愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

第2回 工藤忍の実戦チェスチャレンジ[Giuoco Piano](Yuzu Kitami v.s. Frederica Miyamoto. 前篇)

 

ピッ

速水奏「……」

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シーエムノアトハ!クドウシノブノジッセンチェスチャレンジ!!

 

奏「……ふふっ」

 

奏「ココアでも淹れてこようかしら」

 

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 おはようございますっ。二回目、『工藤忍の実戦チェスチャレンジ』!今日もお仕事頑張ります!

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 今日のゲームは、……なんとフレデリカさんと柚ちゃんのレッスンからだね!

 穂乃香ちゃんから、『解説するレッスンの予定があったらいいのですが、なかったら、よろしければイタリアン・ゲームをやってもらえませんか』って言われて。そしたらちょうどフレデリカさんと柚ちゃんがやってたんだよね!そのゲームの進行を見ながら、解説して行こうかと思います!

 

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そろそろゲストの紹介を

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 あっ、そうでしたね……今日はゲストが来てくださってます。どうぞ~

 

喜多見柚「喜多見だ、勝った!やっほ~、柚だよ~っ!」

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宮本フレデリカ「キッスミ~フンフフフフンフンフレデリカ~♪ラヴリーエンジェル、フレデリカだよ~」

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忍「……というわけで、今日はこのお二方とお送りするよ!」

 

柚・フレデリカ「よろしくね~」

 

忍「初手からの進行は1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4で、柚ちゃんの誘導でジオッコ・ピアノになったんだね(c.f. Figure.1.1)。柚ちゃんは3. Bb5と出るスペイン・ゲームの方が好きじゃなかったっけ?」

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(Fig.1.1 :  1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 まで)

柚「スペイン・ゲームはルイ・ロペスの名でも知られるイタリアン・ゲームの王道だよね!確かに、アタシはルイ・ロペスが好きだけど、それは3. Bc4からの展開で自分が誘導しようと思っても思った様なラインに展開しないことが多いっていう実践的な理由もあってね……。でも、奏さんから、『フレデリカはイタリアン・ゲームの黒番が強い』っていう話を聞いてたから、フレデリカさんなら、ジオッコ・ピアノを習えるんじゃないかなーって思ったの」

 

忍「なるほどねぇ……」

 

フレデリカ「そうだねー、ネットの早指しなんか見てると、中級者くらいまでの人はNf6からツー・ナイツ・ディフェンスに持ち込もうとしたりするようなのが多い気もしないこともなくはない感じするかな!イタリアン・ゲームはどんと来いだよ!なんといってもフレちゃんはパリのドンスコイと呼ばれていたくらいだからね~♪」

 

忍「ドンスコイ、チェス関係ないですよね……。続いての進行が、3. ... Bc5 4. c3 Bb6(Fig.1.2)と……このBb6はどういう手ですか?」

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(Fig.1.2 : Fig.1.1~3. ... Bc5 4. c3 Bb6 まで)

 

フレデリカ「これはねー、まず直截的にはd4と突かれる前に引いておくことで、ビショップが責められないんだよね!それから、4. c3 Qe7 5. d4 edの展開だと、白には6. 0-0 dc 7. Nxc3 d6 8. Nd5 Qd8 9. b4 Bb6 10. Bb2(c.f. Fig.2.1~2.2)なんていう、ポーンを損しながらの強襲の筋があるんだよ~まるで孫子だね!これでも一局の勝負だけど、黒がeポーンを失う分、受ける展開になりやすいんだよね~」

 

忍「えーと、えっ、ここ(Fig.2)で白がdポーンどころかcポーンまで取らせちゃうんですか?!」

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(Fig.2.1 : フレデリカの言及した展開、3. Bc4 Bc5に4. c3 Qe7 5. d4 ed 6. 0-0 まで。edと進んできた黒のポーンが白のcポーンに当たっている)

フレデリカ「とーぜん、6. ... dcと取るよね。そこからさっき言ったみたいに進めると……」

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(Fig.2.2 : フレデリカの言及した展開、6. ... dc 7. Nxc3 d6 8. Nd5 Qd8 9. b4 Bb6 10. Bb2 まで)

柚「Nxc3とcポーンを取りこませて跳ねたナイトが、次にNd5とクイーンを追って黒はQd8とポーン得ながら手損、しかもb4とナイトの紐をつけながら突く手がビショップを攻めつつスペースを構築して白が主導権を握った、って展開なのカナ?」

 

フレデリカ「たぶんそんなカンジ~♪」

 

忍「なるほどこれは……激しい勝負になりそうですね……」

 

柚「というわけで本譜4. ... Bb6はeポーンを保持したまま進めようという手で、こういう選択肢もあるんだなーって。参考になります!」

 

忍「そこから5. d4 Qe7 6. 0-0 Nf6 7. d5 Nb8(Fig.1.3)と……このNb8は手損では?」

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(Fig.1.3 : Fig.1.2~5. d4 Qe7 6. 0-0 Nf6 7. d5 Nb8 まで)

 

フレデリカ「ん~これはね~、しょーがないっ!だって柚ちゃんが黒の4ムーブ目Bb6の意図を瞬時に理解して、こうやって押し込む展開にしてきたんだもん♪そうだよね?」

 

柚「そうです!たぶん、4ムーブ目のBb6とビショップを引くのは、こちらが損をしながらでもぐいぐい攻める展開で受け一辺倒になるのをフレデリカさんは嫌がったんだろう、と思ったから、じゃあその構想を攻めて受けざるを得ない展開にしよう!って思ったの!」

 

忍「なるほど……この辺柚ちゃんは天才だね……そしてこのNb8、実は動く場所がここくらいしかないんだね。Na5だと白から更にBd3~b4の追撃があるし、Nd8だとそもそもこのナイトが使えない展開になって後手不満、ってことかぁ」

 

フレデリカ「そうだよ~、メントスのみんなは賢い!」

 

忍「フリスクですけどね。ここで柚ちゃんが8. Bd3と出て、以下8. ... d6 9. Nbd2 a6(Fig.1.4)と進んだね」

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(Fig.1.4 : Fig.1.3~8. Bd3 d6 9. Nbd2 a6まで)

フレデリカ「この柚ちゃんのBd3はイイ手だよ~、渋い!ナイトとビショップって利きが喧嘩することが時々あって、そういうときにどうやって両方を活かしながら使うかっていうのもゲーム組立でだいじなことで!これは次にNbd2~Nc4~Nxb6を狙っているんだね。c4のマスを開けてナイトの跳ね場所を作ったんだよ~、こうやってb6に早目に据え付けたビショップを攻めに来るかぁ、ってフレちゃんドキドキしちゃったね!」

 

柚「えっへへ~」

 

忍「ということは9. ... a6はビショップの引き場所を作ったという訳ですね、なるほど。安心できる場所って、いいよね。角の引き場を作る端歩、に似てる感覚だけど、歩がぶつかり合ったときに取れる将棋と違って、チェスだとこの位置のビショップは結構攻めにくい場所ともいえるんだ。……ただ、外野からするとここでc6とした方が良いような気がするんですけども」

 

フレデリカ「!」

 

フレデリカ「いいセンスだね~、フレちゃんの敗着かも~?」

 

柚「c6突くならこのタイミングくらいしかないか、確かに……センター攻められるから……どうするんだろう?」

 

忍「本譜だとa6に10. Nc4 Ba7 11. a4 0-0 12. b4 Ne8(Fig.1.5)と進んだんだね……なるほど、これが柚ちゃんのいう、c6が突けない展開ってヤツかぁ」 

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(Fig.1.5 : Fig.1.4~10. Nc4 Ba7 11. a4 0-0 12. b4 Ne8 まで)

柚「10. ... c6はまぁ11. Nxb6だからないとして、あ、別にナイトと掛けたわけじゃないよ///……で、なんだっけ、あ、そうか、次に11. ... c6は12. dc bcと進んで13. Bc2とクイーンの縦の利きを通すと黒のdポーンへの風当たりが強いかなーってカンジするよね」

 

フレデリカ「じゃあ、12. ... c6は?」

 

柚「13. dc bcから交換得!」

 

フレデリカ「おぉ~合格~ナデナデしてあげよう♪」

 

柚「ふへへへ」

 

忍「……?あぁ、13. dc bcに14. b5 cb 15. ab ab 16. Nb6(Fig.1.5.1)でフォークってことかぁ……柚ちゃんの早見えは羨ましいや」

