愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第4回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[オープン・ゲーム > ルイ・ロペス>モーフィー・ディフェンス>コロンブス・ヴァリエーション]

 こんばんは。綾瀬穂乃香です。

f:id:rikkaranko:20170409174237j:plain

 

 今日は、第4回目ですか。早いですねー……

 最初はフリスクのみなさんで、一巡すれば御の字かと思っていました。私たちの企画を通して、チェスを始めてみようと思ってくださった方や、奏さんの映画メモを入り口に、チェスを扱った創作に触れてみようとしてくださったという方々から反響をいただけるのは、うれしいことです。アイドル冥利につきますね。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

心が豊かになりますね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ……?それはよくわかりませんね。暖かくは、なるかもしれませんが。 

 

 4回目の今日は、前回に引き続いてオープン・ゲームから、『ルイ・ロペス』というオープニングについて、一緒に学んでいきたいと思います。よろしくお願いします。

 

 まず、オープン・ゲームということで、1. e4 e5はいいですね?穂乃香とひとつずつ、復習していきましょう。

f:id:rikkaranko:20170420231546j:plain

(Figure.1 Open Game : 1. e4 e5 まで)

 ここから、2. Nf3と早速黒が突き出したeポーンに狙いをつけるのも、ジオッコ・ピアノと一緒ですね。当然、ナイトを活用しながら黒も2. ... Nc6と受けます。

f:id:rikkaranko:20170420232239p:plain

(Fig.2 : Fig.1 ~ 2. Nf3 Nc6 まで)

 ここで、イタリアン・ゲームのときは3. Bc4と出て、キングしか支えるピースのいないfポーンを狙いにいく展開になりましたね。 

f:id:rikkaranko:20170420232700j:plain

(cf. Fig.2.1 Italian Game : Fig.2 ~ 3. Bc4 まで)

 ここですね。前回の講座ではちらっと紹介しましたが、ここで3. Bb5、といきなりナイトを攻めにいくのが、今日ご紹介する『ルイ・ロペス』です。

f:id:rikkaranko:20170420233410j:plain

(Fig.3 Ruy Lopez : Fig.2 ~ 3. Bb5 まで)

 これは15世紀のスペインのカトリック司教でもあった偉大なチェスプレーヤー、ルイ・ロペス・デ・セグーラに因んで『ルイ・ロペス』と呼ばれている定跡ですね。彼がスペイン人であることから『スペイン定跡』などと呼ばれることもあります。センターにポーンを送り、ナイトで相手のセンターポーンを攻め、相手のナイトを攻めながらキャスリングの権利を手にする、と白はここに至るまでプラスの手しか指していないのが特徴で、21世紀の今でも最も多く指されているオープニングのひとつですね。ちなみに、ルイ・ロペスは何者かによる暗殺で生涯を終えています。

 

 ルイ・ロペスの分岐は早く、ここでもう黒にはいくつかの応手とそこから始まるバリエーションが用意されています。どんな手が思い浮かびますか?

 まず、(1)3. ... a6と突いてビショップを追い返そうとする手が見えますね。

 それから、ジオッコ・ピアノと同じ概念に基づく(2)3. ... Bc5も理に適っていますね。また、いきなりのエクスチェンジを誘って敢えて手抜いて(3)3. ... g6とフィアンケットを見せる指し方は、1957・1958と世界チャンピオンに輝いたワシリー・スミスロフが得意とした指し方だったといいます。

 他に、(4)3. ... Nd4と2手目に活用したナイトを更に使いながらイニシアチブを逆に握りに来る強い手がありますね。

 

 今日は、この中の(1)とそこから始まるバリエーションについて、一緒に見ていきましょう。

 まず基本図はこうですね。このa6の突き出しを持って、『モーフィー・ディフェンス』と呼ばれます。これは統計によると、ルイ・ロペスを受けた黒番の実に75%が3ムーブ目にa6と突くというデータもある、ルイ・ロペスの中で一番指されているバリエーションと言える形ですね。

f:id:rikkaranko:20170421001408p:plain

(Fig.4 Ruy Lopez, Morphy Defense : Fig.3 ~ 3. ... a6 まで)

 将棋の様に駒を打ち直して局面を作ることもできるボードゲームと違い、チェスではピースを打つという選択肢がプレーヤーは許されていません。そのため、将棋よりも『手得』や『手損』という言葉には敏感になってくださいね。今日の穂乃香とのお約束、ですよ。

 さて、『手損』という言葉に敏感になった皆さんなら、(Fig.4)のこの局面では、実質白に選択肢がふたつしかないのが、おわかりですね?そうです、例えば、4. Bc4とジオッコ・ピアノの位置に引いてくる様な手は、黒にa6を突かせた分手損、と今は考えるのです。

