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フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第5回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[オープン・ゲーム > ルイ・ロペス>その他の変化]

 

 おはようございます。綾瀬穂乃香です。

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 えーと、はい。第5回目の、『綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座』ですね。始めていきましょうか。

 1. e4 e5に始まるゲーム展開にも、みなさん少しずつ慣れて来たのではないでしょうか。そういえば、この前のフレデリカさんとアナスタシアさんのゲームは1. e4 e6と少し変わり種な、フレンチ・ディフェンスでしたね。いずれ私のこのコーナーでも取り上げたいと思っていたオープニングでしたが、3. Nd2からの展開に実質あの二人でひとつの結論を出してしまったのが、あのゲームだと思います。もう少し、みなさんの記憶が風化されてきたときに、やりたいものですね。

 アナスタシアさんといえば、あの激闘と疲弊の第5ラウンドが終わった後、調子を崩されて寝込んだのは意外にも3勝2分けで五番勝負を収めたアナスタシアさんの方だったとか。チェスが強いといえど、中身は繊細な15歳の少女なんですよね。彼女はあの勝負で魅せたクールな指し回しとそれを支える熱いパッション、それから少しお茶目でキュートな人柄で、どんどん事務所に溶け込んでいるように見えます。最近では、美波さんやダークイルミネイトのお二人にチェスを教えてあげたり、また柚ちゃんと研究会をしている姿をお見かけしますね。

 

 そろそろ、今日の本題へと入って行きましょうか。

 私たちはこれまでのこの講座で、

・カロ・カン・ディフェンス

・ジオッコ・ピアノ

・ルイ・ロペス・コロンブス・ヴァリエーション

 をやりましたよね。現在世界中で、この瞬間も幾百幾千のチェス・ゲームが指されているわけですが、オープニングは多岐に渡ります。分岐を含めれば厖大な量です。この物量の問題と、他国の言葉で情報が氾濫している現状が敷居を高めてしまっているきらいもあるかな、ということで、私の講座では優先的に『比較的多く指される形』を取り上げてきているのですが、この3つだけでも相当に戦えると思いますし、ただ覚えるのでなく、どういう風に考えて手を紡いで行ってその戦型が洗練されていったのか、をいっしょに考えて貰っているので、知らないオープニングを相手にぶつけられても何もできずに負けてしまう、ということもないのでは、と穂乃香思いますね。みなさんとチェスをしているこの時間が、私は好きですよ。

 今日ご紹介するのは、前回に引き続いて『ルイ・ロペス』ですが、その中でコロンブス・ヴァリエーション以外の変化オープニングを纏めようと思っています。黒番の3手目が既に手の広い局面で、分岐が多数あるという話は前回しましたね。書き出してみると、こんな感じでしょうか。

 オープン・ゲーム(1. e4 e5)

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(Fig.1 Open Game : 1. e4 e5)

>ルイ・ロペス(2. Nf3 Nc6 3.Bb5)

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(Fig.2  Ruy Lopez : Open Game ~ 2. Nf3 Nc6 3. Bb5)

>(1)モーフィー・ディフェンス(3. ... a4)>エクスチェンジ・ヴァリエーション(4. Bxc6)

  (2)バード・ディフェンス(3. ... Nd4)

  (3)クラシカル・ディフェンス(3. ... Bc5)

  (4)フィアンケット・ヴァリエーション(3. ... g6)

  (5)ベルリン・ディフェンス(3. ... Nf6)

  (6)シュリーマン・ディフェンス(3. ... f5)

  (7)シュタイニッツ・ディフェンス(3. ... d6)

  (8)コツィオ・ディフェンス(3. ... Nge7)

 

 (1)~(8)が、今日の予定ですね。(1)だけは、モーフィー・ディフェンスの1変化なので、前回の続きとなっています。今日はやることが多いですね。始めましょうか。

 

(1)エクスチェンジ・ヴァリエーション

 これは3. ... a4とaポーンを突いてビショップの位置を訊ねるモーフィー・ディフェンスの1変化ですね。

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(Fig.3 Morphy Defense : Ruy Lopez ~ 3. ... a4)