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(Fig.1.5.1 : 忍の読み筋16. Nb6 まで)

柚「Bxb6は17. Rxa8があるからねー」

 

忍「そうだね。……本譜進行のフレデリカさんの12. Ne8はナイトがセンターに活躍できなくなって引き損のようだけど、これ次にf5と突き出して、ポーン・チェインを一気に崩そうとしている油断ならない手だね」

 

フレデリカ「ポーン・チェインは下を狙え!これ今日のフレデリカの名言だから覚えて帰ってね~♪」

 

柚「そこから13. Qc2 g6 14. Bh6 Ng7 15. Ne3 f6 16.Rae1 Rf7 17. Kh1 Nd7 18. g4 Nf8 (Fig.1.6)と進んだよ!ずいぶん進めちゃったけど、ここまでやってることはひとつ!争点になってるのはf5のマスで、黒がf5と出るのを防ぐようにアタシが駒を集めてるんだよ!……あれ?」

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(Fig.1.6 : Fig.1.5~13. Qc2 g6 14. Bh6 Ng7 15. Ne3 f6 16.Rae1 Rf7 17. Kh1 Nd7 18. g4 Nf8 まで)

フレデリカ「わたしたち……」

 

フレデリカ・柚「「いれかわってる~~?!」」

 

柚「って感じで、攻守がいつの間にか入れ替わってるんだよねー」

 

フレデリカ「わーお、息ぴったり!」

 

忍「……というわけで、柚ちゃんは一貫して19. Rg1と。ここで... Bxe3!(Fig.1.7)と。これはポーン交換さえなかったこのゲームでは思い切った手なのでは?」

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(Fig.1.7 : Fig.1.6~19. Rg1 Bxe3 まで)

 

フレデリカ「ん~、……どう?柚ちゃん」

 

柚「これはねぇ、しーっかり覚えてるよ!柚、実はf5を巡る攻防をしている様に見せながら、ちゃっかり20. Nf5を用意してたんだもん!以下 gf 21. gf Kh8 22. Rg2 Ne8 23. Reg1(Fig.1.7.1)まで持って行ければ、白は先にナイトを損しているけど、次の24. Rg8#を見せて優勢だもんネ!」

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(Fif.1.7.1 : 柚の狙い筋、19.Rg1 の後黒が何もしなければ、20. Nf5 gf 21. gf Kh8 22. Rg2 Ne8 23. Reg1 と進んで白優勢)

 

忍「このダブル・ルークの寄せまで読み込んでのKh1だったのかぁ……だからフレデリカさんはナイトを消すBxe3をこのタイミングで選んだんだね!あ、えーと……」

 

柚「本格的に戦いが始まるわけだけど、ここでいったんCM!」

 

忍「ちょ……」

 

フレデリカ「CMの後も目が離せないね!」

 

忍「」

 

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奏「忍ちゃんも大変ね……」

 

(続く)

 

第3回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[オープン・ゲーム > イタリアン・ゲーム > ジオッコ・ピアノ / ジオッコ・ピアニッシモ]

 

 おはようございます。綾瀬穂乃香です。

 前々回と前回はカロ・カン・ディフェンスについての解説をしました。

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 今までこの事務所のお仕事では、大きく『シシリアン・ディフェンス』『カロ・カン・ディフェンス』についてのオープニングまわりのラインについて解説をしたわけですけれど、この二つはどちらも白の初手1. e4に対して黒がe5以外の手を返す『セミ・オープン・ゲーム』と呼ばれる大分類に属していましたね。シシリアン・ディフェンスについては、私の講座で取り上げた後すぐ、柚さんが自分の講座で『オープン・シシリアン』からの『ナイドルフ・ヴァリエーション』、そこからの『アダムス・アタック』という実際の実戦譜の中でどのようにオープニングを選択し、そのあとどうやって中盤へつなげていくのか、というのを詳しく取り上げてくださいましたね。ほかにも、東郷さんと和久井さんの企画ではモダン・ゲームの概念といくつかのオープニング紹介(キングズ・フィアンケット・オープニング/ツカルトート・オープニング/レティ・オープニング)と、キングズ・フィアンケット・オープニングからリバースド・アレヒン・ヴァリエーションに進んだ実戦譜の解説や、忍さんの講座では私たちのレッスン棋譜からあずきさんがソコルスキー・オープニングを使用したものを紹介したり、と、セミ・オープン・ゲームとフランク・オープニングについてはだんだんと皆さんと一緒に見識を深めてきたのですが、実はまだ王道ともいえるオープン・ゲームについては全然触れてませんでしたね!

 

 というわけで、今日からは数回に渡って、このキングズ・ポーン・オープニングの中の、オープン・ゲームに分類される、イタリアン・ゲームと呼ばれるオープニングとその変化について触れていきたいと思います!一緒に頑張りましょうね!

 私が説明した後また柚さんや忍さんの講座で実戦の形を見ることもあると思うので、そういうときは比較して一緒に見ていただけたらなぁと思います。

 

 まず、白の初手1. e4 でキングズ・ポーン・オープニングとなるわけですが、これに... e5と黒が同様にeポーンを突いて白のeポーンがこれ以上進撃してくるのを防ぐ手でもって、オープン・ゲームと呼ぶわけです。

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(Figure.1.1 Open Game : 1. e4 e5 まで)

 ここから2. Nf3 Nc6 3. Bc4と進んだこの形をイタリアン・ゲームと呼ぶんですね。イタリアン・ゲームというと、レベッカロッセリーニが出て来たTVスペシャル『ルパン三世 イタリアン・ゲーム』を思い出す方もいらっしゃいますか?ふふふっ、私もあのお話好きですよ。

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(Fig.1.2 Italian Game : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 まで)

  はい、進めてこの局面ですね。

 eポーンを突きだすのは、ビショップとクイーンのダイアゴナルを通しながらセンターにピースを送って支配しようという手ですね。そして、ナイトを展開しながら相手のポーンを狙うNf3に、狙われたポーンに紐をつけながら同じくナイトを展開するNc6というわけですね。白の3手目Bc4は一見するとよくわからなくて、『ビショップをセンターに展開した手』などとぼんやりした説明をしてしまいそうですが、それならどうしてBb5じゃダメなのかな?と考えるとチェスの実力は上がると思います。ちなみに、ここでBb5とc6の黒ナイトに当てながらビショップを出すと、ルイ・ロペスというオープニングになりますね(c.f. Fig.1.2.1)。

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(Fig.1.2.1 Ruy Lopez : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 まで)

 ではイタリアン・ゲームのBc4は、というと、狙っているマスを見るとわかりやすいかもしれませんね。睨むその先には、f7のポーンがあります。そして、このf7のポーンというのは、初期配置に於いてこのポーンを守っているピースがキングしかいない、という一番のウィークポイントなんです。このまま放置すると、白のNg5~Nf7でルークとクイーンにフォークが掛かってしまいますね。相手の弱点を睨む良い位置にビショップを展開しながら、白は早々にキャスリングの権利を手にした……これが3手目までの流れという訳ですね。

 この局面でどう考えますか?と私は聞いてみたいです。黒番ですから、まず黒の手を考えてみましょう。

 すると、Bc5、Nf6、Be7、そしてd6なんて手が思い浮かびますね。

 黒が3. ... Bc5とした後の白の手としては、まず0-0のキャスリング、それからb4、Bxf7+、c3、d3という手が考えられるでしょうか。これらの手順前後を含めてイタリアン・ゲームは非常に分岐が広く、その分やりがいのある戦型だといえるでしょうね。白番では最も多く指されているといっても過言じゃない形なのではないでしょうか……、ポーンを突いてセンターコントロールする、マイナーピースを繰り出す、キャスリングする、というオープニングの動きを最も効率よく採り入れたのが、イタリアン・ゲームとルイ・ロペスだと思います。その意味で超基本的なオープニングといえますよね。

 今回取り上げるのは3. ... Bc5とする、『ジオッコ・ピアノ』と呼ばれるイタリアン・ゲームの変化と、そこから4. c3と突く『ジオッコ・ピアニッシモ』と呼ばれる変化のラインです。ジオッコ・ピアノ、とはイタリア語で『静かなゲーム』や『穏やかなゲーム』を意味するらしいですよ。

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(Fig.1.3 Guioco Piano : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5)

