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フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第7回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[セミ・オープン・ゲーム > センター・カウンター(スカンジナビアン・ディフェンス)]

 

 こんにちは、綾瀬穂乃香です。6月最初の講座は私の、ですか。気合いが入ります。

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 今日も『早わかり講座』を始めていきたいと思います。

 直近4回の講座では、白の初手1. e4に対して1. ... e5と黒が返し、対称形でオープニングが始まるオープン・ゲームから、イタリアン・ゲーム、ジオッコ・ピアノ、ルイ・ロペス、そしてキングズ・ギャンビットを一緒に観て頂きました。オープン・ゲームは結構プレイできるようになってきたのではないでしょうか!

 なので、オープン・ゲームにもまだまだ色んなオープニングがありますが、今日からは1. e4に黒が1. ... e5以外を返すセミ・オープン・ゲームを少し一緒に観て行こうかな、と思います。

 

 本日観て行くのは、1. e41. ... d5といきなりポーンをぶつけるセンター・カウンターと呼ばれる形です。スカンジナビアン・ディフェンスとも呼ばれますね。

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(Figure.1 Centre Counter / Scandinavian Defence : 1. e4 d5)

 センター・カウンターは奏さんと文香さんの『映画メモ』盤外編で取り上げられていたほか、今行われている第1回ブリッツトーナメントの1回戦第6ゲームで黒番の塩見さんが採用していましたね。

 ちなみに、英語表記は結構揺れがあるみたいです。英国のクイーンズ・イングリッシュだとセンターをCentre、ディフェンスをDefenceと書きますが、米国のイングリッシュだとそれぞれCenter、Defenseと書く様で、後者の方が米国式の綴りを学校で習った私たちには馴染が深いですね。英語の文献を読んで戸惑うことがないよう、触れておきました。

 

 センター・カウンターはセンター・カウンター・ディフェンスの略であると同時に、この戦型をセンター・カウンター・ギャンビットだと思ってそう略す人もいます。そう、ギャンビットなんです。ギャンビットとは何か、これは前回の私の講座でやりましたね。

 1手目にしてポーンをぶつけるこの黒の手がギャンビットならば、白はもうすでに作戦の分岐に立たされている、ということでした。ゆっくりでいいので、前回のを見直したりしながら、ひとつずつ、覚えていきましょう!

 作戦分岐、とはつまり(1)取らない (2)取る の選択が強いられている、ということです。

 まず、(1)の方を観てみましょうか。

 

(1)dポーンを取らない場合

 現局面を再掲しますね。

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(再掲Fig.1 : 1. e4 d5)

 取らない手としては、何があるでしょう。

 放っておいては逆に2. ... deとこちらのeポーンを取り込みながら黒のクイーンの前がセミオープン・ファイルになって嫌ですね。なので、取られない手か、取られても取り返せる手を考えたいところです。すると、2. e5, d3, f3, そしてナイトでeポーンを支えるNf3や、ビショップで支えるBd3、クイーンで支えるQe2などが考えられるでしょうか。

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(Fig.1.1 : 1. e4 d5 2. e5 まで)

 取られる手を外した2. e5です。これには黒も手が広く、2. ... c5, d6, e6, Bd7Bf5などが有りますね。

 いくつか進行例を挙げますと、2. e5 e6は次に3. d4と白から突いて、フレンチ・ディフェンスのラインに合流します。

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(Fig.1.1.1 : Fig.1.1.1 ~ 2. ... e6 3. d4 まで)

 この時点では形勢互角ですね。ここから一局のゲームです。

 他には……2. ... Bf5を観てみましょうか。これには3. Bb5+とチェックで出る手もありますね。他には先に3. d4 e6の交換を入れるのもありそうですね。

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(Fig.1.1.2 : Fig.1.1.1 ~ 2. ... Bf5 3. d4 e6 まで)

 先ほどの(Fig.1.1.2)とポーン・ストラクチャーこそ似ていますが、Bf5と出る前にe6を突いてしまうと、黒はBc8を働かせるのが難しくなる、というのはフレンチのビハインドでした。フレンチ・ディフェンスでのBc8の使い方については、フレデリカさんとアナスタシアさんの対戦を扱った忍さんの4回目の講座や、同じくフレデリカさんとアナスタシアさんのゲームを大盤解説会で解説したときに文香さんが言及していましたね。