 ここでビショップを逃げる手は手の損得を考えるとBa4しかない、と言う話を前回しましたが、『逃げない』という選択肢もあるんですね。そもそもこのビショップを出る3. Bb4という手はc6のナイトを攻めに来ているわけなので、このタイミングでビショップとナイトをエクスチェンジしてしまう、という考えも一理あるわけです。これが、3. Bb4 a4に4. Bxc6といきなりピースを切る『エクスチェンジ・ヴァリエーション』です。

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(Fig.3.1 Exchange Variation : Morphy Defense ~ 4. Bxc6)

 白からすると、ビショップとナイトの交換は点数的に互角と見て、その上で相手の陣形を乱しながら自分だけはキャスリングの権利を手中に収めている、という局面でしょうか。以前手番も白番が握り続けていますしね。

 黒の応手ですが、手抜くというのは、手抜いて指すべき手が見当たらない以上難しいですね。これは取るべきですが、取り方は4. ... bc/dcと2通りありますね。考えてみると1通りに限定出来ると思うのですが、私と一緒に盤面を観ながら考えてみましょうか。

 まず4. ... bcからです。

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(Fig.3.2.1 : Exchange Variation ~ 4. ... bcの変化)

 これは5. d4とぶつけ、5. ... edと取り込ませてから6. Qxd4とクイーンを手順に走って展開し、eファイルをセミオープンにした白が序盤に大きく指しやすさを得そうで、黒不満ですね。

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(Fig.3.2.1.1 : Fig.3.2.1 ~ 5. d4 ed 6. Qxd4 まで)

 なので、本筋は4. ... dcになります。

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(Fig.3.2.2 : Exchange Variation ~ 4. ... dcの変化)

 このときに、白はビショップを早々に切ることを代償に、黒のピース展開に必須の右ナイトをショウダウン、ダブルポーンを強いてよし、という感覚なのですねぇ。ここで白はキャスリングをして良さを求める5. 0-0か、激しく行くなら5. d4とdポーンを突いて黒のセンター・ポーンにぶつけに行く手なんかが考えられます。両方、一例を浚うと、

 まず5. 0-0の変化で、5. 0-0 Bg4

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6. h3 h5! 7. d3 Qf6 8. Be3 Bxf3

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9. Qxf3 Qxf3 10. gf Bd6

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というのがあるでしょうか。なかなか激しい勝負ですね。

  次に5. d4からをみてみますと、

5. d4 ed 6. Qxd4 Qxd4 7. Nxd4 Bd7 8. Be3 0-0-0

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という流れもあるでしょうか。クイーンサイド・キャスリングはキングが戦場に近いというデメリットもありますが、ルークも戦場に近く使えるので、双方の力量が問われますね。

 いずれにせよ、序盤早々にマイナーピース同士の交換に収まらずクイーンの衝突まで始まる、過激な手順に進みやすいオープニングだと思います。しかも、相手の手まである程度限定できるので、研究はしやすいかもしれませんね。イメージですが、アーニャさんが好きそうです。私はもう少し落ち着いて自分のリズムが組める序盤が好きです。

 

(2)バード・ディフェンス

  これもかなり指されている変化ですね。3. Bb5とビショップを出る手に対していきなりビショップに責められたナイトを跳ね3. ... Nd4とナイトで両取りを掛けます。

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(Fig.4 Bird's Defense : Ruy Lopez ~ 3. ... Nd4)

 以下は4. Nxd4, 4. Ba4, 4. Bc4という手が考えられますね。4. Bc4は本来1手で出てイタリアン・ゲームにすればよかったのに……という感触の手に見えますか?