 黒の3ムーブ目Bc5は白のBc4と同じくf2というキングのみにしか守られていないポーンにダイアゴナルを利かせる手ですね。こういうとき、将棋の『角出』のような言葉がないのはもどかしいですね……。

 白の4ムーブ目は、まず0-0、c3、d3、b4なんて手が目につくととてもよい感覚だと思います。

 ここでは先ず4. c3を見ましょうか。これがメイン・ラインですからね。

 この手はQb3と好位置に居るビショップを応援しながらクイーンを展開する手の準備であると共に、dポーンをd4と突き出して、今しがた出て来たビショップを追い払うのを見せた一石二鳥の手です。左のナイトが動かせなくて窮屈なんじゃないか、って思う人もいると思うんです。そういう短所もありますが、長い目で見た時に、早い段階でのちのちピースをのびのび動かすためのスペースが展開できてよし、と思う人がこの手を指すんでしょうね。そして、そう思う人が結構多いので、これがジオッコ・ピアノのスタンダードな手として今も伝えられているんだと思います。バレエと同じで、ひとつひとつの動作に歴史と重みがあるんですね。

 対しては4. ... Nf6キャスリングの権利を取りに来る手や、ビショップの応援をしながらeファイルに圧力を掛けるQe7といった手が考えられますね。

 

 この4. c3に対して即座に黒が防御の手を返せるのを嫌った展開が、白が4ムーブ目に4. b4と突いて行きなりビショップにぶつけ、Bxb4と取り込ませておびき寄せたビショップに当てながらc3と突きだす展開ですね。1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5に4. b4と突くのはエヴァンス・ギャンビットと呼ばれるオープニングです(c.f. Fig.1.3.1)。

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(Fig.1.3.1 Evans Gambit : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5 4. b4 まで)

 4手目に白が0-0とキャスリングする展開は、手順前後でエヴァンス・ギャンビットの変化になることが多いですね。

 Nf6と黒がナイトを繰り出して来たら、5. d4と突いてポーン・チェインをセンターに築きながら、黒の浮き駒であるe5に攻撃しに行くのがセオリーでしょうか(c.f. Fig.1.4)。

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(Fig.1.4 : Fig.1.3~4. c3 Nf6 5. d4 まで)

 もちろん、黒は取る一手ですね。白も交換を済ませたところで、黒はBb4+とパッセで一度チェックで出る定跡が整備されています。序盤のチェックというのは、『キングは動くとキャスリングの権利を失う』というルールがある以上、動いて貰えればみっけもの、動いて貰えなくても何かを合い駒として強制的に動かせる、というので価値の高い手なんです!なので、一度チェックを決めて、7. Nc3を強制してからNxe4とポーンを取り込むと、この局面ではb4のビショップによってc3の白ナイトはピンされている状態なので取り返せない、ということなんですね(Fig.1.5)。

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(Fig.1.5 : Fig.1.4~5. ... ed 6. cd Bb4+ 7. Nc3 Nxe4 まで)

 ピンでずっとb4の黒ビショップにキングが睨まれているのは白としては非常に居心地が良くないですね。キャスリングしましょうか。

 黒としてはc3のナイトを取りたいところですが、ビショップとナイト、どちらで取る方がいいのでしょうか。私の役目は序盤を簡明に整備することなので、この手の理由について踏み込むと少し高度になり過ぎるきらいがありますから省きますけれど、これはビショップで取り込む方がいいとされています(Fig.1.6)。

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(Fig.1.6 : Fig.1.5~8. 0-0 Bxc3 まで

 

 この節の最後に、4. d3を一緒に見ましょう。先述した、『ジオッコ・ピアニッシモ』という形です(Fig.2.1)。音楽記号のピアノ、よりも穏やかというところからピアニッシモを持ってきたのでしょうか。それとも逆なのかしら……?

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(Fig.2.1 Guico Pianissimo : 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5 4. d3 まで)

 これはeポーンを守りポーン・チェインを早々に築きながら、c1にいるビショップのダイアゴナルを通した手ですね。とても手堅い手だと思います。対する4. ... Nf6には5. ... c3とポーンを突く手と、Nc3とナイトを跳ねる手がありますね。後者だと先後同形、といわれる展開になります。じっくりした戦いになりますね。

 

 今日はイタリアン・ゲームの中でも、ジオッコ・ピアノおよびジオッコ・ピアニッシモという形をやりました。

 冒頭にも言ったように、かなりメジャーなこの形をどうして最初の方にやらなかったのか、ということなのですが、私たちに最初にシシリアン・ディフェンスを教えてくれた奏さんが言う様に、『市販の定跡書の様に頭から並べていくんじゃなくて、実戦の中で使える様、出て来易いと想定される形から紹介していく中で流れを作ったら面白いし見易い』のでは、というコンセプトに基づいているんです。それならジオッコ・ピアノには意外と実戦ではなりにくいのでは?ごもっとも、ですね。ただ、ジオッコ・ピアノにしない変化を説明する際に、ジオッコ・ピアノの形と手の流れが頭に入っているとわかりやすいと思うんです。なので、実際に統計上出やすい形を順番にやっているか、というとそういうわけでもない、とご容赦くださいね。穂乃香からのお願いです。

 

 今日のお便りは、『マリブ・ぴにゃ・こらー太』さんからです。……マリブぴにゃこら太とはどんなぴにゃこら太なんでしょうか……?

 

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こんにちは!忍ちゃんが実戦チェスチャレンジの1回目で、『ポーンはアタシみたい』と言っていましたが、穂乃香ちゃんは自分をチェスのコマに喩えるとなんだと思いますか?

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 はい、とのことです。私は……そうですね。もともとバレエをやっていた私は、ビショップの様な、そんな気がします。なかなか隣のマスが見えないのもそれっぽくないですか?なんてね、えへへ……。

 

 今日はこの言葉を紹介して終わりたいと思います。

――チェスは想像力。

 これはブロンシュタインの言葉ですね。とても簡明に、チェスに最も必要なものを私たちに示唆してくれている言葉だと思います。またお会いしましょう、綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)

 

 

 

 

第2回 桃井あずきのチェス・プロブレム大作戦!

 

 元気!やる気!あずき!!それーっ

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 さーっ、始まりました『桃井あずきのチェス・プロブレム大作戦!』第2回目!

 このコーナーは、みんなの終盤力を鍛えちゃおう大作戦ということで、チェス・プロブレムを題材にあずきが解説したりみんなに投げっぱなしジャーマンスープレックスをしたりするおなじみのコーナーだよ!!

 プロデューサーさんが悪乗りしてエイプリル・フールに3つも記事を更新したりするから、ウチの事務所はストックばかりが溜まって行くね!

 

 まずは前回の宿題を見てみようか!!

 

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(Fig.0.1 : 前回のあずきの宿題/White to move, #4)

 チェスのエンディングって、熟練したチェスプレイヤーでも局面が見辛かったりしてね……将棋のプロは長手数の詰みを実戦で見つけるのが比較的得意な人が多いけれど、チェスはなかなかどうして、GMクラス同士の対戦でもメイト見逃しが起きたり……なんてことがケッコーあるんだよっ!まぁ、チェスは終盤になるとステイルメイトだったり近接見合いだったりパーペチュアル・チェックだったり色々条件が増えるから、この点は一概に将棋と比べてもしかたないっちゃしかたないんだけどねーっ

 しかし、言えることはひとつあるよ!それは、チェスに於いては『終盤力≒チェック・メイトの技術』ということさ!

 

 さぁ、あずきが喋ってる間にみんな、前回の宿題のこと思い出してくれたかな?

 ……実はこの問題を選んだのもグーゼンじゃないんだよっ!Mate in 4、つまり7回も動かすというのは結構選択肢が増えるように思うでしょ?それから、チェス・プロブレムに於いては詰将棋と違って、『連続チェックじゃなくてもいい』っていう大きなルールがあったよね!あとは、『相手の応手を絞ることが初手を絞る条件になっている』っていうのはチェス独特の感覚なのかな?そんな感じで、頑張ればチェス・プロブレムにほとんど初めて取り組むような人でも解けて、なおかつそれらの条件をイイ感じに取り入れた問題!っていうのを引っ張ってきたんだーっ 

 じゃ、作戦開始!

