愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[オープニングの理論その2](カロ・カン・ディフェンスを考える1)

 

 こんにちは。始まりました、『綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座』。第一回目の今日は、私の好きなカロ・カン・ディフェンスについて、一緒に考えていきたいと思います。

f:id:rikkaranko:20170326120046j:plain

 いやー、まさかまさか、こんなコーナーを持たせてもらえるなんて、思いもしませんでした!私とチェスとの出逢いは、私の所属するユニット・フリルドスクエアが出演するドラマのお仕事が、チェスをテーマにしたものだったので、役作りや世界観なんかを自分なりに理解するために……と思って始めたのですが……。

 

 チェスって、単なるボードゲームじゃないんです。決められたルールの中で、いえ、ルールが決められているからなのでしょうか、人間の知性が盤上の中で花開いていく様はとても芸術的で素敵なんです。将棋のように取った駒を打ち直すこともできなければ、囲碁のように石を外から足していくこともできない、引き算の勝負の中では、最初に与えられたものをどれだけ活かせるか、ということが試されますね。そういったいろんなことが、私の表現力にも最近磨きを掛けてくれたような気がして、えへへ、心が豊かになりますね。

 

 このコーナーは、チェスと出会って自分の世界の捉え方が少しずつブラッシュアップされつつある私たち、フリルドスクエアがそのチェスの魅力を、自分たちなりにファンの皆さまにお届けできたら……という企画です。先輩アイドルの方々にも声を掛けてくれたり、事務所にいくつもチェスセットを用意してくれたり、こうしてチェスのお仕事を取ってきてくれたり、と、プロデューサーさんには頭が上がりませんね。うちのプロデューサーさんは、ぴにゃこら太に目元が似ていて可愛らしいんですよ、ふふ。ぴにゃこら太というのは、垂れ目で少し目つきが悪いんですけれど、じっと見ているとどこか憎めない様な顔をしていて……え?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それは『綾瀬穂乃香の早わかりぴにゃこら太講座』でやってください

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 あっ、す、すいません><

  私がこのコーナーで担当するのは、『綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座』と題して、皆さまが思い立って「ちょっとチェス指してみようかな」と思ったときに、思い出してすぐ使ってもらえるような、そんなセオリーやテクニックを解説していこう、というものです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 今日は黒タイツじゃないんですか

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 春めいてきましたからねぇ……今日は黒タイツじゃないです。

 

 それじゃ、始めましょうか。

 まず、チェスのオープニングは白の1手目によって大きく3つに分類されますね。

  1. キングズ・ポーン・オープニング(King's Pawn Opening)→1.  e4
  2. クイーンズ・ポーン・オープニング(Queen's Pawn Opening)→1.  d4
  3. フランク・オープニング(Frank Opening)→ 1.  それ以外 

  こうです。 eファイルのポーンをキングの前にいることからキングズ・ポーン、dファイルのそれはクイーンズ・ポーンと呼ぶからですね。

 そして、更に黒の1手目で更にそれぞれのオープニングは細分化されます。

 キングズ・ポーン・オープニングは、

  1. オープン・ゲーム(Open Game)→1.  e4   e5
  2. セミ・オープン・ゲーム(Semi Open Game)→1.  e4  それ以外

という風にふたつに大別されます。今日は、この1.2.セミ・オープン・ゲームの中のひとつのオープニング・セオリーである、カロ・カン・ディフェンスを紹介しますね。

 

 カロ・カン・ディフェンスは、Horatio Caro(イギリス)という方とMarcus Kann(オーストリア)という方に因んだ命名だそうです。初手からの進行は、まず

1. e4   c6

f:id:rikkaranko:20170326124333j:plain

(Fig.1.1 Caro-Kann Defence:c6まで)

です。これだけだと黒のc6の意味が分かりづらいので、もう少し進めますね。

2.  d4   d5

f:id:rikkaranko:20170326124819j:plain

(Fig.1.2 d5まで)

