愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

大盤解説会場・朝(Anastasia v.s. Frederica Miyamoto, 5R)

 

喜多見柚「やっほー、会場のみんな!おはよう!柚だよ!今日はゴールデンウィーク初日の土曜日にして祝日とあって、大入りだネ!」

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鷺沢文香「……おはようございます、鷺沢文香です。今日は、宮本フレデリカvsアナスタシア、五番勝負の第5ラウンドです」

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柚「解説は鷺沢文香さんに来てもらったよ!柚は聞き手と司会を務めていきまーす。よろしくお願いします、文香さん」

 

文香「……こちらこそ、よろしくお願いします。今日のゲームは、『40手120分、41手目に60分追加、61手目に15分追加、さらに61手目以降は1手につき30秒追加』という世界チェス選手権などで採用されている、公式戦の持ち時間ですね。長い勝負になりそうです」

 

柚「みんなも知ってる通り、この五番勝負は第1、第2、第4ラウンドをアーニャさんが取ったので、結果はアーニャさんの勝利なんだけど、フレデリカさんが『どうしても!』ってジョーム?センム?のところに殴り込んでね~」

 

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バターン

宮本フレデリカジョームさぁん!」

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美城専務「……センムの美城だが……」

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フレデリカ「んもー!細かいことはイイノ!それより、アタシ、宮本フレデリカにもう一戦アーニャちゃんとゲームさせてほしいんだ……!」

 

美城「確か……番勝負はアナスタシアの勝ちに終わったと聞いていたが……?」

 

フレデリカ「うん、番勝負通しての勝ち負けじゃないの。それはもういいんだ。ただ、予定としては五番勝負だったわけだからもう一局あったはずで、もう一局アーニャちゃんと公式に戦えるのはアタシにとってトクベツなんだ!だから、お願いします!」

 

美城「ふむ。君にとって、久々の格上との対戦ということで、また思うところもあるのだろう。では聞こうか。それを行うことで我がプロダクションに利益はあるのか。終わった予定をわざわざ入れなおすより、その日は仕事に回してもらった方がよいんじゃないか、どう思う?」

 

フレデリカ「んーと……」

 

美城「答えられないようでは、君の申し出はこちらとしては受け入れかねる」

 

フレデリカ「……そっか、わがままだもんね、すいませんでした」

 

美城「アイドルたるもの、人の話をちゃんと聞けなくては務まらないぞ。私の話はまだ終わってない」

 

フレデリカ「……?」

 

美城「さきほど、喜多見と鷺沢と速水、それから君のプロデューサーが来て、君とほとんど同じことを言っていた」

 

フレデリカ「え……」

 

美城「そして君のプロデューサーはなかなか有能だ。君とアナスタシアのゲーム、幻の第5ラウンドを、全国放送するとともに、アイドルに大盤解説会で解説させ、ひとつのイベントにしてはどうか、とこう私に提案してきた。これならば、経済効果も見込めるし、何よりアイドルのイベントでチェスを扱うなんて斬新な発想はみたことがない。なかなか面白いイベントになりそうだ」

 

フレデリカ「……と、いうことはー?」

 

美城「第5ラウンドは予定通り今週末だ。カメラが入るから、それだけ気を付けてくれたまえ」

 

フレデリカ「やったー!ジョーム、ありがとう~!」ダキッ

 

美城「わ、私はただ、提案された企画書に判をついただけだ。感謝なら君の同僚とプロデューサーに言いたまえ。それから私は専務であって……」

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柚「……と、いうわけで、今日は幻の第5ラウンド、生中継アンド同時解説でお送りするよ!」

 

文香「そろそろ、始まりますね。柚ちゃん、戦型の予想は、どうでしょう」

 

柚「んー、どちらも何でも指せる実力者だから一概には言えないけど、なんとなくこれまでの番勝負の再戦になるんじゃないかと思うナ。1ラウンド目がフランス防御、2、4ラウンド目がルイ・ロペスで、3ラウンド目はツカルトート・オープニングになりましたよネ」