 まずは、『この局面で1手パスしたら相手はどう動くか』って考えるのは、将棋も囲碁も、チェスも大事な考え方の指標だよね!志希サンが言ってたけど、なんだっけ?二人ゼロ……有限……ナントカゲームってやつ!

 

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二人零和有限確定完全情報ゲーム、でしょうか

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 おっ、それだよ!つまり、お互いの指した手がゲームの最初から全部お互いが知っていて、なおかつゲームに最善解があるようなものってことだっけ?だから、自分が一手パスした未来を考えることは、相手にとって最善の手とは何か?を考えることと一緒なんだよね……

 さぁ、この局面ではどうかなっ?って考えると、実は黒が動かせるピースって3つしかないのに気が付くでしょ?そ、c4、d4、e4のポーンしか動けないんだよーっ

 じゃ、まずc4が動いたときに、すぐチェックが掛けられるような、あるいは追い込める白のピース配置ってどこだろう?

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(Fig.0.1.1 : 1ムーブパスして黒がc3と突く場合)

 それから、e4が動いたときにすぐチェックが掛けられる、または追い込める白のピース配置はどんなかなっ?

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(Fig.0.1.2 : 1ムーブパスして白がe3と突く場合)

 って考えると、白は初手でクイーンをa1に配置することで、1. ~ c3には2. Qa2+を、1. ~ e3には2. Qh1+を用意することが出来るよね!

 ちなみにそこから7ムーブで詰ますことが出来るかなっ?

 まず、1. Qa1 c3 2. Qa2+ にはc4の一手だよね!

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(Fig.0.2.1 : 1. Qa1 c3 2. Qa2+ c4まで)

  こんどはそしたら、c5のポーンが動いたことで第5ランクの、キングの横っ腹がすかすかだよっ!だから3. Qa5+ が入るよね!これもc6のポーンを動かしてc5とするしかないよね……

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(Fig.0.2.2 : 3. Qa5+ c5まで)

 するとどうだろう、Qa8#とチェックを掛けると、今度はこのクイーンの斜めを遮るピースもいなければ、キングも逃げられなくて、これは見事4手目チェック・メイトだね!一丁あがりーっ

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(Fig.0.2.3 : 4.  Qa8#まで)

 同様に、 1. Qa1 e32. Qh1+ e4  3. Qh5+ e5 4. Qf7#だよ!

 じゃあ1. Qa1 d3はどうかな?これは、2. Qc3!と距離を詰めるのが正しいよ!これで、相手のcポーンが動く選択肢を奪い取っているんだね!d2はQxd2#が早詰めだね!

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(Fig.0.2.4 : 1. Qa1 d3 2. Qc3まで)

 

 まさか黒はKd4と動けないし、これは泣く泣くe3の1手に、3. ed edとエクスチェンジして、4. Qxd3#というわけだね!ぜひぜひ3つの手順とも、今一度並べてみてーっ

 

 じゃあ今日のプロブレムいってみようか!なんと今日は実戦形から2つ宿題にするよ!

(Problem.1 Black to move, #2)

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(Pro.2 Black to move, #5)

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 あずきの担当分、ほかの人と比べて少ないかな?あずきもそう思わないことも無いんだけど、穂乃香チャンのとか柚チャンのとか結構しっかり並べてみたら時間かかるし、留美サンあいサンのヤツなんかは変化まで追うとかなり読みごたえがあると思うから、週1~2ペースくらいで毎回1,2問良い問題をプレゼントするのがあずきの役目かなって思ったんだ!

 

 今日のお便りはこちら!「柚チャンにぐさぁーっされたいP」さんから頂いたよーっ

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質問です。フリルドスクエアの中で一番チェスが強いのは誰ですか?

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 んーとね、これは、わかんない!最近はみんな結構プレイが出来るようになってきたから、レッスンといって実戦をやってるんだけどねーっ、あずきは忍チャンに1勝1分け、穂乃香チャンに2勝、柚チャンに2敗1分かなっ?忍チャンは穂乃香チャン、柚チャンにおのおの1勝1分してるはず!だから、いい勝負って感じなのかなっ!ちなみにフリスクではまだまだLiPPSや留美サンあいサンには敵わないってカンジ!!まだまだ、頑張らないとねっ!!

 今日紹介する名言は、タルタコワの言葉だよ!

――勝者とは、最後から2番目にミスをした側だ

 深いね-っ、今日はここまで。桃井あずきでした♥

速水奏のサメ映画メモ(『ディープ・ブルー』)

喜多見柚「あっ、あずきちゃんが読んでる雑誌って、あれだよねっ!『速水奏のサメ映画メモ』が載ってるやつ!アタシあのコーナー好きなんだよね~」

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桃井あずき「あずきも好きだよ!あ、じゃあ……よかったら一緒に見ようよ!」

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速水奏のサメ映画メモ

 軟骨魚のように妖艶な振る舞い、上手だが冷めていて不可解な言い回し、そしてその美貌で今やサメ映画界で最も旬なアイドル・速水奏。彼女が古今東西サメ映画を観て涵養してきた眼は信頼が置ける。サメの牙の様に鋭いセンスとロレンチーニ器官よろしく敏感な感性を余すところなく筆に込め、彼女のお眼鏡にかなうサメ映画を紹介してもらう本誌屈指の人気コーナー、『速水奏のサメ映画メモ』。今回は本誌のテーマはウソだったのだが、伝達にミスがあったのか、彼女が選んだのはクソ映画の誉れ高い有名なサメ映画である。

 (文責・鷺沢文香)

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 ねぇ、私の気力が充実してるの、わかるかしら。B級サメ映画を紹介したい気分なの。

 

 私が今日あなたの為に選んできたのは、これ。『ディープ・ブルー』という、1999年のアメリカサメ映画よ。時間は105分と、時間を持て余して仕方がなくて、心が洗われる様なB級パニック映画を観たい気分のときにおすすめな長さね。

 …… 『ディープ・ブルー』という名前のコンピュータがチェスのチャンピオンを倒したという事件もあったわね。関係ないけど。何か大事なことを忘れている気がするわ。

 まぁ、いいでしょう。いつも通り、まず私が粗筋を紹介するわ。

 

 舞台はアクアティカという名の医学研究施設よ。もともとは潜水艦の補給所だったらしいわ。ここはキマイラ製薬という名前の製薬会社の所有の下で、アオザメが飼育され、この脳細胞を利用してアルツハイマーの治療薬を開発しようという研究がおこなわれているの。

 ある日、ここで飼育されていたサメのうち、『第1世代』と呼ばれているサメの中の1頭がアクアティカから逃げ出し、近くでクルージング中のヨットを襲撃する、という事故が起きてしまったの。このことがメディアに大きくバッシングされることになって、キマイラ製薬の社長・ラッセルは、研究員のスーザンに「研究費用の差し止めと施設の全面閉鎖」を通告するわ。スーザンは当然これに反対、目下執り行っているアルツハイマーへの治療薬の研究がほぼ完成している、ということを証明したい、とラッセルをアクアティカに招待するの。こんな雑なフラグを建てられてしまうと、もう嫌な予感しかしないわね。

 ラッセルがアクアティカを訪れた次の日ね。彼の前で、研究が最終段階であるというのを証明しようと、スーザンと、『サメの番人』と呼ばれているアクアティカの職員・カーターは実験を行うわ。第1世代の雌雄の間に生まれた『第2世代』のうちの1匹に麻酔を掛けて実験が行われるの。麻酔ってところがいかにもフラグね。ラッセルが固唾を呑んで見守る中、スーザンが指揮を執って、サメ脳細胞から試薬が完成するわ。これを早速アルツハイマー患者から摘出した脳を用いて治験に掛けたところ、予測以上に脳が活性化する、という結果が出るのね。一同は大喜び、医療学者のジムがサメを誉めようとして近づいたところ、麻酔状態だったはずのサメが突然動き出し、彼の腕を食いちぎるの。……まず、どうしてサメを誉めようとしたのかしらね。面白いわ。

 焦ってカーターはサメを殺そうとするのだけれど、スーザンに阻まれるの。スーザンはサメを水槽に戻すわ。カーターは当然怒りを表明するのだけれど、実は彼、スーザンのことを愛しているのよ。愛しているからこそ、彼女を強く責められないの。意味が分からないわ。サメ恋愛映画は苦手ね。恥ずかしくなるし。