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(Fig.4.1 : Fig.4 ~ 4. Bc4)

 しかし、4. ... Nxf3+と黒がナイトを取り込む手は、5. Qxf3と手順にクイーンが展開できます。他の手では黒はこのdファイルのナイトの活用が難しい、とのことで、手損で引いても白には良さがある、という主張ですね。相手の一番弱いポーンを狙ってもいますし、攻めっ気というよりはやや老獪な手と言えるでしょうか。この辺りの損得は非常に難しいので、もちろんプレイヤーの中には4. Bc4と手損をするくらいなら4. Ba4と引いた方が良い、という感覚の人も少なからずいて、どちらもある手だと思いますよ。

 ちなみに、初手で1. f4と突くオープニングは『バード・オープニング』というんですよ。イギリスのチェスプレイヤー、バード氏の名前が冠されているんですね。ヴァリエーションの中でシシリアン・ディフェンスが先後逆転で出てきたり、と興味深いオープニングのひとつです。

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(Fig.4.2 Bird's Opening : 1. f4)

(3)クラシカル・ディフェンス

  クラシカル・ディフェンスは3. Bb5に対して3. ... Bc5と出ることで発動しますね。

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(Fig.5 Classical Defense : Ruy Lopez ~ 3. ... Bc5)

 復習ですよ、みなさん!このc5に出て来たビショップの意味はなんでしょうか?

 そうです!fポーンというのは初期配置ではキングにしか支えられていない弱点でしたね。手を変えているのは白番先手ですが、変則ジオッコ・ピアノとでもいえましょうか。

 ここで次の手をいっしょに考えてみましょう。4. Nxe5という手はどうでしょう?

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(Fig.5.1.1 : Classical Defense ~ 4. Nxe5)

 これは、4. ... Nxe5と取り返してきた手に対して5. d4とポーン・フォークを掛けることを狙いとしたハメ手です。

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(Fig.5.1.2 : Fig.5.1.1 ~ 4. ... Nxe5 5. d4 まで)

 ポーンが2マス進めることを忘れちゃだめですよ。今日の穂乃香とのお約束です。

 これは有名なハメ手ですが、ちゃんと黒番には回避する策があります。それが、代えての4. ... Nd4ですね。5. Bc4に5. ... Qg5と出て黒番優勢です。

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(Fig.5.1.3 : Fig.5.1.1 ~ 4. ... Nd4 5.Bc4 Qg3 まで)

 両狙いが厳しいですね。『エンドゲームを学ぶことはチェスを学ぶこと』という名言を残したプレイヤーがいましたが、ハメ手を学ぶことはチェスを学ぶことだと思います。

 ではクラシカル・ディフェンスの4手目は何が良いでしょう?とすると、4. c34. 0-0と目先の利を急がず確実な手に帰ってきますね。c3はNd4と黒のナイトが跳ねる余地を消しながらクイーン展開とセンターコントロールを図っています。由緒ある形ですので、変化はかなり先まで研究されていますね。

 

(4)フィアンケット・ディフェンス

 これは3. ... g6と指す受け方のことです。

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(Fig.6 Fianchetto Defense : Ruy Lopez ~ 3. g6)

 元世界チャンプのワシリー・スミスロフが得意とした形です。彼は非常に穏健な棋風と長い棋力の維持で知られていますね。穏健といっても消極的な訳では無いので、『格調高い』とでも言うのでしょうか。ミハイル・ボトヴィニクと全盛期が被ったので、「ボドヴィニクがいなければ非常に長くチャンプの座を持っていただろう」と言われています。気力の絶頂期が長かったというのは、62歳の時に世界チャンプへの挑決に進んでチェス界を沸かせたことでもよくわかりますね。対戦相手は42歳年下のガルリ・カスパロフでした。

 これはフィアンケット・ディフェンスの名前の通り、4. ... Bg7のフィアンケットを速攻狙っている手です。このタクティクス自体は咎められない、と云う点で将棋の85飛戦法に少し似た概念かもしれませんね。考えられる白の4手目は4. 0-0, 4.c3, それから4. Bxc6でしょうか。私は4. 0-0とキャスリングをしてからRe1と使って、黒のfeと取り込む構想を逆用する展開にするのが好きですね。

(5)ベルリン・ディフェンス

  3. ... Nf6がベルリン・ディフェンスと呼ばれている形です。

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(Fig.7 Berlin Defense : Ruy Lopez ~ 3. ... Nf6)

 4手目のキャスリングというのは計算上最速のキャスリングです。そしてこの権利を手にする白が圧倒的短手数で勝つ先例が多い気がしますね。最速のチェックメイトは8手目でしょうか。4. 0-0 Nxe4 5. Re1 Nd6 6. Nxe5 Be7 7. Qh5と進めて、これが8. Qxf7#を狙っているんです。 

