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愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

大盤解説会場・夕(Anastasia v.s. Frederica Miyamoto, 5R)

 

北条加蓮「じゃ、やっていこうか。両方もうそろそろ、最初に与えられた120分を使い切りそうだね。といっても、あと7手で40手に達するか」

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速水奏「そうね。ここからは、解説を加蓮に任せて、私は聞き手に徹するわ」

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加蓮「体力持つかなぁ」

 

奏「大丈夫でしょ、たぶん。……大丈夫よね?」

 

加蓮「アッハハ、たぶんね」

 

奏「加蓮は現局面からどう読むのかしら?」

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(Fig.0 : 現局面)

加蓮「ここでしょ?えーと、33. Kh2 h5 34. Kg3にどうするんだろ。アタシなら34. ... Rh8と回ってみたりしたいけど

 

奏「hファイルからするする出て来るキングに圧力を掛けるのね」

32. Kh2 h5 34. Kg3 g5 35. Rb4 Ke7 36. Rxb8 h4+

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(Fig.1 : g5~h4で出て来たキングをダイレクトに攻めるフレデリカ)

加蓮「こっちの方が速いって見たんだ。なるほどねぇ。36. Rxb8は一度手抜いてチェックを入れながらポーンを前進させておくわけか」

 

奏「35. ... Ke7はよくわからないフレデリカ一流の手ね」

 

加蓮「たぶん、しばらく一直線に斬り合うはずだよ」

37. Kf2 Rxb8 38. Re3 Rb4 39. Rxb3 Rf4+ 40. Ke3

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(Fig.2 : 長いエンドゲームが幕を開けた。)

加蓮「うっわー。怖っ。ふたりともガチだよこれ」

 

奏「駒割りは互角……か」

 

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アナスタシア(よく、食らいついてきますね。……どこかアーニャに、落ち度が……?いや、それより今はこの一戦のことを……)

 

フレデリカ(味方がバタバタと倒れ、視界が開けた戦場。活路を見いだせ、アタシ) スッ

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40. ... Kd6 

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(Fig.3 : ここで40手目。両者に60分の持ち時間が追加される)

加蓮「代えてRf1はどうだったのかな」

 

奏「エンドゲーム、下に潜って戦車で相手の王を下から追い落とすっていうのは手筋よね」

 

加蓮「まぁ、ここで1時間追加されるわけだから、勝負を焦ることもない、ってフレデリカさんは読んだんだね。アタシはこういうとき、真っ先に決めに行く筋から読んじゃう。体力ないの、重々承知だからね」

 

奏「いいじゃない。それがアナタの棋風でしょ。何より早指し早見えの北条、なんだから。ふふふ」

 

41. Nb7+ Kd5 42. a5 Ra4 43. Rc3

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(Fig.4 : aポーンのプロモーションは意地でも阻止する、と言わんばかりのaファイルの黒ルークが気になる。)

加蓮「これ、ドロー率がすごく高そうな局面なんだけど」

 

奏「いかにも、ルークとナイトが乱舞したあとルークとポーン、あとキングだけが1基ずつ残る展開よね」

 

加蓮「あとは、棋力というより、気力の問題だね。それとも、アーニャちゃん、まさか先手からドローを打開できるとでも思ってる?」

 

奏「モニターを見る限り、そうは思えないけれど。どちらも等しく、苦しそうで、なにより」

 

加蓮・奏「「楽しそうね」」

 

43. ... Nc4+ 44. Kd3 Rb4 45. a6 Ra4 46. Rc2 c5 47. Nxc5 Kxc5

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(Fig.5 : 黒ナイトがピンであるのを利用して、白からナイトを切って盤面を整理しに行った。)

奏「60分追加、とはいえ、精神の冷たい風呂に入ってしまえば1時間どころか一生なんて、たぶんすぐよ」

 

加蓮「もう半分近く使って……意外とアーニャちゃんの方が苦戦してるのか。残ってるのは20分くらいだね。ナイトを切るとは思い切ったなぁ、まぁ、次のb3がポーン・チェインだから駒割りは依然互角か……」

 

奏「フレデリカのRa4~Rb4~Ra4は、盤上指せる手が他にないということなのかしら?」

 

加蓮「あの人はそういう人だよ。ある種学者然としたところというか、他に手がなければ、一人千日手だって辞さない、そういう人」

 

48. b3 Rxa6 49. Rxc4+ Kb5 50. Ra4 Rd6+ 51. Rd4 Rc6 52. Rd8 Ra6 

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(Fig.6 : 嵐の前の静けさとでも形容するのが相応しい局面。)

加蓮「……これは、キツいね」

 

奏「このチェスボードの上には、絶望しかないのかしら」

 

加蓮「それでも、二人の戦士はたぶん、最後まで光を求めるよ。見届けなきゃ」

 

 53. Rb8+ Kc6 54. Rc8+ Kb5 55. Rb8+ Kc6 56. Rc8+ Kb5 57. Kd4

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(Fig.7 : 時間が切迫する中、同形反復を経て思考をすり減らす二人。千日手は先手から打開した)

加蓮「へええ、先手から打開するんだね」

 

奏「自信がある打開、ってわけではないでしょ。……うふふ、ロシアの妖精さん、クールでストイックで、マシンのようだと思っていたけれど、こんなに情熱的な一面もあったのね」

 

加蓮「真っ向、最後までフレデリカさんと向き合う気なんだ。彼女の情熱を引き出したフレデリカさんが、一本取ったんじゃない?」

 

57. ... Ra2 58. Rb8+ Kc6 59. Rf8 Rd2+ 60. Ke3 Rxg2

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(Fig.8 : シンデレラが、盤上の掃除を始めた。)

 

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アナスタシア(チェスは、ひとりでやるものだと、ずっと思っていましたね)

 

アナスタシア(ふたりいないと、成立しないのに)コトン

 

フレデリカ(さぁ、答えてみせて!)コトン

 

アナスタシア・フレデリカ(誰か共に地獄へ逝くのなら、それはきっと『貴女』しかいない――)

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61. Rxf6+ Kd5 62. Rf5+ Ke6 63. Ke4 Rg3 64. b4 Rxh3 65. Rxg5 Rb3

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(Fig.9 : 彼女たちの掃除はいつだって、塵は残さないが、誇りだけを残して盤面を綺麗にしてしまうのである。)

加蓮「……あとは、彼女たちの気持ちの整理ひとつね」

 

奏「稀に見る、長く熱い、激戦だったわ。一本のドキュメンタリーを観た後の様ね」

 

66. Rg6+ Kf7 67. Kf5 Rxb4 68. Rc6 h3 69. Rh6 Rb3 70. Rh8 h2 71. Rxh2 Rf3+ 1/2-1/2

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(Fig.10 : 両者、長々と見つめ合った後、深く頷き合って手を握り合う。)

奏「お疲れ様でした。これで、協議ドローが成立、ね」

 

加蓮「いい勝負だったね。頑張ることを恥ずかしがらないって、すごいことなんだよ」

 

奏「あ、今、対局室にアイドルたちが雪崩れ込んで行ったわね」

 

加蓮「あーあー、文香ったらあんなに泣いちゃって……」

 

奏「さ、私たちも帰りましょうか。私たちの事務所に、ね」

 

加蓮「みんな、今日は、ありがとう。アイドルがチェスを指すイベントなんて、びっくりしたでしょ?えへへ。たまには、そういうのも、いいかなーって」

 

奏「なんとも斬新な企画ではあったわね……私たちはステージで、何かを届けられたのかしら?」

 

(続く)