 カーターは外で嵐が吹き荒れる中、救助ヘリを要請するの。海中施設の外で都合よく嵐が吹き荒れている辺りとか、監督は最高にB級ハプニング映画というものを分っていると思うの。監督はレニー・ハーリンね。『エクソシスト・ビギニング』(2004)は第25回ゴールデンラズベリー賞の最低監督賞と最低リメイク及び続編賞にノミネートされたこともある演出評価の確かな監督よ。彼が最近、2014年だったかしら、手がけた『ザ・ヘラクレス』という映画は、『映画史に残るゴミ』『まともな大人が制作したとは思えない』と高評価を受けているわ。ちなみに総製作費7000万ドルに対して世界全体での興行収入が6100万ドルだったそうよ。そちらも持て余した時間を潰せてオススメよ。鑑賞後、100分という時間の貴重さに気が付かせてくれる名作だと思うわ。

 この後、ジムを救助に来たヘリが事故で墜落、電気系統がシャットダウンしてアクアティカから救難信号が送れなくなったり、落ちたジムはサメに防水壁を破壊する道具として使われたりと散々なんだけど、なぜこんな事態になったのか、とラッセルが状況の把握に努める所で、スーザンは「研究中止を恐れ、ジムと裏で組んで遺伝子操作を施しサメの脳内のプロテインを増やすことでサメが人間以上の知能を得る状態を誘発していた」、と告白するの。治験でいい結果が出たのもこのためだったのね。

 その後はパニックに陥るみんなを纏めようとラッセルが団結を呼びかけた瞬間にサメに食い殺されたり、美人がサメに食い殺されたり、ヒロインであるスーザンが囮となってサメと決着をつけに行こうとして呆気なくサメに食い殺されたり、ととにかくサメに食い殺されるシーンが見物ね。

 私がお薦めする作中屈指の名シーンは、風上でジムが立小便をするところよ。本当、優秀な科学者よね。

 最後に残るのは、隣で観ていた文香が思わず『お前が生き残るんかい!』と叫んで立ち上がったくらい意外な人選で……これ以上はネタバレになるから控えようかしら。B級映画って、自分で見て時間を無駄にするのが醍醐味だと思うしね……ふふっ。

 

 周辺の話や、裏話なんかを教えてあげようかしら……ふふっ。

 まず長セリフを吐いて団結を呼びかけた直後にサメに食い殺されたラッセルを演じているのは、『スターウォーズ』や『アベンジャーズ』シリーズで評価の高い名優サミュエル・L・ジャクソンよ。最後まで生き残りそうな俳優を序盤であっさり退場させたり、そういうこだわりが私は好きだわ。

 アクアティカ海上部の撮影は『タイタニック』で使用されたプールで撮られたのよ。世界最大のプール、として度々映画撮影に使われる場所ね。それからアクアティカといえば、水上施設が爆発して吹き飛ぶ映像は、模型を作って撮影する予算が無かったために、全部の撮影が終わった後セットそのものを爆破することで撮影された映像だとか。本編では序盤の盛り上がりどころになるシーンなのに、失敗したらどうするつもりだったのかしらね。馬鹿げているのは作品だけじゃないのよ。キャストは全員万一に備えて遺書を書いてから撮影に入った、とかね。音楽はギタリストとして大変評価の高いトレヴァー・ラビンが手掛けているわ。目を瞑って鑑賞するのもオススメよ。

 世間ではあまり評価が高くなかったり、そもそもイロモノ扱いされていたりするみたいだけれど、スペクタクル映画の歴史を変えた、として一部では熱い支持を受けていたりもするのよ。

 真面目な話、予備知識なども必要としないし、気負いなく観られる映画だと思うから、あまりに現実に疲弊してしまったけれど、何か新しいことでもやって気を紛らわせたい、そんな日に観てみるのはいかがかしら?

 

 語りたくなるサメ映画は、いいサメ映画よ。銀鮫のロマンスに感化された私と、あなた。もうひとつのシネマの幕も上がったりしてね?

 

東郷あい・和久井留美の名局解説その2[後篇](Richard Réti v.s. Alexander Alekhine, 1925, Baden-Baden)

東郷あい「前回の続きからだね。レティv.s.アレヒン、1925年の名勝負だ」

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和久井留美「前回のおさらいをしましょうか。ハイパー・モダン・ゲームの様相で始まったオープニング、途中はレティが優勢を築くも、ナイトの働きでセンターを押さえ、フィアンケットしたレティのビショップを攻める鮮やかな戦略でアレヒンが優位を掴み始めたさなかの、同形三復はらみの局面までだったわね」

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(Figure.1 : 再掲局面図は1. g3 e5 2. Nf3 e4 3. Nd4 d5 4. d3 ed 5. Qxd3 Nf6 6. Bg2 Bb4+  7. Bd2 Bxd2+ 8. Nxd2 0-0 9. c4!  Na6 10. cd Nb4 11. Qc4 Nbxd5 12. N2b3 c6 13. 0-0 Re8 14. Rfd1 Bg4 15. Rd2 Qc8 16. Nc5 Bh3 17. Bf3 Bg4 18. Bg2 Bh3 19. Bf3 Bg4まで)

 

留美「ここでレティには選択肢が少なくとも3つあるわね。つまり、甘んじてビショップ交換を行う、同形三復によるドローを甘受する、そしてビショップを逃げて反撃を伺う。でも、序盤で上手くやったものだから、相手に凭れるのをレティは良しとしなかったのね。ビショップを逃がす20. Bh1が着手で、この手によって局面はレティの側から打開されるわ」

 

あい「続くアレヒンの手は20. ~ h5! これも気が付きにくいが微差を拡大するような好手だね。h4とぶつけて、白のgポーンと交換し先手陣を弱体化する狙いだ」

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(Fig.2 : 20. Bh1 h5 まで)

留美「この手は受けづらいけれどそこまで早い訳じゃないわ。なのでレティはこれを手抜いて黒のクイーンサイドに強襲を掛けることにしたのね。以下21. b4 a6 22. Rc1 h4 23. a4 hg 24. hg Qc7 25. b5 ab 26. abと一気呵成に進むわ。お互い斬り合って、調子づいた白が良く見えすらするこの局面ね。24ムーブ目は流石にfgとは取れないわね。キングの風通しが良すぎるわ」

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(Fig.3 : 21. b4 a6 22. Rc1 h4 23. a4 hg 24. hg Qc7 25. b5 ab 26. ab まで)

あい「同形三復の局面を打開してからの攻め手の作り方は先手も流石といったところだ。先に仕掛けたのは黒なのに、下手を打つと黒陣が根こそぎ持って行かれてしまいそうだ。しかしここでアレヒン自慢のコンビネーションが出て、これがこのゲームを後世に残る名局たらしめているんだ。26. ~ Re3!の特攻がそれだが、この手は見えない、というか見えたら終わりまで見えてしまうような手だね」

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(Fig.4 : 26. ~ Re3! まで)

あい「g3のポーンに、Qc7とRe3が利いていて、これは入ればどちらもチェックで入る手だ。そしてfeとこの差し出されたルークを取る手は、Qg3+とクイーンに付け入るすきを与えるどころか、次にNe3と跳ねだす手のお手伝いまでしてしまう。かといってキングを早逃げしようなどと企もうものなら、すかさずa8のルークがRaa3と応援に来て、厳しくgポーンを攻めたてに来ることが出来るんだ」

 

留美「というわけで現実的には白が指せる手はルークを切ってRg3+を防ぐNf3しかないわね」

 

あい「しかし黒は悠々cbとぶつかっているポーンを交換しQxb5を強要、Nc3と跳ねた手がNe2+を見せながら、白のクイーンに当たっていてとても味が良い」

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(Fig.5 : 27. Nf3 cb 28. Qxb5 Nc3 まで)

留美「これは見る聞く無しに29. Qxb7でしょうね。c7のクイーンの働きが良すぎる一方で、自分のクイーンは責められている。ぶつければクイーン交換に持ち込めるわ」

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(Fig.6 : 29. Qxb7 Qxb7 30. Nxb7 Nxe2+ まで)

あい「当然チェックを入れながらダブル・アタックだ。逃げの一手に対してNe4は黒としてはずっと指したかった手だね。これで白のb7のナイトが完全に置物になったのがわかるかい?また、敢えて急いでNc1と取り込まないことで、ピースを白のキング攻めに集中させているんだね」

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(Fig.7 : 31. Kh2 Ne4! まで)