 なので、3ムーブ目にBb5と出なければ到達できなかった場所に引く4. Ba4か、いきなりナイトとエクスチェンジする4. Bxc6か、というところになります。ここで、「a6を突かせた手が白の手損より悪くなる」という様な構想で進められればBc4なんて手もアリになるのでしょうが……研究してみる価値はありそうですね。色んな鉱脈が眠っているかもしれません。

 現状では、この局面では4. Ba4が4. Bxc6の8倍くらい多く採用されていて、やはり白番が勝ちやすいのも4. Ba4のようですね。4. Bxc6の方がドロー率が先手勝率を上回っていて、白が不本意な展開になりやすいようですが、データと自分の好みも違いますしね。好きな方を使っていくのが一番だと、私は思いますよ。

 

 今日は1回分を使って、4. Ba4の先を、共に見ていきましょう。

f:id:rikkaranko:20170421005956p:plain

(Fig.5 Ruy Lopez, Morphy Defense, Columbus Variation : Fig.4 ~ 4. Ba4 まで)

 白が4ムーブ目にBa4とaファイルにビショップを引く手を、コロンブス・ヴァリエーションと言うのですが、私が調べた限り、日本語のサイトではヒットしませんでしたね。チェスでは最もメジャーな形のひとつだと思うのですが…….。一方ECOではここまででモーフィー・ディフェンス、としていますね。

 続きいきましょうか。この局面、黒を持って手の広い局面ですね。

 少し高等な考え方になりますが、白は4. Ba4を採用することで、序盤の白ビショップと黒ナイトのエクスチェンジを諦めた、と見ることも出来ます。なぜなら、已むに已まれず交換せざるを得ない局面になったとき、本当は白は4. Bxc6とaファイルに引くタイミングでエクスチェンジができたわけですよね。そうです、ここでも『手損』の考え方です。なので、黒としてはc6のナイトが質に入っている現状、Bxc6のエクスチェンジがマイナスにならないような陣形を組んでいく、というのがオープニング~ミドルゲームを視野に入れたストラテジーになりますね。チェスでは、短期的見通しを指すタクティクスに対比して特にストラテジー、と言ったときは長期的な作戦を指します。日本語の『大局観』に少し近いかもしれませんね。

 なので、スペース・アドバンテージを取りながら引いたビショップを虐めに行く4. ... b5なんて手はすぐ浮かびますか?

f:id:rikkaranko:20170422192101p:plain

(Fig.5.1 : 4. ... b5の変化)

 5. Bb3以外の手というのが指しにくいですね。これは例えば他にやるなら5. Nxe5や5. 0-0ですが、5. Nxc5 Nxc5 6. Bb3の展開含め、いずれにせよ序盤にしては白の駒損が大きく、無理してビハインドを背負いにいく意味も特にないと思いますね。

 以下は手番を握った黒から、bポーンを突いた手を活かしてのフィアンケットを組む5. ... Bb7や、ポーン・チェーンを作りながら白マスビショップを活用する5. ... d6、また落ち着いた局面でeポーンを睨みながらナイトを活用しようとする理に適った5. ... Nf6なんて手がありそうです。手番は白に渡りますが、白はキャスリングの権利を手にしていますし、f3に据え付けられたトロイの木馬が常に黒のeポーンを狙っていて、どちらも主張のある展開になりそうですね。

 

 ジオッコ・ピアノと同じく、一番弱い白ポーンを攻めに行きながらビショップを負けじと展開する4. ... Bc5はどうでしょうか。白からエクスチェンジがしにくい現局面を逆手に取り、ビショップを引かせたことに満足して戦線を別に拡大しに行く、というイタリア軍らしい手です。

f:id:rikkaranko:20170422192958p:plain

(Fig.5.2 : 4. ... Bc5の変化)

 30年ほど前は4.… Bc5と指すと5.0-0 Nf6 6.c3 Ba7以下、

f:id:rikkaranko:20170422194359p:plain

(Fig.5.2.1.1 : 5.0-0 Nf6 6.c3 Ba7)

7.d4 b5 8.Bb3 Qe7 9.Bd5 ed 10.Bg5 h6 11.Bxf6 Qxf6 12.e5で白が有利と言われていたようですが、

f:id:rikkaranko:20170422194628p:plain

(Fig.5.2.1.2 : 7.d4 b5 8.Bb3 Qe7 9.Bd5 ed 10.Bg5 h6 11.Bxf6 Qxf6 12.e5 まで)

6. ... Nxc4の取り込みからdポーンを敢えて白に突かせ、7. d4 ed 8. cd Bb6と局面を収めると白のポーン損で黒番としても不満ない展開、と今は見られていますね。

f:id:rikkaranko:20170422194942p:plain

(Fig.5.2.2 : 5.0-0 Nf6 6.c3 Nxc4 7. d4 ed 8. cd Bb6 まで)

次に9. Nc3からナイトをお互い交換しに行く展開になりそうです。しかし不満ないのはあくまでこの局面であって、4. ... Bc5は白番勝率が6割を超えているというデータもあるようです。

