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愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

速水奏のサメ映画メモ(『ディープ・ブルー』)

喜多見柚「あっ、あずきちゃんが読んでる雑誌って、あれだよねっ!『速水奏のサメ映画メモ』が載ってるやつ!アタシあのコーナー好きなんだよね~」

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桃井あずき「あずきも好きだよ!あ、じゃあ……よかったら一緒に見ようよ!」

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速水奏のサメ映画メモ

 軟骨魚のように妖艶な振る舞い、上手だが冷めていて不可解な言い回し、そしてその美貌で今やサメ映画界で最も旬なアイドル・速水奏。彼女が古今東西サメ映画を観て涵養してきた眼は信頼が置ける。サメの牙の様に鋭いセンスとロレンチーニ器官よろしく敏感な感性を余すところなく筆に込め、彼女のお眼鏡にかなうサメ映画を紹介してもらう本誌屈指の人気コーナー、『速水奏のサメ映画メモ』。今回は本誌のテーマはウソだったのだが、伝達にミスがあったのか、彼女が選んだのはクソ映画の誉れ高い有名なサメ映画である。

 (文責・鷺沢文香)

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 ねぇ、私の気力が充実してるの、わかるかしら。B級サメ映画を紹介したい気分なの。

 

 私が今日あなたの為に選んできたのは、これ。『ディープ・ブルー』という、1999年のアメリカサメ映画よ。時間は105分と、時間を持て余して仕方がなくて、心が洗われる様なB級パニック映画を観たい気分のときにおすすめな長さね。

 …… 『ディープ・ブルー』という名前のコンピュータがチェスのチャンピオンを倒したという事件もあったわね。関係ないけど。何か大事なことを忘れている気がするわ。

 まぁ、いいでしょう。いつも通り、まず私が粗筋を紹介するわ。

 

 舞台はアクアティカという名の医学研究施設よ。もともとは潜水艦の補給所だったらしいわ。ここはキマイラ製薬という名前の製薬会社の所有の下で、アオザメが飼育され、この脳細胞を利用してアルツハイマーの治療薬を開発しようという研究がおこなわれているの。

 ある日、ここで飼育されていたサメのうち、『第1世代』と呼ばれているサメの中の1頭がアクアティカから逃げ出し、近くでクルージング中のヨットを襲撃する、という事故が起きてしまったの。このことがメディアに大きくバッシングされることになって、キマイラ製薬の社長・ラッセルは、研究員のスーザンに「研究費用の差し止めと施設の全面閉鎖」を通告するわ。スーザンは当然これに反対、目下執り行っているアルツハイマーへの治療薬の研究がほぼ完成している、ということを証明したい、とラッセルをアクアティカに招待するの。こんな雑なフラグを建てられてしまうと、もう嫌な予感しかしないわね。

 ラッセルがアクアティカを訪れた次の日ね。彼の前で、研究が最終段階であるというのを証明しようと、スーザンと、『サメの番人』と呼ばれているアクアティカの職員・カーターは実験を行うわ。第1世代の雌雄の間に生まれた『第2世代』のうちの1匹に麻酔を掛けて実験が行われるの。麻酔ってところがいかにもフラグね。ラッセルが固唾を呑んで見守る中、スーザンが指揮を執って、サメ脳細胞から試薬が完成するわ。これを早速アルツハイマー患者から摘出した脳を用いて治験に掛けたところ、予測以上に脳が活性化する、という結果が出るのね。一同は大喜び、医療学者のジムがサメを誉めようとして近づいたところ、麻酔状態だったはずのサメが突然動き出し、彼の腕を食いちぎるの。……まず、どうしてサメを誉めようとしたのかしらね。面白いわ。

 焦ってカーターはサメを殺そうとするのだけれど、スーザンに阻まれるの。スーザンはサメを水槽に戻すわ。カーターは当然怒りを表明するのだけれど、実は彼、スーザンのことを愛しているのよ。愛しているからこそ、彼女を強く責められないの。意味が分からないわ。サメ恋愛映画は苦手ね。恥ずかしくなるし。