留美32. Rc4がせめてもの粘りね。黒のBxf3にはRxe4を用意して、またNxd2にはNxd2と同じく返す手が意外とこの後の詰め辛くなるわ」

 

あい「そんなわけで、ここはNxf2と入れるのが良いね」

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(Fig.8 : 32. Rc4 Nxf2 まで)

留美「白はいよいよ手がないわね。Bg2にはBe6と好位置に引く手が普通に良くて、ルーク・ペアに第2ランクを守らせても、Ng4+とキングをKh3とつり出してからのNe5+がディスカバード・アタックよ」

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(Fig.9 : 33. Bg2 Be6 34. Rcc2 Ng4+ 35. Kh3 Ne5+ まで)

あい「逃げるKh2の一手に、ルークをRxf3と切りに行こう」

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(Fig.10 : 36. Kh2 Rxf3 まで)

留美「これはルーク・ペアを活かすRxe2の方が粘れるわね。でも、またNg4+Kh3を強制にNe3+と跳ねる手がディスカバード・アタックよ」

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(Fig.11 : 37. Rxe2 Ng4+ 38. Kh3 Ne3+ まで)

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あい「Kh2の一手にNxc2とルークを切り取り、Bxf3にはNd4と跳ねた手がナイト・フォークだ。本譜はここでレティがリザインした」

(Fig.12 投了図 : 39. Kh2 Nxc2 40. Bxf3 Nd4  0-1まで)

留美「以下の進行は、 41.Rf2 Nxf3+ 42.Rxf3 Bd5と進めて手順にピース・アップを狙いましょう。黒はルークとポーンが残っているので、これは必勝ね」

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(Fig.12.1 : 41.Rf2 Nxf3+ 42.Rxf3 Bd5 まで)

 

あい「お互いに妙手強手の連発で、とても見ごたえのある掛け値なしにいいゲームだと思うよ。……ところで、日本の将棋を見慣れた君たちは、チェスの棋譜をこれまで私たちといくつか見てきて、どうして敗勢に陥ってから形作りをして適度なところで投げないのか、と思ったことはないかい?」

 

留美「将棋とチェスの一番の違い、それはゲーム性や升目の数、駒の違いなんかじゃなくて、精神性に帰着されるのかもしれないわね。将棋は潔癖を是とする。潔さこそ美学だ、という棋道があるわね。対して、チェスは希望がある限り縋り、希望が見出せなくなっても神を信じ、絶望以外に手がなくなるまで指し続けることが求められる。この違いこそ、最大の相違点かしら」

 

あい「将棋と比べながら理解をしよう、と試みると、そんなことを考えてしまうよね。今日はタルタコワの言葉を引用させてもらおうか」

 

留美――レティは才気にあふれたタイプの芸術家であり、対戦相手よりもむしろ自分自身と、自身の理想と疑念と戦うのだ、というやつね。タルタコワがレティを賞賛した言葉よ」

 

あい「自分の理想や疑念と戦うというのは、自分こそが最大の敵ということで、ある意味もっとも苦しい戦いを強いられるものかもしれない。だが、その険阻な道の先にはいったいどのような絶景が広がっているのだろうね。期待されているなら、応えるまで。それ以外に指し手などないだろう」

 

(続く)

東郷あい・和久井留美の名局解説その2[前篇](Richard Réti v.s. Alexander Alekhine, 1925, Baden-Baden)

東郷あい「みんな、久しぶり。東郷あいだ」

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和久井留美「和久井留美よ。今日はこの前のWells v.s. Habu戦に続いて、過去の名ゲームを紹介、解説していくわよ」

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あい「この前のは2005年とちょうど干支が一回り前だったが、今回はぐっと溯ろう。戦前、1925年のゲームだ。日本では阪田三吉が活躍していた頃かな」

 

留美「その政治的背景から、この時代の優れたチェスプレイヤーは国籍の判定が難しい、なんて話もあるわね。そんな時代の秀逸なゲームよ」

 

あい「1世紀近くも前の話だと侮ること勿れ……その感覚は両者とも今見ても素晴らしい。きっと心を籠めて並べれば、今のプレイヤーにとっても大変参考になるはずだ」 

 

留美「それにしても、プロデューサーもうまいこと考えたわね、まったく」

 

あい「あぁ、前回、フリルドスクエアの子たちにゲーム解説をした後、留美さんと呑みに行ったんだけどね。そこでプロデューサーも合流して、流れでチェス盤を挟んだ訳だよ」

 

留美「酒が入ると柄にもなく熱くなっちゃうのよね……。そんなわけで、私たちは賭けをした。結果見事に負かされて、こうしてコーナーを任されるに至ったわけよ」

 

あい「このコーナーでは、フリスクのメンバーがやっているような形式ではなく、私たちが雑談を交えながら、名ゲームを序・中・終盤いちおう一通り浚う、ということをやろうと思っている。彼女たちより私たちの方が厳しいかもしれないな」

 

留美「スタイルとしては、柚ちゃんのに似てるかしらね。でも、彼女は上手いことゲームの盛り上がりどころだったり、実戦の中での駆け引きとオープニングの理論だったりと切り抜いて要点だけ纏めているから初学者に寄り添っていて、一通りを扱う私たちとは少し違うわね」

 

あい「そんなわけで、ぼちぼちやっていこうか。まずこの形を見て欲しい」

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(Fig.1.1 : King's Fianchetto Opening/Benko's Opening/Hungarian Opening)

あい「初手g3はキングズ・フィアンケット・オープニングハンガリアン・オープニングベンコーズ・オープニングと呼ばれている、ソコルスキー・オープニング(1. b4)のように、初手1手で名前がついているオープニングだ。その発動条件の簡単さに反して、日本語の資料は少なくともネット上では、私は見つけられなかった。この形を説明するにあたって、調べてみたんだがね……。Chess.comというサイトがあるんだが、ここではこれまでに30,000ゲームも初手g3が指されているというのだが……」

 

留美「日本語版Wikipediaには申し訳程度に1. g3はBenko Openingと呼ぶ、という内容の記述があるわよ。個別ページはないわね。英語版の方にはe4,d4,c4,Nf3に次ぐ5番目にポピュラーな初手と書かれているけれど……。最近のプレイヤーではポーランドGM、Tomasz Markowskiあたりが白番でよく使って好成績を挙げているわね」

 

あい「そうか、不思議なものだな……ポーン・ストラクチャーでゲームを組み立てようとする旧来の考えに対して、他のピースで中央を支配するバランス感覚でゲームを組み立てようとする考え方モダン・ゲームと呼ぶことがあるのだが、数々のモダン・ゲームのなかでも比較的概念のわかりやすい初手だと思うのだが……」

 

留美「将棋と違って駒交換後の打ち直しがないからかしら。戦型分類にかけてはチェスはとてもシビアな印象があるわ。あるところで局面図だけ切り出したら同じになるゲームでも、初手からの流れで違うオープニングに分類されたりするのはチェスの面白いところね」

 

あい「ちなみに、初手1. Nf3はこの1手でもってやはりツカルトート・オープニングと呼ばれている。先ほどモダン・ゲームは比較的新しい概念だというようなことを述べたが、少なくともレティが活躍した1920年代にはモダン・ゲームの概念は存在していたことが分かる」

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(Fig.1.2 Zukertort Opening)

留美「もっというと、ツカルトート・オープニングから1. ~ d5 2. c4と進むとこれはレティの名前を冠してレティ・オープニングと呼ばれるわ。2. ~ dcと取ってどうかと思うかもしれないけれど、その進行で黒が勝っているのは僅か2~3割ね。3. Na3や3. e3で白がいいみたい」

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(Fig.1.3 Réti Opening : 1. Nf3 d5 2. c4 まで)

あい「余談だが、アレヒンも自分の名前がついたオープニングを持っているね。オープニング研究はカパブランカを除くチェス・プレイヤーの永久の課題ってことだ」

 

留美「今回紹介するのは、レティの指したベンコーズ・オープニングの1局ね。途中でツカルトート・オープニングのラインと合流して同じ局面に入るから、その辺りにも注目すると、モダン・ゲームの序盤感覚としては参考になるかもしれないわね。レティの斬新な盤上感覚を、アレヒンが天才的なコンビネーションで退けた名局よ」

 

あい「アレヒンは、向こうでの発音に寄せてアリョーヒンと呼ばれることもある、ロシアの名プレイヤーだ。このゲームは、アレヒン自慢のゲームの中の1局でもある」

 

