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フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第1回Blitzトーナメント第1回戦第8ゲーム[依田芳乃 vs 鷺沢文香](解説・速水奏 / 聞き手・工藤忍)

 

藤忍「みなさん、こんばんは!工藤忍です」

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忍「今日は、Blitzトーナメントの1回戦第8ゲームの中継と解説をやるんだ。聞き手はアタシ、工藤忍が努めるよ。解説は、この方!」

 

速水奏「今日はよろしくね」

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忍「よろしくお願いします、奏さん!奏さんの解説がこんなに間近で聞けるなんて嬉しいなぁ」

 

奏「うふふ、なんだかんだ、私も解説は初めてね」

 

忍「今日奏さんと一緒に見ていくのは、芳乃さんと文香さんのゲームだね。文香さんがこうしてトーナメントに出るのは、アタシ初めて見ます」

 

奏「そうねぇ……なにか思うところでもあったのかしら?」

 

忍「文香さんがチェス相当強いのは、お仕事なんかを拝見しててなんとなくわかるんですけど、どのくらい強いんでしょう」

 

奏「そうねぇ……フレデリカのレッスンパートナーだった、っていえば少しは伝わるかしら……」

 

忍「?!」

 

奏「さ、VTRの用意が整ったみたい。始めていきましょう」

 

忍「あ、は、はい!棋譜コメントは……フレデリカさんが付けてくれるみたいです。よろしくお願いします」

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(Fig.1 : 1. d4 Nf6……これは、インディアン・ゲームだね~♪このイレギュラーというかマイナーだけど、手の広いオープニングから文香ちゃんがどんな構想でゲームを組み立てていくのは注目だよ~!)

忍「文香さんが実際にプレイするところ、初めて観ます。どんな戦型が得意、とかあるんですかね」

 

奏「文香?彼女はそうねぇ……正真正銘のオールラウンダーね。局面だけじゃなく、時間や相手の性格、心理状態なんかもひっくるめて、『読む力』に一番長けているのは、実際文香なんじゃないかしら」

 

忍「そうなんですか、ますますこのゲームが楽しみになってきましたね!」

 

奏「私もフレデリカがコメントしたように、この手が広いオープニングからどう文香が纏めて魅せてくれるのか、気になるわ」

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(Fig.2 :  2. c4 e6と進んだよ!おぉ!これはアレだね!ん~?あ、そっか!対局者の紹介とかするんだっけ!文香ちゃんはね~、序盤、中盤、終b)

奏「……しばらくコメントは観なくてもいいわね」

 

忍「アッハイ」

 

奏「黒の2手目e6と突いた形は、インディアン・ゲームの中でもイースト・インディアン・ディフェンスと呼ばれている形よ。アンチ・ニムゾ・インディアンやクイーンズ・ギャンビットに合流させるのが考えられるわね」

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(Fig.3 : 3. Nf3アンチ・ニムゾ・インディアン・ヴァリエーションに入ったよ~♪こうなると、たぶん黒番はシシケバブにするはず!)

忍「シシケバブ……?」

 

奏「……セミ・スラヴだと思うわ」

 

忍「あぁ、なるほど……先手の芳乃さんは、将棋が事務所では1, 2を争うくらい強いですけど、最近チェスも本格的に勉強し始めたと聞きました」

 

奏「そうらしいわね。将棋の経験値をどのように64マスのスクリーンに映し出してくれるのか、純粋に楽しみだわ」

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(Fig.4 : 3. ... d5とふみふみが突いたよ。二人は初手合い、だって芳乃ちゃんがチェスのレーティングがかかった対局をするのが初めてだもんね!)

忍「ふみふみ?」

 

奏「うん、ふみふみ」

 

忍「この形、見覚えがある局面です」

 

奏「そうでしょうね。ここで手順前後して、クイーンズ・ギャンビットからNf3とNf6に互いにナイトを跳ねた局面に合流したわ」

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(Fig.5 : 4. Nc3とよしのんがナイトを跳ねたところ♪二頭立て馬車みたいだよね~知ってる?馬車ってエコなんだよ~)

奏「これで、クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドのスリー・ナイト・ヴァリエーションに合流ね。観ての通り、3つのナイトが中央付近でにらみ合っているわ」

 

忍「文香さん、挙措挙動が静かだからうっかりすると忘れがちですが、ほとんど時間を使ってないですね……」

 

奏「そうね。このくらい、文香にとっては手癖ってことでしょ」

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(Fig.6 : 4. ... c6とcポーンを突いたふみふみ。その長い前髪に覆われた綺麗なブルーの目に、どのような世界の行く末を映しているのか。ねぇところで知ってる?馬車の続きなんだけど、いまのお馬さんって実は1馬力以上あるんだって!もう、フレちゃんびっくりしちゃってさ~!あ、ちなみに馬力って馬鹿力の略じゃないからね!)

