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愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第3回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[オープン・ゲーム > イタリアン・ゲーム > ジオッコ・ピアノ / ジオッコ・ピアニッシモ]

 

 おはようございます。綾瀬穂乃香です。

 前々回と前回はカロ・カン・ディフェンスについての解説をしました。

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 今までこの事務所のお仕事では、大きく『シシリアン・ディフェンス』『カロ・カン・ディフェンス』についてのオープニングまわりのラインについて解説をしたわけですけれど、この二つはどちらも白の初手1. e4に対して黒がe5以外の手を返す『セミ・オープン・ゲーム』と呼ばれる大分類に属していましたね。シシリアン・ディフェンスについては、私の講座で取り上げた後すぐ、柚さんが自分の講座で『オープン・シシリアン』からの『ナイドルフ・ヴァリエーション』、そこからの『アダムス・アタック』という実際の実戦譜の中でどのようにオープニングを選択し、そのあとどうやって中盤へつなげていくのか、というのを詳しく取り上げてくださいましたね。ほかにも、東郷さんと和久井さんの企画ではモダン・ゲームの概念といくつかのオープニング紹介(キングズ・フィアンケット・オープニング/ツカルトート・オープニング/レティ・オープニング)と、キングズ・フィアンケット・オープニングからリバースド・アレヒン・ヴァリエーションに進んだ実戦譜の解説や、忍さんの講座では私たちのレッスン棋譜からあずきさんがソコルスキー・オープニングを使用したものを紹介したり、と、セミ・オープン・ゲームとフランク・オープニングについてはだんだんと皆さんと一緒に見識を深めてきたのですが、実はまだ王道ともいえるオープン・ゲームについては全然触れてませんでしたね!

 

 というわけで、今日からは数回に渡って、このキングズ・ポーン・オープニングの中の、オープン・ゲームに分類される、イタリアン・ゲームと呼ばれるオープニングとその変化について触れていきたいと思います!一緒に頑張りましょうね!

 私が説明した後また柚さんや忍さんの講座で実戦の形を見ることもあると思うので、そういうときは比較して一緒に見ていただけたらなぁと思います。

 

 まず、白の初手1. e4 でキングズ・ポーン・オープニングとなるわけですが、これに... e5と黒が同様にeポーンを突いて白のeポーンがこれ以上進撃してくるのを防ぐ手でもって、オープン・ゲームと呼ぶわけです。

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(Figure.1.1 Open Game : 1. e4 e5 まで)

 ここから2. Nf3 Nc6 3. Bc4と進んだこの形をイタリアン・ゲームと呼ぶんですね。イタリアン・ゲームというと、レベッカロッセリーニが出て来たTVスペシャル『ルパン三世 イタリアン・ゲーム』を思い出す方もいらっしゃいますか?ふふふっ、私もあのお話好きですよ。

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(Fig.1.2 Italian Game : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 まで)

  はい、進めてこの局面ですね。

 eポーンを突きだすのは、ビショップとクイーンのダイアゴナルを通しながらセンターにピースを送って支配しようという手ですね。そして、ナイトを展開しながら相手のポーンを狙うNf3に、狙われたポーンに紐をつけながら同じくナイトを展開するNc6というわけですね。白の3手目Bc4は一見するとよくわからなくて、『ビショップをセンターに展開した手』などとぼんやりした説明をしてしまいそうですが、それならどうしてBb5じゃダメなのかな?と考えるとチェスの実力は上がると思います。ちなみに、ここでBb5とc6の黒ナイトに当てながらビショップを出すと、ルイ・ロペスというオープニングになりますね(c.f. Fig.1.2.1)。

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(Fig.1.2.1 Ruy Lopez : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 まで)

