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フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第1回Blitzトーナメント第1回戦第6ゲーム[工藤忍 vs 塩見周子](解説・鷺沢文香 / 聞き手・桃井あずき)

 

 

鷺沢文香「良い夜ですね、こんばんは。鷺沢文香です」

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桃井あずき「こーんばんはー!桃井あずきです!」

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あずき「今日は、Blitzトーナメントから第6ゲームの解説を、文香さんにお願いします!」

 

文香「えぇ、よろしくお願いします」

 

あずき「1回戦の残りは3枠ですかー、もうあずきたちは結果を知っているとはいえ、なかなか初戦から激しい戦いだったとあずきは思うんですけど、文香さんはどうでした?」

 

文香「そうですね……良いゲームが多くて、勉強になります」

 

あずき「文香さんは久々の公式レーティング戦ということですが、何か思うところとかありました?」

 

文香「……やはり、誰かとチェス盤を挟んで対戦するのは、深いところでお互いに手探りでわかり合おうとするような、尊い営みだと思いました」

 

あずき「そうなんですか、ありがとうございますっ。あずきも第8ゲーム、文香さんと芳乃さんのゲームを観てました!あれも凄かったですね、凝った研究だなぁって」

 

文香「あれ、やってみたかったのです。上手く指せたのは僥倖でした」

 

あずき「文香さんが実際にチェスの実戦をこなしているのを観るのは初めてだったので、ワクワクしましたっ。それでは、今日は解説ですけど、よろしくお願いします」

 

文香「はい、こちらこそ」

 

あずき「棋譜コメントは……ダークイルミネイトのお二人が付けてくれるみたいですねっ!」

 

文香「!?」

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(Figure.1 : 1. e4 d5と今、戦争の火ぶたが切って落とされたわ!勇敢なレギオン同士の一騎打ちよ!)

あずき「……これ、大丈夫なやつですかね?」

 

文香「……ぷ、プロデューサーが大丈夫だと思ったのなら、大丈夫なのでしょう……」

 

あずき「白番が忍ちゃんで、1. e4と突いた瞬間に、周子さんがd5と返しましたねーっ、用意の作戦だったんでしょうか!」

 

文香「そのようですね。センター・カウンターですか……スカンジナビアン・ディフェンスとも呼ばれているオープニングですね。一度、奏さんと対談したときに登場した覚えがあります」

 

あずき「あ、『ハリー・ポッター』のやつですね!あれは事務所外からの評価もとても高かったので覚えてますっ」

 

文香「……ありがとうございます。あれは奏さんのお力ひとつでしたが……」

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(Fig.2 : 2. ed c6 3. dc Nxc6とゲームが進んだ。彼女たちのセカイが交錯するのは、これが初めてだそうだ。心は、冷たく燃え上がっていることだろうね。彼女たちが、どんな光をボードの上に投げ掛けるのか、ボクの心はその光を見たがっているんだ。)

あずき「見事なまでに、中身に触れないコメントですねww」

 

文香「ンフッw……こういうコメントも、よいものですね。2. edの取り込みにもう一つポーンを損する2. ... c6は怖いですが、3手目にポーン・エクスチェンジを済ませた局面では、黒の1ポーン損ながら、クイーンファイルはセミオープンに、更に先んじて手順にナイトを活用して、互角を主張しているということでしょう」

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(Fig.3 : 4. Nc3 Bf5 5. Nf3 e5 6. Bb5 Bb4の進行ね!白の操り手は二頭立ての馬車で戦場を駆け、黒の操り手は二枚の漆黒の翼で飛び立ったわ!)

文香「チェスの評価値は、ポーンひとつを1.00点として形勢を判断しています。つまり、黒は今1つポーンを損しているので、純粋なピースの点数で言えば+1.00と白が有利なはずなのですが、コンピュータにこの局面を読み込ませても『+1.00』とは表示されないでしょう」

 

あずき「つまり、ポーンを損しながらもビショップを速攻でセンターに展開し、後手なのに仕掛けの主導権を手にしたこの局面は駒損よりも駒効率でカバーされている部分が大きい、ってことですか?」

 

文香「そうですね。ただ、白の6. Bb5のピンは機敏だったと思います。これで攻撃の権利が白の手に転がり込んできましたから」

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(Fig.4 : 7. Nxe5 Ne7 8. 0-0 0-0 9. Nxc6 Nxc6 10. Bxc6 bcと、セカイ線が移ろっていったね。一体、このセカイの鍵はどちらがイマ握っているのだろう。)

あずき「これはどうですか?」

 

