愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

八神マキノのブレイクタイム[戦場の霧の中で]

 

 戦場の霧、というのはもともと軍事学の術語よ。プロイセン軍事学者・クラウセヴィッツという人がその著述『戦争論』の中で初めて言及し世に出した概念なんだけど。要は、戦場に於ける作戦行動の中の、指揮官から見た時の不確定要素のことを言うのよ。

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 ホライゾン・エフェクトについて話そうかしら、って思ったときに思い浮かんで。なんかポエティでいいでしょう?

 

 厳密には、似て非なる概念だけどね。ホライゾン・エフェクトと戦場の霧は。

 ホライゾン・エフェクト、『水平線効果』とか、『地平線効果』とか訳されるのかしら。特に日本語の文献やらなにやらでは前者の言い方が多い気がするけど。私としては、情報伝達に於ける境界面を示す『イベント・ホライゾン』って術語を『事象の地平線』とか『事象の地平面』って訳すのに揃えて、『地平線効果』って呼びたいのだけど。

 

 探索深度と各探索法の間の関係で、『探索アルゴリズムに於ける、探索を有限に設定した場合に発生し得る、長期的な視点では問題が起きてしまう効果』のことよ。

 この概念を血肉とするために、いろいろ言い換えてみましょう。特に後ろの部分が不可解でしょう?『固定された深さで探検していたら、地平線の先に落とし穴があっても気付かずに落ちてしまう効果』とか、そんな感じでいいんじゃないかしら。深度、深さは英語でdepthっていうから、深度を表す変数としてdを設けてあげる。すると、dが有限である限りd+1以降の深さの落とし穴は見つからないってことなのだけれど。

 

 チェスコンピュータを引き合いにしてみると……。

 例えば、『深さdでの探索』っていうのを、簡略化の為に、ここでは単に『d手まで読む』ってことだと考えましょうか。そうしたら、『d+1以降の落とし穴を見つけられない』というのは、『d+1手以降まで進めたら不利になるような変化がわからない』ってことになるわね。

 『問題が潜んでいるかもしれない』というのは、チェスゲームみたいなものに関しては『深度dで探索したときの評価と、深度d+1以上で探索したときの評価が異なって、しかも後者は不利な評価である』って換言することもできるわけね。

 

 ちなみに、よく誤用されているみたいだけど、将棋やチェスのプログラムが負けを『悟った』ときに『王手ラッシュ』をかけて手数を引き延ばそうとする、というのは地平線効果じゃないわ。あれは単なる悪あがきで、そういう風にプログラムが作られているってだけ。要は『効果』ではなく『仕様』ね。手数を最大化しよう、という仕様。王手を指そうとする読みは、深度dでの読みの産物だもの。

 でも、その『負けを悟った』ってところに実は落とし穴があって。実は『深度d+1以上の探索では負けじゃなかったのに、深度dでの探索をした所為で負けを悟った』のだったら、それは『地平線効果の産物としての王手ラッシュ仕様』になるわけだから。難しいわね、思考ログを見れば後から分かる話だけど。

 

 当然、dは増やせば増やすほど、この落とし穴に引っかかる可能性が減るわよね。

こういうコンテクストで数学屋がやりたいのは、変数を最大化した状態で何が起こるか、ということなのだけれど……さて、d→∞としたとき何が起きるのかしらね?

 

 定性的に考えてあげれば、「地平線効果が起き得ない探索」を想起しているから、これは即ち探索のオブジェクトが完全解析されたときを仮想していることになるのかしらね。要はチェスや囲碁、将棋といったボードゲームのプログラムに関しては、これらのゲームが完全解析され、『最善手』をプレイヤー同士が選択していき、更に決着がつく乃至『つかない』ことが証明された状態、よね。

 ということは厳密には、地平線効果は完全解析を待たなければそれ自体を回避することができない、ということになるのだけれど。

 

 人間は『大局観』という言葉が好きよね。どのように定義されているのかは知らない、曖昧な概念だけれど。『大局を掴む』とか、言うわよね。往々にしてこの言葉で表現したいことは多分、「経験則などに基づいて直感的に形勢判断をこなすこと」だと思うのよね。

 だったら言葉の性質として、Artificial Intelligenceに大局観を求めること自体間違っているとは感じるのだけれども、まぁそれはこの際いいでしょう。地平線効果がある限り、完全な『大局観』を持ったAIというのは出て来ないのじゃないかしら?というのは素朴な疑問でしょう?