 白の形を見て欲しいです。e4~d4と、ポーンを横一列に並べてセンターの制空権を握ろうとする形を、ポーン・ファランクスといいます。他のピースと違って、ポーンは単独ではとても盤面支配力の弱いピースですが、横に並ぶととても強力です。e4~d4のポーン・ファランクスは、実に第5ランクの半分(c5,d5,e5,f5)を隙間なく支配していますからね。ファランクスというのは古代ローマ時代の戦争で用いられた戦法だそうで、歩兵を横一列に配備し進軍することで、個々の力を補い合う、という概念に基づいたものだそうです。ポーン・ファランクスそのものですね、あ、逆かしら。

 この白の好形に攻撃を仕掛ける準備だったんですね、黒の1手目c6は。d4の突き出しに対して進軍を阻むd5のポーンが、初手のc6に支えられています。横並びのポーンは、前のランクを支配することにはとても長けていますが、ピース自体の連携は斜めに繋がったポーン(こちらはポーン・チェインといいます)には劣りますからね。ポーン・チェインはアラベスクのようで美しいです……私だけですかね?

 同じタクティクスに基づくオープニングに、フレンチ・ディフェンスがありますが、こちらとカロ・カン・ディフェンスの一番の違いは何かというと、c8のビショップの展開が出来るかどうか、というところですね。フレンチ・ディフェンスではe6のポーンを突くことでディアゴナルの障害になってしまうんです(c.f. Fig.2.1)。

f:id:rikkaranko:20170326125845j:plain

(Fig.2.1 French defence : 1.  e4   e6  2. d4   d5 まで。e6のポーンがc8のビショップの邪魔になっている)

 ちなみに、黒が2手目でc5として、3.  Nf3となればこれはシシリアン・ディフェンスに合流します。

 あとは……そうですね、黒としては白がd4をついてくれたおかげで、いつでもQa5と出る手がチェックになるのも強みでしょうか。こういう手が常に選択肢にある状況は主導権が握りやすくて、やりやすいですね。

 

 戻しましょうか。なぜ私がカロ・カン・ディフェンスが好きか、ということなんですが、それにはまず私が忍さんとよく勉強や研究をするというのが大きいのかもしれないです。忍さんは相手の手の流れを看破するのが上手で、先回りして手堅く受ける様な指し回しを得意としています。そんな彼女としては、オープン・ゲームのような、序中盤は定跡研究が整備された作戦でミスをせず戦いに入り、微差を守り切って優勢を守ってエンドゲームで手堅く勝つ、というのが理想の勝負になります。これになかなか勝てなくてどうしたものか、と考えていた時に、カロ・カン・ディフェンスと出会ったんですね。カロ・カン・ディフェンスは、ヴァリエーション・ラインも多いですが、ハメ手の筋もとても多いんです。迂闊に踏み入ることが躊躇われる地雷原のようなものでしょうか。もちろん、ハメ手筋を見破られたら使い物にならないようなものではなくて、しっかり最後まで戦える優秀なオープニングですよ。普段の勉強も実戦派の忍さんに対して、私はひとりで定跡を並べていくような時間が好きということもあり、それをどうにか強みに出来ないものか、と考えたのもありましたね。カロ・カンはそんな人にもオススメだと思います!セミ・オープン・ゲームとしては、シシリアン・ディフェンスや先述のフレンチ・ディフェンスより穏やかなゲームが多い印象ですね。

 ところで、私としてみると、ヴァリエーションと聞くとチェスの変化よりも、まだまだバレエの独舞の印象が強いですね……。

 

 えーと、黒のd5まででしたね。ここで白としては4つの手を考えてみたいです。順番に、

(1)  e5  (→アドヴァンス・ヴァリエーション)

(2)  exd5 (→エクスチェンジ・ヴァリエーション)

(3)  Nc3  (→クラシカル・ヴァリエーション)

(4)  Nd2 ( →モダン・ヴァリエーション)