 カーターは外で嵐が吹き荒れる中、救助ヘリを要請するの。海中施設の外で都合よく嵐が吹き荒れている辺りとか、監督は最高にB級ハプニング映画というものを分っていると思うの。監督はレニー・ハーリンね。『エクソシスト・ビギニング』(2004)は第25回ゴールデンラズベリー賞の最低監督賞と最低リメイク及び続編賞にノミネートされたこともある演出評価の確かな監督よ。彼が最近、2014年だったかしら、手がけた『ザ・ヘラクレス』という映画は、『映画史に残るゴミ』『まともな大人が制作したとは思えない』と高評価を受けているわ。ちなみに総製作費7000万ドルに対して世界全体での興行収入が6100万ドルだったそうよ。そちらも持て余した時間を潰せてオススメよ。鑑賞後、100分という時間の貴重さに気が付かせてくれる名作だと思うわ。

 この後、ジムを救助に来たヘリが事故で墜落、電気系統がシャットダウンしてアクアティカから救難信号が送れなくなったり、落ちたジムはサメに防水壁を破壊する道具として使われたりと散々なんだけど、なぜこんな事態になったのか、とラッセルが状況の把握に努める所で、スーザンは「研究中止を恐れ、ジムと裏で組んで遺伝子操作を施しサメの脳内のプロテインを増やすことでサメが人間以上の知能を得る状態を誘発していた」、と告白するの。治験でいい結果が出たのもこのためだったのね。

 その後はパニックに陥るみんなを纏めようとラッセルが団結を呼びかけた瞬間にサメに食い殺されたり、美人がサメに食い殺されたり、ヒロインであるスーザンが囮となってサメと決着をつけに行こうとして呆気なくサメに食い殺されたり、ととにかくサメに食い殺されるシーンが見物ね。

 私がお薦めする作中屈指の名シーンは、風上でジムが立小便をするところよ。本当、優秀な科学者よね。

 最後に残るのは、隣で観ていた文香が思わず『お前が生き残るんかい!』と叫んで立ち上がったくらい意外な人選で……これ以上はネタバレになるから控えようかしら。B級映画って、自分で見て時間を無駄にするのが醍醐味だと思うしね……ふふっ。

 

 周辺の話や、裏話なんかを教えてあげようかしら……ふふっ。

 まず長セリフを吐いて団結を呼びかけた直後にサメに食い殺されたラッセルを演じているのは、『スターウォーズ』や『アベンジャーズ』シリーズで評価の高い名優サミュエル・L・ジャクソンよ。最後まで生き残りそうな俳優を序盤であっさり退場させたり、そういうこだわりが私は好きだわ。

 アクアティカ海上部の撮影は『タイタニック』で使用されたプールで撮られたのよ。世界最大のプール、として度々映画撮影に使われる場所ね。それからアクアティカといえば、水上施設が爆発して吹き飛ぶ映像は、模型を作って撮影する予算が無かったために、全部の撮影が終わった後セットそのものを爆破することで撮影された映像だとか。本編では序盤の盛り上がりどころになるシーンなのに、失敗したらどうするつもりだったのかしらね。馬鹿げているのは作品だけじゃないのよ。キャストは全員万一に備えて遺書を書いてから撮影に入った、とかね。音楽はギタリストとして大変評価の高いトレヴァー・ラビンが手掛けているわ。目を瞑って鑑賞するのもオススメよ。

 世間ではあまり評価が高くなかったり、そもそもイロモノ扱いされていたりするみたいだけれど、スペクタクル映画の歴史を変えた、として一部では熱い支持を受けていたりもするのよ。

 真面目な話、予備知識なども必要としないし、気負いなく観られる映画だと思うから、あまりに現実に疲弊してしまったけれど、何か新しいことでもやって気を紛らわせたい、そんな日に観てみるのはいかがかしら?

 

 語りたくなるサメ映画は、いいサメ映画よ。銀鮫のロマンスに感化された私と、あなた。もうひとつのシネマの幕も上がったりしてね?