留美「私がレティサイドを持ちましょうか」

 

あい「じゃあ、私がアレヒンか。留美さん、よろしく頼むよ」

 

留美「えぇ。先述の通り、初手は1. g3ね」

 

あい「対してe5と突いた」

 

留美「そこから2. Nf3ね。マイナーピースをいきなり繰り出してセンターの制海権を握ろうという独創的だけど理に適った手だわ。この流れは今ではリバースド・アレヒン・ヴァリエーションと呼ばれているわね」

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(Fig.2.1 Reversed Alekhine Variation : 1. g3 e5 2. Nf3 まで)

あい「モダン・ゲームはウチの事務所ではあずきくんや加蓮くん、フレデリカあたりが得意としているね」

 

留美「特に他のふたりと違って、あずきちゃんには将棋の経験値があったからかしらね。厚みを築く指し回しと言うか、その辺りの機微の呑み込みがとても早くて驚いたわ」

 

あい「少し進めようか。黒の5ムーブ目で少し触れたい形があるんだ。以下、2. ~ e4 3. Nd4 d5 4. d3 ed 5. Qxd3 Nf6、とここまでだ」

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(Fig.2.2 : 2. ~ e4 3. Nd4 d5 4. d3 ed 5. Qxd3 Nf6 まで)

留美「確かにこの手はアレヒンの思想が顕著ね」

 

あい「やっぱり留美さんにはわかっちゃうか、まぁそうだね、これはアレヒンのゲームだしね。このNf6という手だが、先述したアレヒンの名前がついているオープニング、アレヒン・ディフェンスを特徴づける手なんだ。基本図までは1. e4 Nf6で、この形をそう呼ぶ」

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(Fig.1.4 Alekhine Difense : 1. e4 Nf6 まで)

あい「この形は当初は黒の手損と言われていた。しかし、こう指されれば当然白は2. e5と突き越すわけで、その伸び過ぎを咎める、というまるで将棋のような感性でアレヒンはこの形を指し、そして好成績を収めた。ナイトを中央に活用することでポーン・ストームに逆にプレッシャーをかける、というのはアレヒンの得意技であったのかもしれないね」

 

留美「本譜進行に戻りましょうか。6. Bg2 Bb4+ね」

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(Fig.2.3 : 6. Bg2 Bb4+ まで)

あい「手の流れからは自然な進行だが、細やかな折衝だ。6. Bg2はビショップをチェスボードの対角線上の最長ダイアゴナルに載せて働かす手筋ながら、白がこの手でキャスリングの権利を得ている。対してチェックでBb4+と出るのは、この手自体が黒にキャスリングの権利をもたらす手でありながら、白のキングが動いてくれれば白だけがキャスリング権を手放さなければいけなくなるわけだ」

 

留美「したがって、キングを動かしたくない白の手は決まるし、そうすれば黒も必然の応酬が続くわ。7. Bd2 Bxd2+ 8. Nxd2 0-0よ」

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(Fig.2.4 : 7. Bd2 Bxd2+ 8. Nxd2 0-0 まで)

あい「8. Qxd2は嫌だね。今クイーンは第3ランクまで難なく出て、ちょうど将棋でいうところの『浮き飛車』のような、とても働きの良い位置にいる。d2に押し込んでしまうと、その女王は僧侶と変わらないじゃないか」

 

留美「アレヒンがキャスリングを行って、局面は少し落ち着いたかに見えるこの瞬間、レティから渋い好手が出るわよ」

 

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(Fig.2.5 : 9. c4! まで)

あい「これは……c5の反発を誘っているが、するとcdとN4b3~Nc5の両方のスレットが受けられないのか。そしてdcとは取りたくないな。アレヒン側は駒が立ち遅れている。いずれにせよ白がcファイルをハーフ・オープンにする狙いは通ってしまうが……これはcdにNb4~Nbxd5の狙いでNa6を用意するのが良いだろうか」

 

留美「これはcdと取りこむわね。Nb4に空いたばかりのcにクイーンを進出するQc4Nbxd5と」

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(Fig.2.6 : 9. ~ Na6 10. cd Nb4 11. Qc4 Nbxd5 まで)

あい「黒番としては、この局面を『Bg2のフィアンケットしたビショップさえ退かせられれば、キャスリングを済ませポーン・シェルターを持ち、ナイトでセンターを押さえている黒が有利な展開に持ち込める』という大局観を持ちたいところだね。フィアンケットしたビショップを攻める手筋は、Bg4(Bf5)~Qc8~Bh3だが、いきなりやるのはc4のクイーンが常に虎視眈々と黒のキングを睨んでいてやりづらい。まずc6を突いて、クイーンの利きを切っているd5のナイトを支えてやりたいところだ」

 

留美「以下進行は、12. N2b3 c6 13. 0-0 Re8 14. Rfd1 Bg4 15. Rd2 Qc8 16. Nc5 Bh3ね」

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(Fig.2.7 : 12. N2b3 c6 13. 0-0 Re8 14. Rfd1 Bg4 15. Rd2 Qc8 16. Nc5 Bh3 まで)

留美「白は13ムーブ目でキャスリングを入れたけれど、これはRfd1~Rd2と手順にルークを活用するのを目指しているのね。ちなみに、220万局のゲームを分析した結果、7割のゲームでは先後ともにキングサイドにキャスリングしていたらしいわよ。この手は強手ね、14. Bxh3と取ろうものならQxh3が飛んできて、ナイトの顔を立てて15.Nxb7 とポーンシェルターを攻略しに行っても、Ng4と手抜いて攻めてくる黒の足が速過ぎるの」

 

あい「なのでBf3と逃げる一手かな。これには引き続きBg2とぶつけたい。黒番だから千日手上等だ。以下の進行は、本譜も17. Bf3 Bg4 18. Bg2 Bh3 19. Bf3 Bg4となっている」

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(Fig.2.8 : 17. Bf3 Bg4 18. Bg2 Bh3 19. Bf3 Bg4 まで)

留美「ここでレティが局面を打開するところから、次回やりましょうか。今日はここまでにしましょう」

 

あい「そうだね、ちょうど一区切り、といった局面だ。モダン・ゲームは巧者がやると一手も遊ばないから見ていて飽きないね」

 

(続く)

第1回 桃井あずきのチェス・プロブレム大作戦!

 

 元気!やる気!あずき!それーっ、『桃井あずきのチェス・プロブレム大作戦』の時間だよっ。

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 フリスクの、他のみんなの回はもうみなさん見てくれたのかなっ?

 他のみんなのヤツはもう放送されてるのに、一向にお鉢が回ってこないので、あずき放置大作戦なのかと心配してたんだよっ。穂乃香ちゃんも柚ちゃんも4回目まで撮り終わってるって言うし……なんでかなっ?

 

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べ、べつに忘れてたわけじゃないんだからねっ

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 ……まぁいいかっ。とにかく、あずきとチェスの棋力をアップする作戦、始めよっか。一緒に作戦、成功させよっ!

 えーと、穂乃香ちゃんが定跡の一手一手を大事に解説してて、柚ちゃんは対局の流れを重視した紹介で、忍ちゃんが……実戦解説だねっ!忍ちゃんの第1回目で取り上げられたゲームはあずきの会心譜だったよっ。ちなみに、ソコルスキー・オープニングは早石田、って感じがするけど、石田流本組ではないかな、って気があずきはしてるんだ。初手でe4突いて、キングサイドにキャスリングしてビショップをキングの前に持って来る様な展開はときどき見かけるけど、楠本式に近いかな?ねんてねっ。

 あずきが、このコーナーでやろうと思うのは、タイトルでも言ったとおり、チェス・プロブレムだよー。日本語風に言うと、『詰めチェス』とでもなるのかなー?詰将棋、って言葉はあるけど、どうなんだろ……詰将棋とチェス・プロブレムは、相手の玉やキングを詰める、というので似てるけど、全部の手が王手じゃなきゃいけない詰将棋と違って、チェス・プロブレムは最後の手以外はチェックじゃなくていい(=最後の手は絶対チェック・メイトだよっ)っていうのがポイントだねっ!

