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第8回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[セミ・オープン・ゲーム > フレンチ・ディフェンス]

 

 こんばんは。第8回目の『早わかりチェス講座』では、フレンチ・ディフェンスを取り上げます。

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 フレンチ・ディフェンスとは日本語では『フランス防御』とも呼ばれますが、これは郵便チェスの時代にフランスのチームがこの作戦を採用して高い勝率を上げたことに由来する、らしいですよ。私たちの事務所では、フレデリカさんの十八番ですね!

 

 既にほかの方の実戦紹介では何度も出て来たこの戦型ですが、オープニングとして体系が与えられていなかったので、せっかくセミ・オープンを紹介しているこの講座で取り上げようと思いました。お付き合いくださいね。

 

 白の1. e4に対し黒がひとマス謝って1. ... e6と受けるのがこのディフェンスの特徴ですね。

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(Figure.1 French Defense : 1. e4 e6)

 この手は防御力重視、といった感じでしょうか。なぜなら、ここを突いてe3のポーンを基礎にポーンストラクチャーを組もうとすると、どうしても黒はBc8が使いにくい展開となります。そのかわり、d5と突くdポーンとの連結がよく、防御力が増している、というわけなんですね。

 ここからは2. d4 d5と進むのが一般的です。

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(Fig.2 : Fig.1 ~ 2. d4 d5)

  このd5~e6の連結がきわめて堅い、というのがフレンチの主張ですね。堅さとは即ち相手にすると仕掛けづらい、ということなので、その仕掛けづらさを利用してどのようにポイントを稼げるかが黒の勝負、ということになります。

 ちなみに、これはフレンチではありませんが、e6と黒が突いて駒組みを上手く進めたゲームとして、第1回ブリッツトーナメントの1回戦、依田芳乃v.s.鷺沢文香戦がありますね。また、結果的に黒のこの手が上手く白の構想によって咎められたゲームとしては、同じくトーナメント2回戦の八神マキノv.s.塩見周子戦があります。

 つまり、序盤でd5を支える手として、e6という黒の手は結構理に適っている、ということなんです。ただ今紹介した二つのゲームとフレンチ・ディフェンスが最も異なるのは、白がeポーンを突く手に返す刀でe6と突いている、というところですね。

 

 この(Fig.2)の局面で早くもポーンがぶつかったのですが、これを『ギャンビット』だと観ることも出来ますね!ギャンビットについては、第6回の講座で一緒にやりました。取る手、取らない手、逆にギャンビットを仕掛ける手、という3つの応対がある、ということをあのときお話しましたが、ここで3. c4とポーンをぶつけるのはあまり白としては面白くないですよね。ポーン損の上に、黒のクイーンが進軍するきっかけを与えてしまいますから。

 なので、2. ... d5をギャンビットと見るならこの局面では取る手、取らない手が考えられます。

・取る進行

 フレンチのエクスチェンジ・ヴァリエーションと呼ばれるのがこの取るラインです。

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(Fig.3 Exchange Variation : Fig.2 ~ 3. ed ed)

 3. edと白がこのぶつかったポーンを払いに行くと、こうなります。序盤早々にキング同士が睨み合うこの展開は、お互いが技をかけあうことになります。

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(cf. Fig.3.1 : 1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nd2 c5 4. ed ed まで)

 こんなゲームがありましたね。そうです、アナスタシアv.s.宮本フレデリカの五番勝負第5局です。このあとはeファイルががら空きになっているのを利用して、白から積極的に技を掛けに行く展開となりました。5. Bb5+から激しくピースがぶつかり合う、華々しいゲームでしたね。このゲームにはまた後で言及します。

 

・取らない進行

 現在では、これを手に乗って取らない進行がメインです。当たっているポーンを躱しておく3. e5の他は、黒のBc8が初手1. ... e6によって立ち遅れるのを咎めようと、早々にマイナーピースの展開を目指すのが白の方針です。実質的には、3. Nd2, 3. Nc3の二択というのが現状ですね。ここでNb1を活用したいのが白なので、Nb1の駒落ち戦で黒がフレンチを採用するのは、棋理としては有用だと思います。それが、忍さんの番組でフレデリカさんとフリスクメンバーが4面指し、という企画を行った際の私の作戦でした。