 

 いきなりナイトを跳ねる4. ... Nf6はどうでしょう。

f:id:rikkaranko:20170422195549p:plain

(Fig.5.3 : 4. ... Nf6の変化)

 これは浮いている白のeポーンを逆に狙ったナイトの跳躍です。ここでは、eポーンに紐付けに行く5. Qe2、5. d3と、eポーンを犠牲に先んじて陣形を整えようという5. 0-0が考えられます。eポーンを取られてポーン損では、と思いますが、5.0-0でキャスリングによって右のルークが使えるようになると、何かの拍子にRe1+とルークを使う手がチェックで入る可能性が出て来るんですね。キングを戦場から遠ざけながらルークで敵キングにプレッシャーを掛ける、これは白が手得を主張した感じでしょうか。

 5. Qe2アラピン・アタックと呼ばれる切り返しです。

f:id:rikkaranko:20170422200327p:plain

(Fig.5.3.1 Alapin Attack/Wormald Attack : 5. Qe2)

 この手はクイーンの可能性を狭めてしまう、として、これより最近若干ゃ多く指されているのが、5. d3の突き出しでしょうか。これはアンデルセン・ヴァリエーションと呼ばれて先手勝率の比較的高い形ですね。

f:id:rikkaranko:20170422202252p:plain

(Fig.5.3.2 Anderssen Variation : 5. d3)

 そして、5. 0-0 とした手に5. ... Nxe4とするのが、オープン・ヴァリエーションと呼ばれる形です。

f:id:rikkaranko:20170422202642p:plain

(Fig.5.4.1 Open Variation : 5. 0-0 Nxe4)

 以下は6. d4 b5がクラシカルな展開ですが、最近6. Re1と出て 6. ... Nc5とナイトを追う手も結構気になっていたりします。

 

 これまで私と一緒にオープニングをお勉強してきた方々は、もう薄々気が付いているんじゃないでしょうか。そうです、『オープン』という場合はだいたい『クローズド』が暗に対比されているんです!それが、4. ... Nf6 5. 0-05.  Be7と出るクローズド・ヴァリエーション、です。

f:id:rikkaranko:20170422203502p:plain

(Fig.5.4.1 Closed Defense : 5. 0-0 Be7)

 以下一例は6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 0-0 9. h3、とかでしょうか。

 クローズドがこの変化では一番多いようですね。次いで5. 0-0 に5. ... b5とbポーンを突く手が多く、そのあとルイ・ロペス・オープンと僅差で続くようです。

 

 私が好きなのは4. ... Ngd7ですね。モダン・シュタイニッツ・ディフェンスと呼ばれる形で、母数は少ないですが、割合上は黒番勝率が白番勝率・ドロー率より高いんですよ。

f:id:rikkaranko:20170422204426p:plain

(Fig.5.5 Modern Steinitz Defense : 4. ... Nge7)

 白は以下c3~d4を狙ってくることが多いですね。黒番は曲線的な指し回しになることが多いので、私は好きですね。

 

 ルイ・ロペスは変化がとても多い戦型で、中でもこのa6を突く形は最も分岐が多いといわれています。しっかりと学んでいるかどうかが顕著に出る戦型ですね。古さという点では将棋でいうところの四間飛車のようなイメージがありますが、ルイ・ロペス・オープンなどを見ると駒損か手損か、と横歩取りのような感じもする、不思議な戦型です。

 

 最後にお便りを読みましょうか。今日は……「ぴにゃこら太・ギャンビット」さんからです。どんなオープニングなのでしょう……。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

最近、綾瀬さんの事務所にはとてもチェスが強い新人さんが入ったようですね。綾瀬さんから見て彼女はどうですか?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 みなさん、お耳が早いですね。そうなんです!お父さんがロシア人のハーフだと聞きましたが、とても綺麗な銀髪に白い肌と、すごい美人な方なんですよ。なんでも、お父さんから手ほどきを受けたというチェスは相当強くて、あのフレデリカさんと4戦やって3勝1分けですからね。色んなことを教えて貰えたらなあ……って思ってます。まだお近づきにもなれてないのですけどね、えへへ。ロシアは世界一のチェス大国ですもんね。憧れます……

 

 ところで、ルイ・ロペスの時代ってみなさん想像がつきますか?彼が一流の理論家としてプレーヤーとして活躍していた時代、日本では織田信長が全盛期を極めていたんです。不思議な感じがしますねぇ……時代を超えて受け継がれるチェスの魂、のようなものを感じます。

 文香さんの受け売りになってしまいますが、シャーロック・ホームズの生みの親、アーサー・コナン・ドイルは、

――チェスに長けていることは戦略的精神の印だ。

 と言ったそうです。もし、織田信長がチェスに出逢っていたら、そしてハマっていたら、日本の歴史はもう少し変わっていたかもしれませんね。綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)