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第1回Blitzトーナメント第2回戦第1ゲーム[東郷あい vs 北条加蓮](解説・アナスタシア / 聞き手・綾瀬穂乃香)

 

綾瀬穂乃香「こんばんは。綾瀬穂乃香です」

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アナスタシア「ドーブライ ウートラ。アーニャです」

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穂乃香「さきほど、ドラマ『シンデレラを探して』の第1話が公開されましたね」

 

 

アナスタシア「ですね。こうして自分が演じる役を観るのは少し、照れます」

 

穂乃香「楽しんでもらえたらよいのですが……と、こちらでもドラマと、そして現在進行中のトーナメントと連動した企画をお届けする、ということで、今日私たちがやってきました!」

 

アナスタシア「ハラショー!」

 

穂乃香「第1話に出て来た神谷奈緒 v.s. 北条加蓮のゲームですが、これが本局のものということで、その解説をアーニャさんとしていきたいと思います!」

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(Figure.1 Ruy Lopez : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5)

穂乃香「本ゲームは先手のあいさんの趣向でルイ・ロペスになりましたね。なお、ドラマ中の対局シーン、時間はブリッツとほぼ同じ、そのままの状態での使用になったそうです」

 

アナスタシア「カレンはとんでもない早指しですね……」

 

穂乃香「ここからの進行は、私の第4回第5回の講座でも少し取り上げました。ドラマを観て、興味を持って下さったら合わせて見てもらえると嬉しいです」

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(Fig.2 : 3. ... a6 4. Ba4 b5 5. Bb3 Nf6)

穂乃香「3. ... a6で加蓮さんがモーフィー・ディフェンスを選びましたね」

 

アナスタシア「アイはエクスチェンジをよしとしませんでした。カレンがエクスチェンジ・ヴァリエーションを相手にして負けたことが今までないからかもしれません」

 

穂乃香「a4に引いたビショップを4. ... b5で更に退かせましたね」

 

アナスタシア「カレンの研究手順だった、というのが後々わかりますね。ここに引かせることで生じるエクスチェンジの筋を、この時点で計算に入れていたのでしょうね」

 

穂乃香「黒の5手目Nf6はどうですか?」

 

アナスタシア「これは深い研究に根差した1手という感じがします。もちろん、自然な流れの中の1ムーブですが、第1感はdポーンを突いてビショップの進路を取りながらセンターに手を掛けるかと思うので。ここで早々にナイトを出ておくのは早指し向きな感じもしますね」

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(Fig.3 : 6. Nc3 Be7 7. d3 0-0 8. 0-0 d6)

穂乃香「お互い主張のある陣形、ですか」

 

アナスタシア「パッと見だと、ダイアゴナルがdポーンによって止められているので黒のが悪い気もしますが、実はとても効率の良い陣形だというのをこのあとカレンが証明しましたね」

 

穂乃香「この局面、白ならアーニャさんは何を指します?」

 

アナスタシア「ダー。9. h3を推します」

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(Fig.4 : 9. a4 b4 10. Nd5 Na5!)

穂乃香「これがすごい手でしたね。まず本局の見どころその1じゃないです?」

 

アナスタシア「これは、なかなか指せない手です。ナイトはショウギのケイマと違って、八方に利きがあるので、端のファイルに使ってしまうとそれだけ働きが悪くなる、とずっと言われてきました。端に使って、ピースの効率でカバーしてやる、という発想はモダン・チェスになって流行り出した概念です」

 

穂乃香「これが白のBb3に当たっているのに注目してください。そして、このBb3はモーフィー・ディフェンスのa6~b5で手順に追い返したビショップなんです」

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(Fig.5 : 11. Nxe7+ Qxe7 12. Ba2 Be6)

穂乃香「これですね。これがやりたかった、と」

 

アナスタシア「ナイトから逃げるために引いたBa2に、12. ... Be6と当ててエクスチェンジを誘っています。これに乗ると手損の上に、黒ばかりが交換で手順にクイーンを進軍させることになりますね」

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(Fig.6 : 13. Bxe6 fe 14. Bg5 h6 15. Bxf6 Qxf6)

アナスタシア「黒の13手目feが渋いです!Qxe6と取り込みたくなりますが、14. Bg5から同じように進めエクスチェンジをしたときに、クイーンを二度動かすので損だと考えたのでしょう。アーニャもそう思います」

 

穂乃香「eファイルに出来たダブルポーンが、実は白から攻め手がなくなるのに寄与しているのも見ておきたいですね。相手の手を徹底的に奪う指し回し、北条流の極点です」

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(Fig.7 : 16. c3 c5 17. cb cb 18. Rc1 Rac8)

穂乃香「ここで、ドラマ内で凛さんが指摘したのが18. Rc1が緩い、ということでした」

 