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(cf. Fig.4.1 : 1. e4 e6 2. d4 d5 3. e5 c5 まで)

 b1のナイトが白は落ちているので、この3手目はほぼ3. e5に限定できると思っていました。そして、3手目にナイトが出て来る展開でも突きたい黒の3. ... c5から主導権を握ろう、というのは下手を持って指せると観ていました。あのゲームでは、キャスリングから端にナイトを跳ねて白のキングサイドの攻略を目指そうと思ったところ、華麗なビショップ・サクリファイスの順を読み落としていてTKOという不甲斐ない結果になってしまいましたが……。

 

 もちろん、平手戦であっても3. e5はあります。ニムゾヴィッチ・ヴァリエーションや、アドヴァンス・ヴァリエーションと呼ばれていますが、ぶつかっている状態で放置するのはいつでも黒から切られて気分が良くない、ということですね。

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(Fig.4 Nimzowitsch / Advance Variation : Fig.2 ~ 3. e5)

 黒は上手く主導権を取りたいです。なので3. ... c5とぶつけ、4. dcならば手順に4. Bxc5とビショップを展開しながら先にキャスリングまで見せてしまおうというような指し方があると思います。

 

 3手目にポーンを避けない手では、白としてはb1のナイトを使っていきたいところですが、これには2通りありますね。

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(Fig.5 : 2. d4 d5 まで)

 より前線を推し進める、という意味では3. Nc3の方が多く指されている手です。まずこちらを紹介しましょう。

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(Fig.5.1 : Fig.5 ~ 3. Nc3)

 この手は黒のd5のポーンを攻めています。ナイトの応援によって、白は次に4. edと取り込んでセンターを制圧する狙いが生まれました。

 なので、これを受けて黒は手を捻り出す必要がありますね。

 1つ目が、3. ... deと、先に清算してしまう手です。ルービンシュタイン・ヴァリエーションと呼ばれるラインになります。

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(Fig.5.1.1 Rubinstein Variation : Fig.5.1 ~ 3. ... de)

 2つ目は、この3. Nc3はd5のマスにナイトが跳べる可能性を作ったものなので、それが出来ないようにしてしまおう、という手で、3. ... Bb4とピンで出ます。

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(Fig.5.1.2 Winawer Variation : Fig.5.1 ~ 3. ... Bb4)

 わいなー……わいなヴぇ……え?わいなうあー?

 ……はい。ワイナウアー・ヴァリエーション、という形ですね!白は何もしないと次に4. ... deとeポーンをタダ取りされてしまいます。ピンされている限り、5. Nxe4と取り返しに行けないんですね。なので4. e5と予め逃げる手に、黒は用意の4. ... c5、ここでいつまでもピンされているのは白としても不愉快なので5. a3とビショップの居場所を尋ねるのが定跡になっています。ここでバッサリと5. ... Bxc3とエクスチェンジに行き、6. bcと取らせたところでは、黒は自分の黒マスビショップをショウダウンさせる代わりに、白のナイトも道連れに、更にcファイルにダブルポーンを作らせて良し、というのが黒が最善の応対と言われているラインですね。

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(Fig.5.1.3 : Fig.5.1.2 ~4. e5 c5 5. a3 Bxc3 6. bc)

 白が3手目に3. Nc3とナイトを跳ねる変化は、黒からこう指されたときに、cファイルにダブルポーンが出来てしまう変化があるんです。

 ここで、5. a3に代えて5. Bd2とビショップを間接的にぶつける受けもあります。それが、ボゴリューゴフ・ヴァリエーションと呼ばれる形で、実践例が宮本フレデリカv.s.アナスタシア五番勝負第1局ですね。

 

 これを踏まえると、代えて3. Nd2はどうかと考えるのも自然な流れですよね。

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(Fig.5.2 Tarrasch Variation : Fig.5 ~ 3. Nd2)

 これなら3. ... Bb4から黒がエクスチェンジを強制してきても、ダブルポーンができることはありません。

 この実戦が、先ほどの五番勝負第5局ですね。今日は色々な実戦譜をあいだあいだで紹介しましたが、そちらもぜひ合わせて観て頂けるとより理解が進むかなって、思います。

 

 フランス防御を紹介した、ということで、フランスという国のことわざを紹介して、今日は終わろうかと思います。

――心やさしいものにはチェスはできない。

 肉を斬らせて骨を断つ、そんな言葉が頭を過るような名勝負も多くありますね。盤上の殺し合いだ、という人もいるくらいです。それだけ命を賭けるからこそ、チェスというマインドスポーツは尊く、いつの時代も人を惹きつけて已まないのかなとも感じますね。またお会いしましょう、綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)