なので、e6と突く前にBc8のビショップを展開しておく手は十分考えられる手だと思います。これも形勢は互角でしょう。

 

 では、2. e5に代えてe4のポーンを支える手はどうでしょうか。

 たとえば2. f3とfポーンを突きながらe4~f3でポーン・チェーンを作る手ですが……

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(Fig.1.2 : 1. e4 d5 2. f3 まで)

 黒からは2. ... e6e5があります。e5の方が激しいでしょうか。進行例は、2. ... e5 3. ed Qxd5と進んでこれは黒が最序盤にして指しやすそうです。

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(Fig.1.2.1 : Fig.1.1.2 ~ 2. ... e5 3. ed Qxd5 まで)

 2. Nc3は以下2. ... d4がナイトに当たるので、3. Nce2と逃げますがこの時手番が黒にありますから、互角ながら若干主導権が黒にあって指しやすそうですね。

 2. Bd3/Qe2は以下2. ... de 3. B/Qxe4でこのとき、3. ... f5やNf6がこのビショップやクイーンを狙いにしてくるので、やはり黒が少し指しやすそうです。

 2. d3はどうでしょうか。2. ... de 3. Nc3 Nf6 4.Nxe4と進んで、ここで4. ... e5を突くか、それともNc6と展開するか、或いはNxe4とナイト・エクスチェンジに乗って来るかの選択権は黒にありますね。これは白としては不満かもしれません。

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(Fig.1.3 : 1. e4 d5 2. d3 de 3. Nc3 Nf6 4. Nxe4 まで)

 

 とすると、このギャンビットに応じないのは、強いていえば2. e5は研究勝負に持ち込めそうですが、他はどれをとっても白としては不満が付き纏うようですね。

 

(2)ポーンを取る場合

 というわけで、白としては強気に2. edと応じたいところです。こちらが本筋になりますね。

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(Fig.2 : 1. e4 d5 2. ed まで)

 メインラインは、これを2. ... Qxd5とクイーンで取り込む手に始まる流れですね。これからまず見ましょうか。

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(Fig.2.1 : Fig.2 ~ 2. ... Qxd5 3. Nc3 Qa5 4. d4 Nf6 5. Nf3 Bg4 6. h3 Bh5 7. g4 Bg6 8. Ne5 c6 9. h4 まで)

 結構進めてしまいましたね。途中の手の解説をします。

 3. Nc3は出て来たクイーンを狙いながら左のナイトを使う手ですね。ここで黒はクイーンを避けるわけですが、3. ... Qd8は当然ながら手損です。手損してまで指す手かというと、これはプレイヤーの腕次第ですか。あまり進んで手損する意味を私はわからないので何とも言えません。

 3. ... Qe5+とチェックを掛けるのはどうでしょうか。

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(Fig.2.2 : 1. e4 d5 2. ed Qxd5 3. Nc3 Qe5+ 4. Be2 Bg4 5. d4 Bxe2 6. Ngxe2 Qh5 7. Bf4 まで)

 合い駒をする4. Be2に、調子よく4. ... Bg4と出て黒がやれそうに見えますが、ここで5. d4が切り返しの一着になります。5. ... Bxe2 6. Ngxe2とエクスチェンジをすると、今跳ねて来たナイトが5手目に突いたd4のポーンに紐をつけているので、黒はクイーンを退けざるを得ないのですね。どこに退けても、黒はテンポを失ったことになりますし、次に7. Bf4と仕掛ければc7の地点が非常に受けづらく白が優勢です。

 

 なので3. Qa5と避けます。将棋で言う、浮き飛車をどこに逃げるか、のような感覚でしょうか。5. ... Bg4は、白が5. Nf3と跳ねた瞬間にピンしに来た手です。追い払う6.h3 Bh5 7. g4 Bg6も当然の進行ですね。