 

文香「そうでしたね。私も、柚ちゃんと同じ考えです」

 

柚「今日はアーニャさんの先手ですが、文香さんの戦型予想はズバリ……?」

 

文香「……予言しましょう。アナスタシアさんのe4に、フレデリカさんがe6と返す、フランス防御。これ以外にないと思います」

 

柚「お、おぉ……。こんなに強い物言いの文香さんを、アタシは初めて見たよ!んー、あ、今ふたりが続いて部屋に入ってきたネ」

 

文香「アナスタシアさんも、よくこの勝負受けてくださいましたね……。彼女の協力なしではなしえなかったこの企画、ありがたいことです……」

 

柚「この前ネ、実は研究会を一緒にやってもらえないカナ?って誘ってみたんだけど、『チェスというのは、慣れ合いではありません。一人で向き合わなければ、強くなれない』って断られちゃって。でも、何か質問するのはしっかり答えてくれるし、なによりチェスそのものが本当に好きな人なんダナー、っていうのはアーニャさんのゲームを見ていてすごく伝わってくるから、アタシはアーニャさんのチェスが好き!」

 

文香「……そうですね。どちらかというと、昔のフレデリカさんもそうでした。ゲームの勝敗結果よりも、盤上の真実を解き明かしたくてたまらない冒険少女のような眼を、彼女は垣間見せるように思います……」

 

柚「今のフレデリカさんはそうじゃない、と思うんですかー?」

 

文香「そもそも、彼女は最近実力伯仲の相手とゲームをすることがなかったので、一概には言えないかもしれませんが……このところの、アナスタシアさんとのゲームを見ている限りでは、ヘンな力が肩に入ってしまっているようでした。……私はひそかに、彼女が熱望して開催されたこのゲーム、そのあたりも気にして観たいと思っているのです……」

 

柚「なるほど……文香さんはフレデリカさんが大好きなんだネ!」

 

文香「……わ、私はそんな……彼女のチェスが好きなだけで……」

 

柚「あー、今両対局者がっちりと握手と微笑を交わしたよ!……文香さんどうしました?」

 

文香「……なんでも、ありません」プイッ

 

柚「えー、さきほども文香さんが言ってくださったように、今日はアーニャさんの白番で、おお、今eポーンに手をかけて、そのまま突き出したネ!そしてフレデリカさんは……おおお!」

 

文香「……だから、言ったでしょう?」

 

1. e4 e6

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(Fig.1 : 文香が事前に強く断言した予想通り、1. ... e6でフレデリカがFrench Defenseに誘導した)

 

オオー ドヨドヨ フミカチャンカワイイ

柚「会場のみなさんも驚いてるみたい!オープニングは、文香さんの言った通りにフレンチ・ディフェンスになったネ!これはアーニャさんも少し驚いてるみたい……?」

 

文香「……そうですね。少なからず、頭にはあったかとは思うのですが。……なかなか指さないところを見ると、フレデリカさんの込めた想いに応えようと、まとめているのでしょうか……」

 

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アナスタシア「……」スー ハー スッ

 

フレデリカ「!」スッ

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文香「……指しましたね」スッ スッ …スッ

 

2. d4 d5 3. Nd2

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(Fig.2 : アナスタシアの誘導で力戦調へ)

 

柚「これは……どうなんですか?フレデリカさんもまた時間を使っていますケド、なかなか珍しい手なのカナ?」

 

文香「……そうですね。b1にいるナイトを使う手は2か所ある訳ですが、スタンダードは、このように」

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(Fig.2.1 : 文香の示す3. Nc3まで)

文香「Nc3とナイトを跳ぶ手の方が、自分のeポーンに紐をつけつつ、相手のdポーンにも利きを足しているというので自然な手のような気がします」

 