 ではイタリアン・ゲームのBc4は、というと、狙っているマスを見るとわかりやすいかもしれませんね。睨むその先には、f7のポーンがあります。そして、このf7のポーンというのは、初期配置に於いてこのポーンを守っているピースがキングしかいない、という一番のウィークポイントなんです。このまま放置すると、白のNg5~Nf7でルークとクイーンにフォークが掛かってしまいますね。相手の弱点を睨む良い位置にビショップを展開しながら、白は早々にキャスリングの権利を手にした……これが3手目までの流れという訳ですね。

 この局面でどう考えますか?と私は聞いてみたいです。黒番ですから、まず黒の手を考えてみましょう。

 すると、Bc5、Nf6、Be7、そしてd6なんて手が思い浮かびますね。

 黒が3. ... Bc5とした後の白の手としては、まず0-0のキャスリング、それからb4、Bxf7+、c3、d3という手が考えられるでしょうか。これらの手順前後を含めてイタリアン・ゲームは非常に分岐が広く、その分やりがいのある戦型だといえるでしょうね。白番では最も多く指されているといっても過言じゃない形なのではないでしょうか……、ポーンを突いてセンターコントロールする、マイナーピースを繰り出す、キャスリングする、というオープニングの動きを最も効率よく採り入れたのが、イタリアン・ゲームとルイ・ロペスだと思います。その意味で超基本的なオープニングといえますよね。

 今回取り上げるのは3. ... Bc5とする、『ジオッコ・ピアノ』と呼ばれるイタリアン・ゲームの変化と、そこから4. c3と突く『ジオッコ・ピアニッシモ』と呼ばれる変化のラインです。ジオッコ・ピアノ、とはイタリア語で『静かなゲーム』や『穏やかなゲーム』を意味するらしいですよ。

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(Fig.1.3 Guioco Piano : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5)

 黒の3ムーブ目Bc5は白のBc4と同じくf2というキングのみにしか守られていないポーンにダイアゴナルを利かせる手ですね。こういうとき、将棋の『角出』のような言葉がないのはもどかしいですね……。

 白の4ムーブ目は、まず0-0、c3、d3、b4なんて手が目につくととてもよい感覚だと思います。

 ここでは先ず4. c3を見ましょうか。これがメイン・ラインですからね。

 この手はQb3と好位置に居るビショップを応援しながらクイーンを展開する手の準備であると共に、dポーンをd4と突き出して、今しがた出て来たビショップを追い払うのを見せた一石二鳥の手です。左のナイトが動かせなくて窮屈なんじゃないか、って思う人もいると思うんです。そういう短所もありますが、長い目で見た時に、早い段階でのちのちピースをのびのび動かすためのスペースが展開できてよし、と思う人がこの手を指すんでしょうね。そして、そう思う人が結構多いので、これがジオッコ・ピアノのスタンダードな手として今も伝えられているんだと思います。バレエと同じで、ひとつひとつの動作に歴史と重みがあるんですね。

 対しては4. ... Nf6キャスリングの権利を取りに来る手や、ビショップの応援をしながらeファイルに圧力を掛けるQe7といった手が考えられますね。

 

 この4. c3に対して即座に黒が防御の手を返せるのを嫌った展開が、白が4ムーブ目に4. b4と突いて行きなりビショップにぶつけ、Bxb4と取り込ませておびき寄せたビショップに当てながらc3と突きだす展開ですね。1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5に4. b4と突くのはエヴァンス・ギャンビットと呼ばれるオープニングです(c.f. Fig.1.3.1)。

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(Fig.1.3.1 Evans Gambit : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5 4. b4 まで)

 4手目に白が0-0とキャスリングする展開は、手順前後でエヴァンス・ギャンビットの変化になることが多いですね。

 Nf6と黒がナイトを繰り出して来たら、5. d4と突いてポーン・チェインをセンターに築きながら、黒の浮き駒であるe5に攻撃しに行くのがセオリーでしょうか(c.f. Fig.1.4)。

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(Fig.1.4 : Fig.1.3~4. c3 Nf6 5. d4 まで)