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(Fig.7.1 穂乃香の説明した進行 : 7. Qh5まで) 

 なので最近のチェスであまり見ることはないですが……研究してみる価値はあるかもしれませんね。開発の打ち切られた鉱山と言うことで、なにか鉱脈が眠っていないとは誰にも言えないと思います。

 

(6)シュリーマン・ディフェンス

  シュリーマン・ディフェンスは3. ... f5の突き出しによって類別されますね。

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(Fig.8 Schliemann Defense / Jaenisch Gambit : Ruy Lopez ~ 3. ... f5)

 これも白が有利な展開になりやすいですが、ひとつだけ。注意すべき筋がありますね。それが、4. d4です。これを突いてしまうと、以下4. … fe 5. Nxe5 Nxe5 6. de c6 7. Be2 Qa5+と手順にチェックでクイーンを出られて白がまずいです。次にeポーンも一掃されますしね。

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(Fig.8.1 穂乃香の説明する展開 : 7. ... Qa5+ まで)

 なので、それ以外ですと白の4手目はd3Nc3でしょうか。私としては、あまりやる気のしない形です。

 

(7)シュタイニッツ・ディフェンス

  3. ... d6がシュタイニッツ・ディフェンスを特徴づけるムーブですね。ヴィルヘルム・シュタイニッツが好んで指した形と言われています。

 

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(Fig.9 Steinitz Defense : Ruy Lopez ~ 3. ... d6)

 dポーンを突いたということで、狙いは次の4. ... Bd7です。Bb5と白がビショップを出るのに対して価値が同じピースを合わせるという手筋ですね。4. d4 Bd7 5. Nc3と進むと黒には5手目にed, g6, そしてNf6と手が広い局面になります。前二つのヴァリエーションよりはこちらの方が黒としてはやる気の出る展開になりそうですね。

 

(8)コツィオ・ディフェンス

 本日最後に紹介するのは、3. ... Nge7とナイトを跳ねるコツィオ・ディフェンスです。17世紀イタリアのチェス・プレイヤー、カルロ・コツィオにちなむ名称です。

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(Fig.10 Cozio Defense : Ruy Lopez ~ 3. ... Nge7)

 対する白はc3, d4, もちろん0-0という手もありますね。黒からするとポーンをぶつけることなくセンターにピースの利きを足し、さらにキャスリングを急いだ手と言えましょうか。

 

 これで、今日紹介するのはおしまいです。

 メールを読む時間ですね。

あいさんの口紅になりたい」さんからです。あいさんのラジオを聴いて下さった方からでしょうか……?

 

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こんにちは。チェスのオープニングの勉強方法について質問です。

穂乃香さんは、オープニングを勉強する上でまず何をすべきだと思いますか。

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 そうですねー。オープニングっていっぱいありますものね。バレエもそうですが、チェスも一朝一夕でどうなるものではないと思います。

 まずは目標を立てましょうか。私が立てたのは、

 1. 自分が白番のときに何を指すか

 2. 自分が黒番で相手の初手が1. e4に対して何を指すか

 3. 自分が黒番で相手の初手が1. d4に対して何を指すか

この3つをまずクリアしよう、という目標を立てましたね。オープニングは、好きなものを繰り返し並べるのもいいですが、色んなものを試してみるのもいいと思います。そのときに、漫然とピースの動きを追うだけでも絶対プラスにはなると思いますが、1手1手の意味を考えてみるとなお良いんじゃないでしょうか。自分の動きに対して、自分でもわかってないことって結構あるものですからね。

 ……こんな感じで、お役に立てましたか?

 

 少し長くなりましたが、お別れの時間がやってきましたね。

 今日紹介したいのは、ペトロシアンの、

――運に頼る人はトランプかルーレットをやった方がいい。チェスは全く違う何かである。

という言葉ですね。チェスは精密な知性の芸術にして、戦っている相手は実は盤面を挟んだ相手ではなく、自分自身の限界なのではないかと思うことがたびたびあります。奥が深い世界、私と一緒にもっといろいろ、見て回りませんか?

 

(続く)