さんの戦型予想はどうですか?」

 

文香「そうですね……白番がフレデリカさんなので、ルイ・ロペスを投入すれば恐らく『アレ』が観られるのではないかと……」

 

忍「なるほど、『アレ』ですね……それでは見て行きましょう!」

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(Figure.1 : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 b5 まで)

 忍「まぁ、こうですよね!」

 

文香「……モーフィ・ディフェンスa6~b5と突くのは、カロ・カンで知られているカロの手で、カロ・ヴァリエーションと呼ばれているラインです。前からある手はあるのですが、加蓮さんがこれを研究してこのトーナメントに望み成果を上げたのは記憶に新しいですね……」

 

忍「ここから黒はNf6Bb7がこのトーナメントでも指されていますね」

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(Fig.2 : 5. Bb3 Bb7 まで)

忍「1回戦の東郷vs北条戦で構想が明らかになり、2回戦では鷹富士vs宮本戦、そして鷺沢vs綾瀬戦と登場しましたね。最近では第3回戦のアナスタシアvs八神戦という大舞台で更に研究が進み新手が出ました。そして実はそのすべてのゲームになんらかの形で文香さんが関係しているということで……自身は白番を持って土をつけましたけど、どんな印象ですか?」 

 

 

文香「非常に優秀だと言わざるを得ないですね……。ルイ・ロペスは白でもっとも指されている形と言っても過言じゃない現在、ドロー率が非常に高い局面に持ち込めるラインというだけでも価値がありますが、そこに黒から動いていくバリエーションも多くあるというので、相手にして非常に厄介です。もっと研究が進んだら、白はルイ・ロペスでa6と突かれた瞬間にエクスチェンジ・ヴァリエーションしか採用できなくなるかもしれません……」

 

忍「ありがとうございます。ここで加蓮さんの5手目はNf6でなくBb7でしたね。これはアナスタシアvs八神戦で八神さんが明らかにした構想で、背景には鷺沢vs綾瀬戦で文香さんがBb3に引いたビショップをBe5とうまく活用する順で勝ち星を得たというのがあるんですねー」

 

文香「先にNf6と跳ねてくれればああやって攻め合いを指向し……というのは鷹富士vs宮本戦を解説していて思ったところで……しかしこうして先にフィアンケットを組まれるとその筋も消えてしまいます。カロ・ヴァリエーションからBb7~Nf6と手順を守るこのラインは、加蓮さんと八神さんのふたりによって完成された、と言えるでしょうか……」

 

忍「さしずめ、カレン・マキノ・ディフェンスですか?」

 

文香「そうですね……いえ、どちらも黒から攻めることを狙っているので、どちらかというとカレン・マキノ・アタックだと思います」

 

忍「新しいラインとして認めてもいいかもしれない、と。なるほど、そんな気もしてきます。では、本譜もNf6と跳ねるのでしょうか」

 

文香「そうですね。まぁ、白の手次第ではあるでしょうけれど……」

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(Fig.3 : 6. a4 Bc5 まで)

忍「Bc5……ですか。カレン・アタックのNf6を自ら代えてきましたね……」

 

文香「Nf6も普通に良い応手だと思うのですが……以下7. d3 b4 8. 0-0 Be7 9. Nbd2 0-0くらいでゆっくりした戦いになります」

 

忍「この白から端を触る6. a4は鷹富士さんの手ですね。あのとき黒番を持ってa6~b5を指したのがフレデリカさんです」

 

文香「恐らく、白の6手目がa4以外だったら加蓮さんはNf6と出るつもりだったのでしょう。何か策があると見ていいと思います。前例はb5とぶつかったポーンを解消する手でしたし、これを手抜いてビショップを展開するということは、なにか研究があるのでしょう」

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(Fig.4 :  7. 0-0 Nf6 8. ab ab 9. Rxa8 Qxa8 まで)

文香「なるほど、これでルーク交換をしながら手順に最長のダイアゴナルでバッテリーですか……」

 