奏「この局面で、セミ・スラヴに合流、ってわけね。いきなりセミ・スラヴに組もうとして回避される順を厭わしく思ったのかしら?」

 

忍「(棋譜コメを無視することに決めたんだ)」

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(Fig.7 : 5. Bg5 dc! わーお、これは激しくなるよ~♪控室では、『激しい手だねー、サイキョウセンだ!』との声が上がった)

奏「上がってるわけないじゃない……これBlitzよ。控室って何よ……」

 

忍「あの、解説を……」

 

奏「そうね。この黒の5手目dcの取り込みが、ふみふみがわざわざNf6からセミ・スラヴに組んだ理由だったってわけね。これが用意の作戦か、面白いわねこれ。たぶん、斬り合うなら6. e4 b6 7. e5 h6 8. Bh4 g5 9. Nxg5 hg 10. Bxg5までは行くんじゃないかしら。クイーンズ・ゲームの序盤でここまで激しい斬り合いもかなり珍しいわ」

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(Fig.8 : 6. e4 b6 7. e5 h6 8. Bh4 g5 9. Nxg5 hg 10. Bxg5と奏ちゃんが読んだ通りに一直線に斬り合って、ふみふみふみが10. ... Be7とキングサイドにキャスリングの権利を手にしながら、バッテリーを組んで白のBg5に対しての受けを用意したよ!)

忍「ふみふみふみ?」

 

奏「ふみふみふみ」

 

忍「これはNbd7ではダメだったんですか?」

 

奏「ダメってことはないでしょう、むしろありそうだわ。でも、こちらの方が如何にも手堅く受けるふみふみふみふみらしい手でしょう?目には目を、ビショップにはビショップを……等価のエクスチェンジから手順にクイーンを展開するつもりね。キャスリングを見せて揺さぶったり……油断ならないわね」

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(Fig.9 :  11. ef Bxf6 12. Bxf6 Qxf6。手順にクイーンを出て、まだまだ激しくいけそうなフンイキ!)

忍「これはリズムとしては白から攻めを繋げないと、ここで局面を落ち着けられると攻め損な感じですか」

 

奏「いい大局観ね。だから13. Bxc4と飛んでくるんじゃないかしら。キャスリングもできるようになるし。ただ、白としてはキャスリングの前にクイーンを展開しておかないと、黒に立ち遅れる可能性があるわね」

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(Fig.10 : 13. Bxc4 Bb7 14. Qe2 Qg5 15. O-O Nd7と進んで、黒は両サイドどちらにもキャスリングができるようになったのが気になるね!ふたご座のあなたは、オポジットキャスリングが観られたらイイコトあるかも!)

忍「イイコトあるんですか?」

 

奏「知らないわ」

 

忍「14. Qe2とクイーンを出したところでは、白もどちらにもキャスリングできたと思うんですけど」

 

奏「そうね。それを見越しての13. ... Bb7~14. ... Qg5だったのでしょう。白がロングサイド・キャスリングを選ぶなら、即座にキングサイドに攻めかかる姿勢を見せたってわけよ。先手としては文香ペースでやりにくいわね。13手目、黒は別にフィアンケットに組む必要ないじゃない?寧ろ、13. ... Ba6とか見せて白の攻め手を束縛するのもこの局面の黒が持つ権利だと思うの。それをしなかったからには、狙っていたはずよ。直線的な展開が多い、研究が生きるような作戦だわ」

 

忍「これ、1回戦で披露してもよかったのでしょうか。もっと、大一番でいきなり見せてもいいくらいだったんじゃ……」

 

奏「あの子は、読むことを楽しめればそれでいいのよ。もしかすると、彼女が勝ちするんだら、だけど。私たちはこのトーナメントで何度もこの黒の指し方を見るかもしれないわ」

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(Fig.11 : 16. Ne4 Qe7 17. f4 0-0-0 18. Rfd1 Nf6 19. Nxf6 Qxf6と進んで、このQxf6が白のd4のポーンへ利きを足しているんだね~、攻撃のイニシアチブを黒が握って、これはセミスラブとしてはいい展開だと思うよ)

