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愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第6回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[オープン・ゲーム > キングズ・ギャンビット]

 

 こんばんは。綾瀬穂乃香です。

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 6回目の、『早わかり講座』始めていきたいと思います。

 シシリアンの手の意味を考え、そこから流れを考えていただき……というところか少しずつステップアップして、遂に6回目ですね!いきなり説明しても難しい、チェスの『手の損得』や『駒の損得』だったり、イタリアン・ゲームとジオッコ・ピアノではどうしてビショップの位置が1マス違うのか、それぞれ1マスの違いがどのように後々の展開に響いて来るのか……などを一緒に考える所まで来ましたね!それを踏まえてバリエーションが最も多岐に渡るオープニングのひとつであるルイ・ロペスを前々回から2回は観たのでしたね。

 

 今日は、前々回、前回と同じくオープンゲーム(1. e4 e5)に始まるオープニングの中から、キングズ・ギャンビットと呼ばれるものを一緒にやって行きましょうね。

 

 キングズ・ギャンビットはオープンゲームから2. f4と白からfポーンを突いていきなりぶつける好戦的なオープニングですね。イニシアティヴが握りやすい、とても攻撃的なオープニングだと思います。ぐいぐい自分から行きたい、攻めッ気の強い方にはお薦めです。

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(Figure.1 King's Gambit : Open Game ~ 2. f4)

 最近では、フレデリカさんが4面指しをした企画で、フレデリカさんがあずきさんい仕掛けたのがキングズ・ギャンビットでしたね。

 

 ここで、ギャンビット、という言葉について少し整理しておきましょうか。

 ギャンビット(Gambit)というのは、チェスのタクティクスのひとつに分類されるもので、ポーンを損しながら他の面で得しよう、という思惑でポーンをぶつけることを言います。特に、定跡化されたものをそう呼ぶようで、新手にはギャンビットという語は使われない様な気がします。もちろん、そのムーブの有用性が認められて定跡化すれば、それはたとえば『ぴにゃこら太・ギャンビット』のように、新しい名前がついたオープニングになる可能性はありますよね!

 この『他の面での得』というのは、どういったものがあると思いますか?

 まず、こんな場面はどうでしょう。

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(Fig.1.1 : 1. c5とポーンをぶつけたところ)

 この局面では、1. ... dcと相手が取り込んでくれれば、白は確かにポーンをひとつ損しますが、それ以上にdファイルがオープンになり、d1のルークが相手のキングを狙えるようになりますね。このとき、ルークが動いたわけじゃないことに注目してもらいたいんです。動かしたのはポーンなのに、結果的にルークの働きがよくなっていませんか?『相手にポーンを取らせることによって、自分のピースの効率が上がる』場合というのはギャンビットのメリット1つ目です。

 次の場合はどうでしょうか。

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(Fig.1.2 : 1. e5とポーンをぶつけたところ)

 これは1. ... feと取り込んでくれればすぐさま2. Rxe5+とルークを走るのを目的にぶつけたポーンですよね。『相手にポーンを取らせ、その取ったピースを取り返しにいくことで手順に自分のピースが展開できる』というのが、ギャンビットの2つ目の利点だと言えましょう。

 少し高度ですが、こんなギャンビットもありますね。

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(Fig.1.3 : 1. b5とぶつけた局面)

 この局面は今作った例ですが、こうやって自分の端に近いファイルに居るポーンを、相手のセンターに近いポーンで取り込ませることで、相対的に自分のピースが相手のセンターへの脅威になるようなギャンビットもあるんです。相手陣の風通しがよくなる、といった感じでしょうか。ピースを取る際にはポーンは斜めに動く、というのを逆用して、相手のポーンを戦場から遠ざけるという感覚ですね。

 

 さて、それでは、今度は自分がギャンビットを仕掛けられたと考えてみましょう。

 相手は得てして、ポーンを損しながら何か他の方法で優位を取ろうと考えて、ポーンをぶつけてきているのですよね。その上で、3つの返事の仕方があるんじゃないでしょうか。

 まず、1.敢えて取る(アクセプテッド)、次に2.敢えて取らない(ディクラインド)、そして3.逆にギャンビットを仕掛ける(カウンター・ギャンビット)の3つです。

 

 少し長くなりましたか、それでは今日の本題に入りましょう。今私が言ったことを少しだけ頭に留めて、一緒にピースを動かして貰えたら嬉しいです。

 キングズ・ギャンビットは第13代チャンピオン、ボリス・スパスキーが得意としていることでも有名ですね。

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(再掲Fig.1 King's Gambit)

 手番は黒ですね。ぶつけられた側としては、ギャンビットを観たらどのように返事を考えるんでしたっけ……?