 

 チェス・コンピュータはこの効果に対して、様々な手法を用いて深度を固定した探索のみに頼り切らないことで改善しようとしてきた歴史があるの。それこそ、ピースがn以下になった局面についてうすべての展開をデータベース化する、なんていうプログラムの助力を得たりして。指し切りの局面からなら、効果も生じないでしょう。ここで深入りするつもりもないけれど、コンピュータチェスの発展の歴史と、静止探索の発展が同期しているのも興味深い事例ね。

 

 ところで、草創期に想定されていた用語と、定義に基づく概念が食い違うことって、案外あるのよね。私はそのひとつがこの地平線効果だと思うの。

 というのは、もともとの地平線効果って、もっとプリミティヴなプログラムに対して、それこそ単純な探索に付随する障碍として捉えられていた概念よね。それに比して今や人間の誰もが勝てないようなチェスをプレイするコンピュータという状況を鑑みれば、我々は既に当初の目的であった、『ある程度の大局観を有する論理ゲーム・プログラム』というものは叶えられた訳で……。

 

 ここで、地平線効果を別の立場から論じてみるのも面白いと思うの。そう、フレーム問題よ。

 フレーム問題とは、「有限の情報処理しかできない人工知能は現実世界で無数に起こり得るすべての可能性に対処できないことを示唆する問題」と言われるけれど……そうね、例えば、貴方が念願かなって、理想の異性の外見と世界最強のチェス・ソフトを備えたロボットを入手したとするでしょう。そして、彼ないし彼女と実際にチェスを始めようとしたときに起こり得る問題……といえば興味が湧くかしら。

 

 ひとつの物事を遂行するためにプログラムされた人工知能は、それを遂行するにあたって付随する障害は判別できない。

 その問題点を改善すべく、付随する障害もクリアするようにプログラムされた人工知能は、現実に起こる可能性がある事象の中でどこまでが『付随している』のかが判別できない。

 では、さらにその問題点を改善すべく、付随していると思われない問題については考えなくてよい、とプログラムされた人工知能は……そう、何が『考えなくてよい問題なのか』がわからなくて、有限の計算リソースを無限に費やしてしまう羽目に陥る、というのよ。

 

 地平線効果は、大きな枠組みでとらえればこのフレーム問題のひとつの定式化といえると思うの。すると、有限の探索以上に我々にとってはある意味で重要な意義を帯びてくる。なぜかって?我々のような自然界の知的生命体がどのようにして問題解決を限られたリソース内でこなしているのか、ということが解明されていないからよ。つまり、フレーム問題を考えることは、我々の問題解決のモデルを考えていることにもなる、ということね。

 問題には解内在型と解外在型のものがあるーーそんな説をどこかの科学者が唱えていたけれど、解が一意的に定まらない問題に対して、正解ではないにしろ、我々は限られた時間や能力、経験の中で『誤りではない』解を導き出す能力というのを備えているーーヒューリスティックな問題解決、と言ったりするのだけれど。

 

 人の思考活動にとっては言語と思考は不可分よね。言語処理を伴わない思考というものを思考することすら能わない。

 機械学習という点では、いくつかのブレイクスルーを我々は手中に収めた。その最たる例が『ディープ・ラーニング』というヤツよね。閉世界仮説の中で、人工知能は学習した履歴に基づき、それを直接参照するのではなくそこから自分なりに最良を判断することすら可能にし始めている。

 対して、言語処理という点では我々は手に何も持っていないも同然なのよね。チェス・チャンピオンのカスパロフを倒すためにチェス・コンピュータ「ディープブルー」が生まれたのは有名だけれども、今日アプリケーションやクラウドソーシングなどにも応用されつつあるIBMの「ワトソン」は、もともとクイズのチャンピオンにクイズで勝つことを目的に作られた人工知能だった。そして、その性質上、言語処理をどうクリアしていくのか、ということがこの企画の目玉だった。結論から言えば、技術的に特異な飛躍を得たのではなく、IBMは圧倒的な資本力でもって大量のデータを覚えこませる、という極めて原初的な方法で一定以上の成果を達成した、というのが現状なの。画像処理や問題解決と並行して、言語処理に卓抜した能を示す人工知能の到来は、どうやらまだ日を待つらしいわ。