 なんであずきが詰めチェスを紹介して解説したり投げっぱなしにしたりするコーナーをやろうかと思ったかって言うと、将棋を上達するためには詰将棋って不可欠だと思うんだよねっ!終盤力、とかそういうのって、実戦より前にどれだけ備えられるかだと思うしさー。あずきはフリスクの他の3人と違って、もともと将棋をちょっとやってたから、将棋でやったような勉強法がチェスにも導入できないものかなーって思ってるんだ!あずきのセンス、通じるかなっ?

 

 まずはチェス・プロブレムについて、説明だよっ!

 チェス・プロブレムにはいくつか種類があってね。将棋で言うところの『次の一手問題』『詰めろ問題』『詰将棋』を全部一緒くたの括りにしてる、みたいな感じかなー?本当の所をいうと、チェスの実践力を培うような創作問題の中で、『手数制限が掛かっているもの』を特にチェス・プロブレムっていうんだよ!掛かってないやつは別に『スタディ』っていうことが多いかな。

 

 1つ目は、ダイレクト・メイトって呼ばれるタイプだねっ。一般的にプロブレム、っていったらこれを指すことが多いかな。大体詰める側が白番だね。黒のキングしか局面図に無いことが多いんだよーっ

『mate in 2』と書いてあったら、白黒合わせて全部で3回手を動かす、ってことだよっ!先手後手が1ムーブずつで始めて1手、って数えるチェスの手数計算は、将棋に慣れてると最初はちょっと戸惑うよねぇ……。

 あとは、詰将棋では使われない概念だけど、『手数を引き延ばす様な手は、詰められる側は使っていい』っていうのがあるよ!だから、n手問題、つまり『mate in n』って書いてあるのは、将棋のn手詰め(=必ずn手で詰む)っていう意味じゃなく、『詰められる側がどのように応じたとしてもn手以内で必ず詰めろ』っていう意味だと解釈するのがいいのかもねーっ!この条件の為に、初手が定まる問題が多いよ!

 2つ目はヘルプ・メイトって言われるやつだねー。黒番が初手を指して、その後は先手後手が協力して黒のキングを最短手数で詰ませる、っていうやつだね。

 3つ目は、セルフ・メイトってやつかな。白番が初手を指すんだけど、黒がどうやっても白のキングを詰ませてしまう、っていうやつだよ。

 4つ目は、リフレクス・メイトってやつだね!セルフ・メイトと基本一緒なんだけど、先手後手とも、次の1手で相手をチェックメイトできる場合は必ずその手を指さなくてはいけない、っていう条件付きの問題のことだよーっ

 

 ね、1つ目のプロブレムの意味は、詰め碁・詰将棋をやったことがある人とか、そういうのがあるって知ってる人なら、あー終盤力の練習だよね、ってなると思うんだけど、2,3,4つ目って何が目的なのかよくわからないよねっ?あずきも最初に言われたときはわけがわかんなかった!

 でも、チェスのルールをおさらいしてみれば何となく見えてくるんだよっ!

 まず、ステイルメイトがあるよねっ?ということは、どれだけ詰められそうになっても、相手が最善の手順で迫ってきて尚こちらがステイルメイトの局面に誘導することが出来るなら、その局面はチェスでは理論上ドローなんだよ!だから、ある意味『敗勢かなっ?』って思ったあと、どれだけシビアに詰み手順を読めるかもチェスの棋力になるんだよね、面白いよねっ!

 それから、『連続王手の千日手はチェスでは引き分けになる』っていうのも大事なルールだよね!あ、ちなみに将棋の千日手は同一局面4回で成立するけど、チェスでは3回目で成立だから、気を付けてね!同形三復、とかスリーフォールド・レペテーションとか言うよ。連続王手の千日手、にあたるチェス用語はパーペチュアル・チェックっていうんだよっ!最終盤で駒が減り消耗戦になりやすいチェスでは、敗勢側がパーペチュアル・チェックを狙っていくのは基本的な戦術になるからねー。特に、クイーンって駒の特徴を逆手に取るのがポイント!序盤、中盤はクイーンって駒は利きが多くて、隙が無くて強い駒だよねぇ、でも、ステイルメイトやパーペチュアル・チェックがあるような終盤の局面では、迂闊に動かすと相手のキングにチェックがかかってしまったり、相手のキングの行き場所をなくしてしまったりと、多すぎる利きが逆に厄介になることもあるの!隙がないのも困り者だねっ!

 

 さてさて、前置きが長くなっちゃったけど、実際にあずきといっしょにプロブレム解いてみよっか!今日持ってきたのは、全部ダイレクト・メイト問題だよーっ

 

(1)

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(Problem.1 : White to move, mate in 3)

 これは、世界で一番有名なプロブレムかもしれないねっ!なんでかって、紀元840年に作られたと言われている、世界最古のプロブレムとして知られてるやつだからだよーっ。ちなみに、mate in 3 のことを#3なんて書くことも多いかな?将棋風に言えば『5手詰』だよ!White to move っていうのは白先手、って意味だね!

 考えて貰ってる間に、ちょっとザツガクを紹介するねーっ。これは、フィレンツェの図書館に移しが収蔵されているんだって!もう気がついちゃった人もいるかもだけど、この問題、全部チェックなんだよね!詰将棋とおなじじゃーん、って。そうなの!1800年代半ばまでのプロブレムは、実は全部詰将棋と同じオールチェックの形式なんだよ。

 解答手順に行こうか!まずeファイルが白ルークで押さえられているから、黒キングは広い方に逃げ出せないのを確認しよう、すると初手は1.  Nh5+でいいよね!するとこれは取らない手がないから、Rxh5で、ここまで必然だよねっ!

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(Solution.1.1 : 1. Nh5+ Rxh5 まで) 

 さっきの1手で黒のキングはh5に逃げられなくなったよねっ!ということで黒から見て左辺に追い詰めてあげればいいから、2. Rxg6+ Kxg6と、また取らざるを得ない様なチェックを掛けながらgファイルに引き摺り出そう。そうして、Re6#チェックメイトだーっ

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(Sol.1.2 : 2. Rxg6+ Kxg6 3. Re6# まで)

  プロブレムって、こんな感じ!次に行こっか!

 

(2)

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(Pro.2 : White to move, #2)

 これはどうかなっ?

 まず考えることは、全部チェックの連続でいけるかな?ってところだよねーっ、それで、最初にRa8+とRh8+が思いつくけれど、これは1. Ra8+ Nd8や1. Rh8+ Nf8とナイトの合い駒が利いちゃうんだよ~この時点でmate in 2が消えちゃうよね。この条件が無ければナイトとルーク片っぽ交換した後キング動かしてじりじりやってもいけそうなのにーって。

 だから、初手はチェックじゃないんだよっ!やっとプロブレムっぽくなったね~!

 正解手順は、1. Rab7が必然手だね!ルークはを第7ランク、第8ランクの両方に利かせてチェックメイトを目指すから、初手がチェックじゃない以上、ルークを第7ランクに動かす手が初手になるわけだけど、aファイルのルークがここに動く以外の手だと、キングかナイトのいずれかにルークが取られるよ!

 キングが動く場合(A)と、ナイトが動く場合(B)で場合分けして考えると、

(A) 1. ~ Kd8 には2. Rb8#があるねっ!1. ~ Kf8には2. Rh8#だね!

(B) 1. ~ Nc7 には2. Rb8#が、1. ~ Ng7 には2. Rh8#が、1. ~ Nd8 には2. Rh8#1. ~ Nf8 には2. Rb8#があるよーっ、確認してみてねっ!

 

(3)

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(Pro.3 : White to move, #4)

 今日の最後だよっ!これは次回までの宿題大作戦ってことでいいかなっ!

 

 最後に、お手紙を読むんだよねっ。今日のお便りは……っと、「金魚になってあずきちゃんに掬われたいP」さんからだよっ!

 

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あずきちゃん、こんにちは!あずきちゃん将棋棋士ではだれが好きですか?

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 えーっと、あずきは、田丸昇先生かなっ!もう引退なさったけど、長野の誇る名棋士だよっ!

 

 締めは誰かの名言なんだっけ?柚ちゃんのは、名言じゃなかった気がするけどねーっ

 あずきが今日紹介するのは、これ!エマヌエル・ラスカーの名言だよっ!

――良い手を見つけたら、もっと良い手を探しなさい。

  もっと良い手はないか、常に探す最高のレッスンこそ、チェス・プロブレムだとあずきは思うよっ!それじゃ今日はここまで!桃井あずきでしたーっ

 

(続く)