柚「なるほどー……でも、アーニャさんが選ばなかったのは何かあるんですかネ?」

 

文香「3. Nc3と跳んだ時に気になることとしては、cポーンの進路に自分のナイトが来ることで、ポーンを突いてピースを展開する際に邪魔になりかねない、ということでしょうか……対して本譜の3. Nd2と跳ぶ手ならば、このナイトはポーンの進路を邪魔せず、またd2からどこかに移動した瞬間に、このナイトが止めていたc1ビショップとd1クイーンの利きが解放されるので、ピースを激しくぶつける棋風のアナスタシアさんはそういった理由でこちらを選んだのかもしれません」

 

柚「そういうことなんですね!」

 

文香「……しかし、もしかするとこれはフレデリカさんに少し地の利があるような展開になるかもしれませんね」

3. ... c5 4. ed ed 5. Bb5+ Nc6

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(Fig.3 : 5. Bb5+のチェックを防ぐためにNc6とナイトを跳んだフレデリカ)

柚「パタパタと手が進んで、いまここ!文香さん、この展開はどうなんですか?」

 

文香「……先ほどの局面(Fig.2)を見て頂けるとわかるのですが、黒番は白の3. Nd2の1手を咎め、センター・コントロールを主張にしようとして駒組みしていました。4. edとぶつかったポーンを早速清算した後チェックでビショップを展開する、というのは攻めのリズムを先手が掴んだように見えて、後手から仕掛けさせた感があります。cポーンを突けばビショップがチェックで入る様になるのは自明ですので……」

 

柚「序盤のチェックは価値が高いからネ!このビショップから逃げるために例えばキングを動かしたら、黒だけ一方的にキャスリングの権利を失っちゃう。だから、ここでNc6は必然の手順なのカナ」

 

文香「……そうですね。ただしこの展開だと、初手e6と突くがゆえにc8のビショップが使い難くなる、というフランス防御の弱点がカバーされ、黒にやる気が出るのではないでしょうか……しかし現局面を観て頂ければお分かりの通り、eファイルがフル・オープンになっています。これはピースをぶつけて主導権を握る、攻めの棋風のアナスタシアさんにとっては技が掛けやすいので、彼女はそれで指せるとみているのかもしれませんね」

6. Ngf3 Bd6

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(Fig.4 : フレデリカのビショップがもこっと出て来た)

文香「これは……少し凝りましたね」

 

柚「何かのときにBf4と出て序盤のNd2自体を咎めにいくことを含みにしながら、ビショップを展開、さらにキャスリングの実現に大きな一手、ということなのカナ?」

 

文香「概ね、その通りだと思います。……強くなりましたね」ナデナデ

 

柚「えへへ」

 

ユズチャンスゴイー ナデナデサレタイ

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(Fig.4.1 : 文香の示す大盤)

文香「そして、今の手でフレデリカ・サイドのビショップはこのように間接的にビショップ・ペアを組んで、アナスタシア・サイドのキングサイドに強くプレッシャーをかけています。c8のビショップが動いていないのに、他のピースとの兼ね合いでとても良い働きをしている、という高等戦術ですね……さらに、アナスタシアさんが攻めの棋風だとは我々も再三言っていることですが、この位置のビショップに、エクスチェンジを強制する駒ぶつけというのもなかなか難しい、とそこまで計算に入れているのでしょう」

 

柚「……ひょっとして、これはかなり高レベルな戦いが起こっているのカモ?みんな!目撃者になれるアタシたちはとーっても幸運だよ!ところで文香さん、またアナスタシアさんが考えているこの局面、文香さんは何を予想します?」

 

文香「……そうですね。キャスリングでしょうか。手の流れから言っても自然ですが、ここでキャスリングをしたことが手渡しになって、フレデリカさんの攻め足を速めないか、と読んでいるのでしょう」

 

柚「なるほど!もう少しかかりそうカナ?ここで電話が事務所の控室と繋がっているよ!」

 

(続く)