奏「ときどき的を射たコメントをしてくるから、ムカつくわw」

 

忍「まぁまぁ……」

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(Fig.12 : 20. Qf2 Kb8 21. f5 Qh6 22. Qg3+ Ka8とふみふみは緩急自在だね)

忍「これを狭いとみるか堅いとみるかは、白の力量次第ですね」

 

奏「そうねぇ……あとは黒のaポーンの使い方次第、かしら」

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(Fig.13 : 23. Qh3 Qg5 24. Qg3 Qxf5 25. Bd3 Qf6 26. Qf2 Qxf2+ 27. Kxf2 Rxd4の進行かー。白のクイーンをぶつけをはぐらかしてきた黒が、Qf2の瞬間に切ったのがいいね!)

忍「これは、結局白はいつでもクイーン・エクスチェンジに応じてもよかったが、それがチェックで入ってキングが引きずり出せる瞬間に切った、ということですか?解説の速水先生」

 

奏「そういうことでしょうね。で、手番を握り続けてRxd4と大砲発射、と。28. Bc2と引いたときにルークをどう使うのかしら」

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(Fig.14 : 28. Bc2 Rb4 29. b3 c5 30. Rd2 Rbh4 31. h3 Rg8 32. Rg1 Bd5と進んだよ~♪文香ちゃんのルークに白の陣地が右往左往してるね)

奏「c5をついてフィアンケットしたビショップのダイアゴナルを通すタイミングがばっちりね」

 

忍「最後の32. ... Bd5はどういう手ですか?」

 

奏「e6~Bd5がつながって、dファイルから飛び込んで黒のキングに肉薄したいルークの進路を阻んだのね。なおかつ利きをロング・ダイアゴナルから外さない、プロブレムのような手だわ。この手で白のルークが無力化されるのよ」

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(Fig.15 : 33. Rxd5 ed 34. Rd1 Rf4+ 35. Ke3 Rd4 36. Rxd4 cd+ 37. Kxd4 Rxg2と進んだね~。黒の駒得がはっきりしてきたかなぁってところかな?)

忍「持ち時間は……白が2分に黒が1分くらいか。」

 

奏「あとは盤面と心の整理ね。」

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(Fig.16 : 38. Bb1 Rd2+ 39. Kc3 Rh2 40. Kd4 Rxh3 41. Kxd5 Kb8 42. Be4 Rh2 43. a4 Rd2+かぁ~、辛い、か~ら~い~ぞ~)

忍「なんでしたっけ、これ」

 

奏「『ミスター味っ子』、じゃないかしら。はっきり劣勢でも、簡単には盤を割らない芳乃ちゃん。こういうスタンスは、ゲームの結果に関わらず、人の心を搏って、ファンを増やすわね」

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(Fig.17 : 44. Ke5 Kc7 45. Bd5 f6+  6. Ke6 f5 47. Ke5 f4 48. Bf3 Rd3と進んだよ)

奏「48. Bf3は苦しいわね。このfポーンが取れなかったのがすごく痛い」

 

忍「48. ... Rd3がビショップとポーンの両方に当たっているのがまた巧いですね……あ、今先手がキングを倒しましたね」

 

 

奏「ここからはまだまだ粘ろうと思えば粘れそうだけれども、次にbポーンを抜かれると、厳しいわね。いずれ黒はaファイルにパスポーンを手にして、これがゆっくりプロモーションのが間に合うわ。白はキングとビショップしかないからね。持ち時間も差がついて、これは黒必勝でしょう」

 

忍「両対局者とも、お疲れ様でした。激戦でしたね。後手の意欲的な序盤からの構想が面白いゲームでした」

 

奏「それにしても、こんなにクイーンズ・ゲームで激しくなる順もあるのねぇ……よく見つけたものだわ」

 

忍「そうですね。勝った文香さんは、2回戦第6ゲームで……穂乃香ちゃんと対戦ですか!」

 

奏「先後はまだ決まってないのね。注目のゲームのひとつだわ」

 

忍「アタシは初戦負けだったから、良いゲームを見るとちょっと複雑な気持ちになるな……でも、腐ってもしょうがない!もっと勉強して、次に活かすんだ」

 

奏「それが貴女の良いところ、ね。今日の解説は、私、速水奏がお送りしたわ」

 

忍「聞き手を務めたのは、工藤忍でした。またお会いしましょ!」

 

(続く)