 

 つまりは、チェスを力任せに、エレファントにマシンの力で解析し、それに基づいてチェスをプレイする強いソフトはこれからも出てくるでしょうけれど、本当の意味で人間のように思考する人工知能の登場には、まだまだ壁があるようだ、という話よ。そもそも、人間が『神』を手本にしたように人工知能が『人間』を手本にする、という思い込みこそが我々の抱える最大のフレーム問題なのかもしれないけれど……。

 

 少なくとも、まだまだ私たち人間がチェスを楽しむ時間がコンピュータに取り上げられてしまうようなディストピアには、時間がありそうよね。でも、今のうちからセンシティヴに広汎な問題意識を涵養しておかないと、そのうち貴方よりも上手に話し、貴方よりも上手にボードゲームをプレイし、貴方より上手に思考する人工知能に、貴方の人権が剥奪される可能性もないとは言えないわ。だってそうでしょう?それが私たち、ヒューリスティックな人間様の絶対特権だもの。それに気が付くのは1984年より前が望ましいわね。

 

(続く)

星巡る物語 盤外編

 

 ――遊びとは戦いであり、戦いはまた遊びである。

 

 オランダの遠き歴史家・ホイジンガの言葉を引いて私たちが語りたいのは、戦いを模した遊びの歴史であり、また遊びの形をとった戦いの歴史でもある。

 

 彼はまた、こうも言うのだ。

 

 ――文化を守るためには、それを作り続けねばならない。

 

 数多の人間の営為が堆積し、洩れ落ちた後に僅かに残った残滓を我々が歴史と呼ぶのなら、間主観性を獲得するに至らなかった星屑の数ほどのイベントがあったことも忘れてはならない。

 

アナスタシア「ドーブライ、ヴィエーチル。こんばんは、アーニャです。今日は、『星巡る物語』の外伝ということで……アトモスフィエラ……今までとはちょっと雰囲気が違いますね?」

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 本日我々が追うのは、星の生涯ではなく、星々の軌跡であり、宇宙の半生である。

 

アナスタシア「チェスという文化の歴史について、観て行きたいと思います」

 

 我々は、フィッシャーやカパブランカが我々と寸分狂わない同一のルールでチェスをプレイしていたことを知っているし、定跡に名を遺している教皇・ルイ・ロペス・デ・セグラが500年ほど前に同じルールに基づき、同じように思考を愉しんでいたことを疑わない。しかし、では、チェスとは、いつごろからプレイされていたのだろうか。

 

アナスタシア「チェスは戦争を模しています。だから、戦争と共にあったのでは……という発想はとても良いセンを行ってますね」

 

 では、女神たちの時代、古代のギリシャであろうか?貴方の脳裏には今、トロイア戦争の攻城戦のさなか、篝火を囲み陶器の人形を操る兵士の姿が、浮かんでいるかもしれない。

 

アナスタシア「ク ソジャリーニュ……残念ながら、それは惜しいですね?そのボードゲームの子孫を、我々は今『バックギャモン』と、そう呼んでいますから」

 

 チェスとバックギャモンの大きな違いに、駒以外の物を使用するという点があることに、もうお気づきだろう。そう、賽子の存在である。カエサルが『賽は投げられた』と発言した逸話はあまりに有名だが、当時すでに賽子は最古にして最も簡単な構造を持つ乱数生成器として、市民権を獲得していたことが伺える。

 

アナスタシア「将棋やチェスなどを始めようと思って、指南本を買った人なら読んだことがあるかもしれませんが、インドには『チャトランガ』というゲームがありました。これがチェスや将棋、シャンチーなどの生みの親と言われています」

 