 黒の4手目Nf6は先んじてナイトを使う手ですが、ここで代えてe5と突く手もあります。これを突いておくと、白のビショップがBf4と出る手も消えますからね。またこれを取ってくれれば手順にクイーンをセンターに呼び戻せます。なので、以下の進行は5. Nf3 Bb4 6. Bd2 Bg4 7. a3 Bd6が一例のラインでしょうか。

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(Fig.2.3 : 4. d4 e5 5. Nf3 Bb4 6. Bd2 Bg4 7. a3 Bd6 まで)

 突いた黒のeポーンを巡る攻防、になります。ピンやバッテリーといったテクニックを駆使しながら、黒は最終的に7. ... Bd6でeポーンを支えに行ってますね。白は二つのナイトを展開、黒は二つのビショップを展開し、一局です。

 4. ... Nf6 5. Nf3の瞬間ですが、敢えて5. .... Bf5と捻るのもありそうだと思いますか? 

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(Fig.2.4 : 4. d4 Nf6 5. Nf3 Bf5 6. Ne5 まで)

 これには6. Ne5が機敏な切り返しで、次に7. Nc4があからさまですがこれで黒のクイーンはかなり苦しいですね。なので黒は5手目Bf5はあまり推奨できません。

 黒から変化するなら、次の6手目のタイミングでしょうね。6. h3と突いてきた瞬間に、エクスチェンジするんです。ルイ・ロペスのモーフィ・ディフェンスでこのエクスチェンジに似たものをみたことが、みなさんはもうあると思います。私の前々回の講座でやったエクスチェンジ・ヴァリエーションですね!

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(Fig.2.5 : 6. h3  Bxf3 7. Qxf3 c6 8. Bc4 e6 まで)

 黒のピースが立ち遅れている感じはややしますが、全ての黒の注文が一応現局面では通っているので互角でしょうか。

 

 以上、メインラインを観て来ましたが、黒はもっと早い段階で手を変えることもできます。それが、2. edに対してこれを取らずに2. ... Nf6と跳ねる展開です。

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(Fig.3 Modern Variation1. e4 d5 2. ed Nf6 まで)

 2. ... Nf6と跳ねて、孤立ポーンになった白のd5のポーンに利きを足しています。センター・カウンターのモダン・ヴァリエーションと呼ばれている形です。

 ここは白の手が広い局面ですね。3. d4, c4、それからBb5+なんて手も見えます。

 

 まず、3. d4の進行を観てみましょう。

 これは黒は3. ... Nxd5と取ってきます。

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(Fig.3.1.1 Marshall Variation : Fig.3 ~ 3. d4 Nxd5

 マーシャル・ヴァリエーションと呼ばれている進行です。

 ここで白の手ですが、4. Nf3と跳ねてみたいですね。類似のゲームが過去にあります(Jan Timman v.s. Mustafa Ahmed Bakali, 1974, Olympiad Qualifying Group 8)。

 1. e4 d5 2. ed Nf6 3. d4 Nd5 4. c4 Nb6 5. Nf3 Bg4 6. c5 Nd5 7. Qb3 b6 8. Ne5!と進んでここで黒が投了しましたね。

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(Fig.3.1.2 : 投了図は8. Ne5!まで)

 この局面では、黒は駒損不可避なんですね。本譜では4. c4でしたが4. Nf3から4. Ng4 5. c4 Nb6と手順前後を経ても6手目に合流します。まぁ、4. Nf3と先に上がったらこのラインになりませんけどね。何故か日本語版のウィキペディアにはこの手順前後のラインがTimman v.s. Bakaliとして紹介されているようですが……不思議ですね。

 そんなわけで、4. c4が素直な手だと思います。ここからは、4. ... Nf6 5. Nf3 Bg4 6. Be2 e6と進んだり、5手目で黒から手を代えて5. ... g6と突いたり、或いは4手目で手を代えて4. ... Nb6 5. Nf3 g6などが考えられる進行でしょうか。

 

 次に白が3手目3. c4と突く進行ですね。先ほどより1手早いだけのこれがどのように分岐していくのか、それに着目してください。

 これには3. ... c6 4. dc Nxc6と進めるのがラインです。

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(Fig.3.2.1 Panov Transfer Variation : Fig.3 ~ 3. c4 c6 4. dc Nxc6)