 そうですね。3パターンありました。それぞれの応手により、キングズ・ギャンビットというオープニングはここでまず大きく分岐します。ひとつずつ観ていきましょうか。

 

1.敢えて取る(アクセプテッド)

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(Fig.2 King's Gambit Accepted : King's Gambit ~ 2. ... ef)

 2. ... efと取ると、これはキングズ・ギャンビット・アクセプテッドと呼ばれる形になります。フレデリカーあずき戦のオッズゲームは下手のあずきさんが取ったのでこの戦型になりました。

 白の3手目は3. Nf3, Bc4, Nc3, Qf3それからBe2などがありますね。

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(Fig.2.1 King's Knight Gambit : King's Gambit Accepted ~ 3. Nf3)

 3. Nf3はキングズ・ナイト・ギャンビットと呼ばれます。フレデリカーあずき戦ではここから3. ... g5 4. Bc4 Bg7 5. d4 d6 6. Qd3 c6 7. h4 h6……と進行しましたね。他に、今は例えば3. ... g5 4. Bc4に4. ... g4と進め、以下5. 0-0 gf 6. Qxf3 Qf6 7. e5 Qxe5 8. d3 Bh6 9. Nc3 Ne7 10. Bd2 Nbc6 11.Rae1という流れも見ますね。ちなみに5. 0-0まででムツィオ・ギャンビットと呼ばれます。

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(Fig.2.1.1 : 11. Rae1まで)

 白は駒損していますが、陣形の展開がとてもいいため互角です。このように、キングズ・ギャンビット・アクセプテッドは乱戦模様になりやすい戦型と言えます。

 なお、黒が3手目に代えてd6と指すのはフィッシャー・ディフェンスと言われる形です。ボビー・フィッシャーがスパスキーのキングズ・ギャンビットに対して編み出した対抗です。

 

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(Fig.2.2 King's Bishop Gambit : King's Gambit Accepted ~ 3. Bc4)

 3. Bc4と出るのはキングズ・ビショップ・ギャンビットと呼ばれる形です。この盤面を見て気になるのは3. ... Qh4+とクイーンがチェックで出て来る筋ですよね。これはやっておきましょうか。

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(Fig.2.2.1 : Fig.2.2 ~ 3. ... Qh4+ まで)

 これには、4. Kf1と避けるのが定跡です。というか、それ以外に手がないんですね。4. g3は直ちに4. ... fgとされて黒必勝形ですからね。白はキャスリングが出来なくなる替わりに、黒は早々にクイーンを端に使った為に、どこかでクイーンを戻す手を指さなければならなくなります。これで形勢のバランスは取れている、というのが目下の見解ですね。逆に言うと、現代チェスではキャスリングと同じくらい、効率のいいクイーン展開は価値が高いと目されている、とも言えるでしょうか。

 

2.敢えて取らない(ディクラインド)

 これは、黒からアクセプテッドもしなければカウンター・ギャンビットもしない変化の総称です。

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(Fig.3.1 : 2. ... Bc5)

 fポーンを突いているので、Bc5とビショップを出る手はf2を貫通し遠くg1のナイトまでを睨むことになりますね。この変化の一例は3. Nf3 d6 4. Nc3 Nf6 5. Bc4 Nc6 6. d3 Bg4 7. h3 Bxf3 8. Qxf3でしょうか。

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(Fig.3.1.1 : 8. Qxf3 まで)

 2. ... Bc5に代えて単にd6と出る手もありますね。3. Nc3やd3, d4どの手も考えられますが、アクセプテッドと比べると落ち着いたゲーム運びになります。

 

3.逆にギャンビットを仕掛ける(カウンター・ギャンビット)

 ファルクビア・カウンター・ギャンビットと呼ばれる、白から仕掛けた瞬間に黒がギャンビットを返すオープニングです。2. f4に対し2. ... d5と黒からもポーンをぶつけます。

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(Fig.4 Falkbeer Counter Gambit : King's Gambit ~ 4. d5)

 この戦型は激しいのですが、序盤に激しくいくとクイーン・エクスチェンジが起こり結果としてドローに陥りやすくなります。なので、白がこの戦型で戦う際に最も気を付けるべきはそこですね。といっても、コレハカウンターギャンビットなので黒に権利がありますから、ドロー上等の黒番ならばキングズ・ギャンビットへの対処として知っていてもいいかと思います。

 ラインの例は、3. ed e4 4. Nc3 Nf6 5. Bc4 Bc5 6. Nge2 0-0 7. d4 ed e.p. 8. Qxd3 c6が一例ですね。

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(Fig.4.1 : 8. ... c6 まで)

 黒からキャスリングに入っている点など、注目したいですね。最も、白はBc5がいる限りキャスリングできないのですが。カウンター・ギャンビットでぶつけたdポーンの為に、fポーンが黒マス黒ビショップのダイアゴナルを切れないことを逆手に取りながら白のキャスリングの妨害が可能になったんですね。

 

 今日紹介するのは、以上です。キングズ・ギャンビットは力戦調になるので、そこが楽しいと言う人もいれば、あまり持ちたくない、という人もいる、両極端な戦型だと思います。

 

 メールを読ませてもらいますね。

ぴにゃンケット・バリエーション』さんからです。

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穂乃香さんはグイグイ行く派ですか?

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 私ですか?私は、うーん、どちらかというと、相手の手に乗ってピースを捌きたいタイプですかね。え?チェスの話ですよね??

 

 今日の言葉ですが……今日は、個人的にこれを紹介したいんです。ボビー・フィッシャーが2004年に成田空港で拘束された際に、ボリス・スパスキーがブッシュ大統領へと嘆願した文書の一部です。

――私を逮捕してボビーと同じ部屋に入れてください。チェスの道具と一緒に。

 キングズ・ギャンビットとスパスキー、そしてフィッシャーは切っても切れぬ存在ですが、私はその関係を適切に言い表せるような言葉を知りません。ただ、盤上の上に彼らの友好を超えた感情の一部でも落ちてないかと、今日もピースを並べるだけです。またお会いしましょうね、綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)