 厳密に言うなれば、これも少しだけ補足がある。

 というのは、チャトランガは既に王、象、騎士、船と兵士を象った5つの駒と64のマス目を持ってはいたが、4人制のゲームであり、またそのターンにプレイヤーが動かすことができる駒及び駒の動きは4面の賽子によって意思決定されていたからである。

 

アナスタシア「こんな言い伝えがあります……」

 

 群雄割拠する領主たちが戦争や併合を繰り返し各々の領土を拡大することに執心だった時代のことだ。血を流さない戦争として、チャトランガによる領地のやり取りもなされたという。しかしこのゲームは運の要素を多分に含んでいた。そこで賢王バルハイトは、家来の中でも秀でて賢かったブラーマンという男に、人間の能力の中でも最も特筆すべき、思考力と勇気のみが試される『完全な』ゲームを作ることを要求したのである。これを受けてブラーマンは偶然性を排するべく賽子を捨て、4軍を2軍に編成し直したのだ。これが本当の意味での、チェスの母型と言えよう。

 史実としては、賽子を手放しマインドスポーツとして精製されたという出来事が歴史に登場するのは、ササン朝ペルシャの古文書と言われている。

 

アナスタシア「どこまでが本当のことで、どこからが脚色か。そんなものは我々にはわかりません。ヒストリーとストーリーは似ており、イストリアは歴史であり、物語を意味します。人が記述すれば、それは余すところなくすべてフィクションです」

 

 思考力と勇気の試練として君臨する、この最も気高いボードゲームを終わらせる合図に『チェックメイト』という言葉があるのはよいだろう。これは英語だが、フランスでは『エシェックエマト』という。印欧言語の発音が似ていることの御多分に洩れない例だが、この言葉の起源はペルシャ語で『王は死んだ』を意味する『シャ・マト』だと言われているのはご存じだろうか。

 

アナスタシア「インドからペルシアへとこの古代のチェスが伝播したのは7世紀のことと言われています。遠い昔の、話ですね」

 

 ペルシアを通じ、イスラムの文化交流の波に乗ってすでに7世紀にはアフガニスタンの辺りまで、チェスの足跡を追うことができるという。そしてアラビア文明は唐へと流れ込み、中国でシャンチーが産声を上げた。このゲームの変形が、更に朝鮮半島に伝わるチャンギーだ。これらは9本の線を持っておりーーもうお分かりの通りーーこれが9の行と列を持つ将棋へ繋がったと言われている。

 

アナスタシア「日本では『西洋将棋』と呼ばれているチェスですが、起源も洗練も東洋の地にあったのですね」

 

 では、『西洋』でのチェスの発展は、というとここで我々は一つの空隙に飲まれてしまう。古代ロマン文化の衰退、そして十字軍の駆る馬の嘶きと共に『暗黒時代』を見送って初めて、アラビアから伝来した文明という形で西洋文化が花開くからである。

 

アナスタシア「ルセナ・ポジションに名を残しているルイス・ルセナが西洋で最古のチェスの本を記したのは、15世紀の末の話です。私たちはルネサンスと呼んでいますね」

 

 そしてチェスが更なる洗練を経験するのは、この時代のスペインに端を発する。スペインには歴史上、『太陽の沈まない国』があったことも見逃せない。神聖ローマ帝国が広汎にヨーロッパを支配したこの時代、宮廷に取り込まれたことが非常に要因として大きいのである。

 

アナスタシア「ポーンは2マス進むようになり、キャスリングが、次いでプロモーションのルールが整備されていきました。こうしてマイナーチェンジを加えられながら、大勢の支持を受けたものが、大航海時代に胡椒とともに植民政策を通じて世界中に広がっていったのです」

 

 チェックメイトは英語だが、アンパッサンはフランス語だ。16世紀に君臨したスペインのプレイヤー、ルイ・ロペス・デ・セグラは定跡をその名に留め、同じくイタリアのジョアッキーノ・グレコがシシリアン・ディフェンスの研究をしていたことが知られている。この時代にはもう、同胞は私たちと同じく、白と黒に塗り分けられた64マスの海をキャラヴェルの帆に風をいっぱい受け止め航海していたのだ。

 

アナスタシア「ちなみに、日本で初めてチェスに言及したのは1869年、『西洋将棋指南』という、チェスについてのルールブックだったということです」

 