 もちろん、黒は取る一手ですね。白も交換を済ませたところで、黒はBb4+とパッセで一度チェックで出る定跡が整備されています。序盤のチェックというのは、『キングは動くとキャスリングの権利を失う』というルールがある以上、動いて貰えればみっけもの、動いて貰えなくても何かを合い駒として強制的に動かせる、というので価値の高い手なんです!なので、一度チェックを決めて、7. Nc3を強制してからNxe4とポーンを取り込むと、この局面ではb4のビショップによってc3の白ナイトはピンされている状態なので取り返せない、ということなんですね(Fig.1.5)。

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(Fig.1.5 : Fig.1.4~5. ... ed 6. cd Bb4+ 7. Nc3 Nxe4 まで)

 ピンでずっとb4の黒ビショップにキングが睨まれているのは白としては非常に居心地が良くないですね。キャスリングしましょうか。

 黒としてはc3のナイトを取りたいところですが、ビショップとナイト、どちらで取る方がいいのでしょうか。私の役目は序盤を簡明に整備することなので、この手の理由について踏み込むと少し高度になり過ぎるきらいがありますから省きますけれど、これはビショップで取り込む方がいいとされています(Fig.1.6)。

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(Fig.1.6 : Fig.1.5~8. 0-0 Bxc3 まで

 

 この節の最後に、4. d3を一緒に見ましょう。先述した、『ジオッコ・ピアニッシモ』という形です(Fig.2.1)。音楽記号のピアノ、よりも穏やかというところからピアニッシモを持ってきたのでしょうか。それとも逆なのかしら……?

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(Fig.2.1 Guico Pianissimo : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5 4. d3 まで)

 これはeポーンを守りポーン・チェインを早々に築きながら、c1にいるビショップのダイアゴナルを通した手ですね。とても手堅い手だと思います。対する4. ... Nf6には5. ... c3とポーンを突く手と、Nc3とナイトを跳ねる手がありますね。後者だと先後同形、といわれる展開になります。じっくりした戦いになりますね。

 

 今日はイタリアン・ゲームの中でも、ジオッコ・ピアノおよびジオッコ・ピアニッシモという形をやりました。

 冒頭にも言ったように、かなりメジャーなこの形をどうして最初の方にやらなかったのか、ということなのですが、私たちに最初にシシリアン・ディフェンスを教えてくれた奏さんが言う様に、『市販の定跡書の様に頭から並べていくんじゃなくて、実戦の中で使える様、出て来易いと想定される形から紹介していく中で流れを作ったら面白いし見易い』のでは、というコンセプトに基づいているんです。それならジオッコ・ピアノには意外と実戦ではなりにくいのでは?ごもっとも、ですね。ただ、ジオッコ・ピアノにしない変化を説明する際に、ジオッコ・ピアノの形と手の流れが頭に入っているとわかりやすいと思うんです。なので、実際に統計上出やすい形を順番にやっているか、というとそういうわけでもない、とご容赦くださいね。穂乃香からのお願いです。

 

 今日のお便りは、『マリブ・ぴにゃ・こらー太』さんからです。……マリブぴにゃこら太とはどんなぴにゃこら太なんでしょうか……?

 

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こんにちは!忍ちゃんが実戦チェスチャレンジの1回目で、『ポーンはアタシみたい』と言っていましたが、穂乃香ちゃんは自分をチェスのコマに喩えるとなんだと思いますか?

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 はい、とのことです。私は……そうですね。もともとバレエをやっていた私は、ビショップの様な、そんな気がします。なかなか隣のマスが見えないのもそれっぽくないですか?なんてね、えへへ……。

 

 今日はこの言葉を紹介して終わりたいと思います。

――チェスは想像力。

 これはブロンシュタインの言葉ですね。とても簡明に、チェスに最も必要なものを私たちに示唆してくれている言葉だと思います。またお会いしましょう、綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)