忍「そして7手目にNf6とやっぱり跳ねましたね。これは6. a4カコ・アタックに対するカレン・マキノ・アタックのバリエーションと言っても良さそうです。現局面はどうでしょう、この黒の研究は有用そうですか?」

 

文香「……白はキャスリングをしたが為に狙われていますね。そして、第8ランク逆サイドのマイナーピースが、完全に立ち遅れています……。つまり、これで指せる、と加蓮さんは言ってるのですか。黒の主張が通る目処を持っている、と……」

 

忍「フレデリカさんも難しそうな顔してますね」

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(Fig.5 : 10. d3 b4 11. c3 bc まで)

文香「黒の11手目で代えてQa1と走るのは……物語に出て来る、自分だけの秘密のスポットに入り込めるようで、少しワクワクもしますが……ここは手堅く取り込むのがいいですか……」

 

忍「これは取り方が12. Nxc3 / bcの二通りありますね」

 

文香「これをどちらでとるか……悩ましいですね。12. bcには0-0でしょうが……12. Nxc3にも0-0で良いでしょうか……?」

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(Fig.6 : 12. Nxc3 h6 まで)

文香「なるほど、これで隙のない形という訳ですか……キャスリングする前に白の出方を伺う手渡しとしても損のない手です……」

 

忍「相手の将来の手を奪っていく……これが北条流……まるで蜘蛛の巣とか、絡繰り屋敷ですね」

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(Fig.7 : 13. Bd2 0-0 14. Qc1 Nd4 15. Nxd4 まで)

文香「……これは15. ... Bxd4の一手ですね。15. ... ed16. Nb5 Bb6 17. Nxc7 Qd8が嫌です。そして15. ... Bxd4 16. Nb5 / Ne2 Ba6 17. Nxd4 ed 18. Qc2 Rb8 19. Rb1 d6 20. f3 c5 21. Ra1 Qb7 22. Ra3 Nd7 23. Bd5 Qxb2 24. Qxb2 Rxb2 25. Bxh6 までは一直線だと思います」

 

忍「その局面の形勢は、文香さんはどう見ますか?」

 

文香「……非常に、白が勝ちづらい展開でしょうか……何か返し技が無ければ、引き分けどころかじりじりと差を伸ばされて黒勝ちまであります」

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(Fig.8 : 15. ... Bxd4 16. Nb5 Ba6 17. Nxd4 ed 18. Qc2 Rb8 19. Rb1 d6 20. f3 c5 21. Ra1 Qb7 22. Ra3 Nd7 23. Bd5 Qxb2 24. Qxb2 Rxb2 25. Bxh6 0-1)

文香「ここでは白のRa3が次にRxa6とビショップを抜けるので、24. ... Rxb2で取られそうなビショップを、25. Bxh6とキングサイドを弱めながら捨てる手が手筋ですが……」

 

忍「あら?この手を指した後にフレデリカさんがキングを倒しましたね……」

 

文香「投了、ですか……黒は面倒を見るほかに、Bd3から攻めに行く手もある手の広い局面ですが……相手の考慮の幅も広くなりますし、それにこのビショップ・サクリファイスは初学者には見え難い類の手かも知れません。相手番投了の文化がない将棋に慣れている人々にとっては奇異に映るかもしれませんが、これはベストなタイミングでの投了だと思います……」

 

忍「端攻めは手抜いて逆用できる、ということですか。天才は初太刀で殺す、といいますが……圧倒的でしたね。勝った加蓮さんは決勝戦に一番乗りです!対戦相手は……準決勝第2ゲーム、八神vs鷺沢戦の勝者ですか。文香さんの次の試合ですね!」

 

文香「私は私らしく、盤上に物語を紡ぐだけですので……」

 

忍「それでは、本局はここまでです。聞き手は工藤忍が!」

 

文香「わたくし、鷺沢が解説を務めました」

 

忍「では、文香さんは試合の支度をお願いします」

 

(続く)