アナスタシア「これを緩い、と言ってしまうのは酷だと思います。候補に挙がる自然な手のひとつで、有力に見えますから。しかし、実際18. ... Rac1から交換されてみた時に、21. Qc7が黒のキングの首元に届いていない刃になっているのが気になりますね。この辺でhポーンを突くや、クイーンの展開を図るのはあったと思います」

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(Fig.8 : 19. d4 Rxc1 20. Qxc1 ed 21. Qc7 Qd8)

穂乃香「この21. Qc7は懐に飛び込んだように見えて、巧妙な黒の罠でしたね」

 

アナスタシア「これは手順にクイーンを飛び込んで悪くなると思いたくない人間の本能の穴をついたトラップだと思いますね。カレンの深い研究はまるで地雷原です」

 

穂乃香「21. Qc7と手順に飛び込み、端で遊んでいたナイトも焦点にして良いかと思ったムーブでしたが、続くノータイムの21. ... Qd8にはあいさんも顔色を変えたと聞きます。これが、a5のナイトを守りながら白のほぼ唯一の攻撃ピースとなったクイーンを切らせる好手です」

 

アナスタシア「引くのは損ですからね」

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(Fig.9 : 22. Qxd8 Rxd8 23. Rc1 Nb3 24. Rc7 a5!)

アナスタシア「24手目a5は一貫したカレンの棋風を感じます」

 

穂乃香「相手の手を奪う、という手ですか。そして、エンドゲームに於ける手数計算を容易にしています。こういう、いつでも指せるしどれを指しても良くなる手、というのをどの局面でも用意してあったり、見つけ出すことが出来るというのが、北条加蓮という早指し最強の呼び声高いプレイヤーの強さを支えているのかもしれませんね」

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(Fig.10 : 25. h3 d5 26. ed Rxd5 27. Rc8+ Kf7 28. Rc7+ Kf6)

穂乃香「この連続チェックのあたりの苦悶、ドラマでも神谷さんの熱演が光っていましたね」

 

アナスタシア「あのとき、ホノカはどこにいたんですか?」

 

穂乃香「私はあの撮影中は休憩を頂いて、ありすちゃんと彼女のタブレットでチェスをプレイしていました……」

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(Fig.11 : 29. Rc4 d3 30. Rf4+ Ke7 31. Rg4 d2! 32. Rxg7+ Kd6 33. Nxd2 Rxd2)

穂乃香「31手目d2が決め手ですか」

 

アナスタシア「このポーンのプロモーションを防ぐにはナイトかルークを犠牲にするしかないですからね。そして、そうしてエクスチェンジをすると今度は33. ... Rxd2と出て来たルークが白のbポーンを掃いて、今度は黒はbファイルにパスポーンを手にします。この辺りの計算は本当に恐ろしい精確さだと、思いますね」

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(Fig.12 : 34. Rg6 Rxb2 35. Rxh6 Ra2)

穂乃香「……これが、北条流の一手ですね。とても巧妙な手渡しです」

 

アナスタシア「この時点で、彼女はほとんど手数計算を終えているのでしょう。あとは、具体的な詰み筋だけで、それをドラマでは36手目のこの局面で考えているようでした。36. ... Nd4から詰み逃して万に一つでもステイルメイトにでも逃げられると、ということを考えていたのでしょう。勝てるゲームを勝ち切れないことほど悔しいことはありませんから」

 

穂乃香「以下は36. Rh8 Nd4 37. Rd8+ Ke5 38. f4+ Ke4 39. f5 ef 40. Re8+ Kd3 41. Re1 b3 42. Rd1+ Kc3 43. Rb1 Kc2 44. Rf1 b2 45. Kh2 Ra1 46. Rf2+ Kc3 47. Kg3 b1=Qで0-1、黒番、加蓮さんの勝ちです。終局図はドラマの方で観られるので載せませんが、Mate in 7ですね」

 

アナスタシア「ここでは、テイク1ではホノカがRc1の緩さではなく終局図からのMate in 7を指摘する、という筋書きもあったそうですね」

 

穂乃香「はい。ですが、エンドゲームの読みと経験値が少しちぐはぐな印象を与えてしまうことや、尺の都合など色んな事情であのような形になったと聞いています」

 

アナスタシア「初心者にして正確無比な読みをするプレイヤー、というよりも、あのドラマ内でのホノカは『漠然としたピースの違和感が感じ取れる稀有なプレイヤー』という印象を与える……とはフミカの受け売りですが、そういうところでしょうかね」

 

穂乃香「本トーナメントで勝った加蓮さんは、2回戦シードの柚ちゃんと3回戦で戦います」

 

アナスタシア「そのゲームは、アーニャもとても関心がある一局です」

 

穂乃香「ブログも動画も、引き続き宜しくお願いしますね。聞き手を務めましたのは、綾瀬穂乃香でした」

 

アナスタシア「解説はアーニャ、アナスタシアでした。またお会いしましょう。ダスヴィターニァ」

 

(続く)