 ここでナイトの立ちおくれを恐れて白が5. Nf3と慌てるのは危険です。以下5. ... e5 6. d3 Bc5 7. Be3 Qb6 8. Bxc5 Qxc5 9. Nc3 Bf5 10. Be2 Rd8と進んで黒が優勢になります。

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(Fig.3.2.2 : Fig.3.2.1 ~ 5. Nf3 e5 6. d3 Bc5 7. Be3 Qb6 8. Bxc5 Qxc5 9. Nc3 Bf5 10. Be2 Rd8 まで)

 なので、白はここは堪えて5. d3と突いておくのがいいでしょう。以下、5. ... e5 6. Nc3 Bf5は形勢不明で一局だと思います。

 

 最後に、3. Bb5+と白が強気にチェックを掛けに行く変化ですね。

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(Fig.3.3.1 : Fig.3 ~ 3. Bb5+ まで)

 このダイアゴナルを塞ぐ必要が黒は有りますが、それはNbd7Bd7が考えられますね。

 

 まず3. ... Nbd7から考えてみましょうか。

 これは、4. d4 a6とか進んで白が指しやすいなりに一局じゃないでしょうか。ちなみに、日本語版のウィキペディアには不思議なラインが書いてあるのでそちらも観て貰えるといいと思います。私にはよくわかりませんでした。

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(Fig.3.3.2 : Fig.3.3.1 ~ 3. ... Nbd7 4. d4 a6 まで)

 

 次いで、3. ... Nbd7に代えて3. Bd7ですね。

 4. Bc4とするのが大人しそうです。手損ながら、定跡になっていますね。以下4. ... b5 5. Be2 Nxd5と進みます。白は手損こそしていますが、d5のナイトを目標に展開できるので互角です。

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(Fig.3.3.3 : Fig.3.3.1 ~ 3. ... Bd7 4. Bc4 b5 5. Be2 Nxd5 まで)

 

 ここでは、4手目にBc4と引いてbポーンを突かせましたが、それをせずいきなり4. Be2と引く展開はどうなるのでしょうか。

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(Fig.3.3.4 : Fig.3.3.1 ~ 3. Bb5+ Bd7 4. Be2 まで)

 ここで、Nf6が利いているからといって4. ... Bg4というような手は黒の勇み足ですが、これを咎める筋も不思議なラインが日本語版のウィキにはあります。4. Be2を引いているのにどうやって7. Nge2を入れるのか、悩みます。ちなみに普通に5. Bxg4と取って優勢ですよ?

 4. ... Nxd5の方が形勢としてはわかりにくいです。以下5. d4 Bf5 6. Nf3 e6 7. 0-0くらいで一局に思えます。

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(Fig.3.3.5 : Fig.3.3.5 ~ 4. Nxd5 5. d4 Bf5 6. Nf3 e6 7. 0-0 まで) 

 

 本日は、なかなか量がありましたね。一度で覚えようとせず、何度も並べるのが、一番の上達への近道だと思います!

 最近、事務所の橘さんがタブレットにチェス盤のアプリを入れていて、なるほどなぁと思いました。チェスセットを持ち歩かなくても、いつでも検討したり並べたりできますからね。タブレットをお持ちの方は是非入れてみるといいのではないでしょうか。私も入れましたよ!

 

 今日のおたよりは……「ぼのこら太」さんからです。……ぼの……?

 

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 あの~、チェスGUIの使い方がいまいちわからないんですけど……

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 なるほど、チェスGUIを入れてみたけれど使い方がよくわからない、ということですね。これは、専門家をお呼びした方がいいのでしょうか。帰ったらプロデューサーに言ってみますね!何か企画になるかもしれません。

 

 今日紹介するのは……ニムゾビッチの言葉です。

――ピンされた駒の防御力は空想のものだ。

 これは本当ですね。端的にチェスのディフェンスを表現している言葉のひとつだと思います。エクスチェンジが目に見えているときや、相手がサクリファイスから強襲しようとしてきたとき、少し落ち着いて、ピンをして相手に手を戻させ、その隙に自陣の疵を消したり穴を補強したりする手順はないか、と思いめぐらせるようになると、もう中級~上級者だと思います。

 

 またお会いしましょう。綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)