文香「局面というよりは、忍さんが少し、電撃戦の呼吸に不慣れな印象を受けます。必要以上に持ち時間を意識しているためか、少し指し手が一貫性を欠く様な気がしまして……」

 

あずき「と、いうとどの辺でしょう」

 

文香「8. 0-0でしょうか。穏やかに指し回す作戦かとも思ったのですが、9. Nxc6とエクスチェンジに踏み切っている所を観ると、切るのは予定内だったようです。そうすると、黒がキャスリングをする前にBxc6+とチェックでビショップから切れば白は一貫して攻撃の権利を主張できたので、そう思ったまでですが……」

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(Fig.5 : 11. a3 Bxc3 12. dc Qxd1 13. Rxd1 Bxc2。息もつかせぬ漆黒の操り手の人形捌きよ!)

あずき「これは、クイーン・エクスチェンジをしたことによって黒にも結構楽しみが生まれた気がしますねっ」

 

文香「そうですね……しかし、まだ予断は許さぬ、といったところでしょうか」

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(Fig.6 : 14. Re1 Rfe8 15. Rxe8+ Rxe8 16. Be3 Bb3 17. Bxa7 Re2。立っている者が少なくなった戦場に、寂しさを含んだ風が吹き付けているね。少しずつ見えるようになってきた気がするよ。終局と、エンドゲームがね。)

文香「終局とエンドゲームは同じでは……?」

 

あずき「……」

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(Fig.7 : 18. f3 Rxb2 19. a4 Bc4 20. a5 Ba6 21. Rd1 h5 22. Bb6 f6と進んだわ!戦士たちの魂が、ヴァルハラへと旅立っていくようね……)

文香「22. Bb6はなかなか渋い手だと思います。a5まで進めたポーンと繋がって、黒のルークが自陣へと変えることを阻んでいるのですね」

 

あずき「次は23. Rd8+と走って、それで寄りますか?」

 

文香「簡単には寄らないでしょう。白は有利ですが、黒に上手く駒を切らされてしまった感じがあります」

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(Fig.8 : 23. g4 hg 24. fg Ra2 25. h4 Be2。あぁ、光が……見えないな……)

あずき「あら」

 

文香「まぁ」

 

あずき「これは先手に何か錯覚がありましたか」

 

文香「そのようですね、焦りは良い手を生みません。白のgポーンは攻防に利く、人体で言うと肝臓くらい価値のあるポーンなので、これを抜かれてしまうと厳しいですね……」

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(Fig.9 : 26. Rd8+ Kf7 27. Rd7+ Kg6 28. h5+ Kh7 29. Rd6 Bxg4ね。斜陽に舞う、片翼の堕天使の輪舞よ。)

あずき「忍ちゃんは残すところあと40秒ですかっ……キツいなぁ」

 

文香「後手に1分ほど残っていて、今の連続チェックで黒のキングが安全になってしまったのが、少し厳しいですが……」

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(Fig.10 :  30. Rxc6 Bxh5 31. c4 Be2 32. c5 Bb5 33. Rc7 Kg6 34. Ra7 f5か。ついに、黒のキングが動き出したようだな。もう孤独には戻れないのかもしれない。……出会ってしまったから。)

あずき「これは、白がa6と突いた瞬間にもうドロー宣言のような状態ですね」

 

文香「そうですね……そして、早晩、突かねばならぬ状況が来るでしょう」

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(Fig.11 : 35. a6 Rxa6 36. Rxa6 Bxa6 37. c6 f4 38. c7 Bb7 39. Bd4 Kf5 40. c8=Q+ Bxc8……果てしなき天空の階段……)

文香「こういうときは、わかっていても、40. c8=Rなど、『チェックにならない』手を考えてみたいものです。それが、絶望を見届けるチェス・プレイヤーに必要な気概だと思いますので……」

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(Fig.12 : 41. Bxg7 Ba6 42. Kf2 Bf1 43. Kxf1 f3 44. Kf2 Kf4と、ここで終局のようだ。今夜は深いな……)

あずき「協議ドローですか、二人とも、お疲れ様でした」

 

文香「ドローということで、黒番の周子さんの勝利になりました」

 

あずき「勝った周子さんは、2回戦でマキノさんと対戦だね!どうなるか、気になるなぁ。忍ちゃんは、惜しい試合でしたよね」

 

文香「そう、ですね。白にもチャンスは何度も巡って来ていたように思います。とても人間らしい、良いゲームでした。惜しみない拍手を」

 

あずき「はい!今日は、解説ありがとうございました。聞き手は、桃井あずきでした♥」

 

文香「解説は私、鷺沢文香がお送りしました」

 

あずき「またお会いしましょう!今度は、あずきのゲームかな?」

 

(続く)