の4つですね。今回は(1),(2)のふたつについて、コメントをしていきます。

(1) これは、白としてぶつけられているファランクスの右翼を、ポーン・チェインに組み替えることで連結させつつ、キングサイドのビショップを活用する手を見せています。一般に、ポーン・チェインが組まれているマスの色と、同じ色のマスに居るビショップの価値というのはとても低くなります。逆を言えば、違う色の方のビショップはとても活躍しやすい布陣になりますね。また、黒のポーンの突き出しに制約を掛けて、ピース交換で常に先手を握ろうという強い手ですね。黒としてはe6と突いて自陣を安定させながらビショップのディアゴナルを通してあげたいところですが、フレンチ・ディフェンスではなくカロ・カン・ディフェンスを選んだからには、先にBf5とビショップの活用を図るのが自然な流れだと思います。以下進行の一例は、3.  e5  Bf5  4. Nc3  e6  5.  g4  Bg6 といったところでしょうか。

f:id:rikkaranko:20170326133802j:plain

(Fig.1.2.3 Advance Variation 5. Bg6 まで)

(2)このポーン交換は白はeファイルをハーフ・オープン・ファイルにできる、という主張ですね。片方のポーンだけが残ったファイルをハーフ・オープン・ファイル、共にポーンの無いファイルをオープン・ファイルといいます。ハーフ・オープン・ファイルは防御力を失う一方でルークやクイーンの働き甲斐がある盤面になりやすいので、活用できれば攻撃の主導権が取れますね。Bd3と出る手を見せるのは(1)と同じ戦略です。黒もcxd5で同じくcファイルを開けたいところです。

f:id:rikkaranko:20170326134819j:plain

(Fig.1.2.4.1 cxd5 まで)

 ここで狙い通り4. Bd3とするのは、先にビショップの睨みでキングサイドに手をつけながら、黒のビショップがf5に展開してくるのを防いでいるよい手だと思います。黒はどうしましょう?こんなふうに、浮き駒のd4を狙ってあげるのがわかりやすいですね。

f:id:rikkaranko:20170326135251j:plain

(Fig.1.2.4.2 4.  Bd3  Nc6まで)

 これはd4を守る手を指さねばいけないわけですが……勢い混んで、目先の実利を追う様に、Nf3がナイトを中央に使いながらd4に紐をつけてイイ手!とやってしまうと、罠です。次のBg4がナイトをピンして激痛となってしまいます。勝手読みは、駄目ですよ?私とのお約束です。

 というわけで、以下の進行としては5.  c3  Nf6  6. Bf4   Bg4……でしょうか。

f:id:rikkaranko:20170326141526j:plain

(Fig.1.2.4.3  5.  c3  Nf6  6. Bf4   Bg4)

 黒は5手目に代えてg6とフィアンケットを組むのも好手ですね。g6~Bf5とすれば、d3に展開して働きの良い白のビショップと、あまり働きの良くない黒のビショップを交換させることもできますからね。

 

 と、えぇ、もうお時間ですか?そうですか……。本当はもう少しこの形はお話したいことがありますが、上手に纏まったのでこのあたりで一区切りを入れるのもいいかもしれませんね。今回はカロ・カン・ディフェンスのオープニングを観て頂きましたが、そのセオリー以上に、セオリーを組み立てる際には、相手の駒の利きをよく観察することが大事になるということが伝わったら嬉しいです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

最後に締めの言葉を

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 えぇ?!えっと、奏さんや留美さんたちのように、すらすらとカッコいい言葉が浮かぶほどチェスに造詣が深い訳では無いので……ですが、最近読んだ中でいちばんのお気に入りの言葉を引用させてもらいますね。ソ連棋士、Bronsteinの言葉です。

――客観性を失うこととは、ほとんどの場合負けを意味する。

 自分の手に対して、相手は常に最もこちらにとって都合の悪い手を返してくる、と思うと良いと思います。綾瀬穂乃香でした!

 

(続く)