 列強と比肩することに血涙を流した時代が私たちの国にはあるので、チェスはなかなか根付かなかったのだろう。将棋がマッカーサー元帥に取り上げられなかっただけありがたい話なのだろうか。戦争をかたどったゲームであるチャトランガも後の世界大戦を経て規制を受けることになったのだが、それもまた別の話だ。

 

アナスタシア「これが、チェスというボードゲームを『外から』眺めた時のイストリア、ですね。次に、私たちは『中から』チェスを俯瞰します」

 

 ここからの我々の分析の関心はもっぱら、『現代的なチェス』が確立されてからに向かうのは当然の話であろう。ルイ・ロペスやジョアッキーノ・グレコが嗜んだチェスこそ、我々が今日日パソコンの電源を点ければすぐに楽しめるものだからである。

 

アナスタシア「チェスの中心はしばらくはスペインにあった、という話はしましたが、17世紀に徐々に実権がフランスに奪われていきます」

 

 宗教戦争の爪痕から立ち上がるとともに、初頭こそバロックの影響を多分に受けながらフランスが17世紀中ごろからフランス古典主義という独創的な世界を確立した背景には資産家たちの尽力がある。通商国家という外見と絶対王政という内面を巧みに両輪としたこの時代のフランスに於いて、パトロンの支援を受ける『娯楽』としてのチェスがコーヒーハウスで絶頂を誇ったのだ。

 

アナスタシア「天才が時代を呼ぶのか、時代が天才を作るのかは定かではありませんが、この時代のフランスにフランソワ・フィリドールがいたことは無視できません」

 

 フィリドールは初めて論文的な性格を帯びたチェスの著述を発表したといっても過言ではない英傑だ。近代チェスのポーン構造の基礎をたった一人で築いたこの男が言ったとされる『ポーンはチェスの魂である』という言葉は今もチェス・プレイヤーの耳朶に胼胝を作っているのだから。

 

アナスタシア「1744年には、フィリドールが2人相手の目隠しチェスを行った記録も残っています。興業としてのチェスがあった証拠ですね」

 

 余談であるが、コーヒーハウス・チェスというのは19世紀に入ってチェスクラブが林立し急速にチェス団体が組織化されていくまで続いていくチェスのスタイルになった。

 

アナスタシア「フランスから覇権を奪い返したのはやはり『太陽の沈まぬ国』、イギリスでした。チェスピースの名称や、ゲームの記録といった整備に尽力したスタントンの時代です」

 

 スタントンがフランスと祖国イギリスとの国際試合でサン・タマンを下したのは1843年のことである。その13年後、アメリカの大会で優勝した一人の青年の名が、ポール・モーフィといった。モーフィやアンデルセンといった、輝かしいプレイヤーの時代がすぐそこまで近づいていた。

 

アナスタシア「この時代のチェスを『ロマンティック・チェス』といいます。長期的戦略を用いず、序盤から華々しいピース交換が起こり、最後は殴り合いのような技の掛け合いが、この時代のプレイスタイルの特徴で、それをロマンティックスタイルと呼んだりもしますね」

 

 その最たる例をひとつ挙げよといわれたなら、私は一晩以上呻吟することだろう。しかし、二つ上げよといわれればそれは容易い。アンデルセンの名局の中からイモータル・ゲームエヴァーグリーン・ゲームを持ってくればよいからである。

 

アナスタシア「ロマンティック・チェスは別名をダル・チェスと揶揄されることもありました。鈍い、の意味ですね」

 

 しかし、人一倍その指摘に苦しんだモーフィですら、1. e4 c5の呪縛から逃れることができなかったのである。華々しく、しかし論理ゲームとしてファンダメンタルな発展に欠けたロマン派の時代は、政治や国際情勢に揉まれて唐突に終わる。

 

アナスタシア「歴史の転換点にはふたつのタイプがあります。ひとつはそれを迎えた瞬間に時代が変わったことを誰もが理解するもの。そしてもうひとつは、そこから徐々に世界が変わっていき、あるところで後世の人間が振り返ったときに変化の起点となっているものです」

 

 その転換点は後者のタイプだったといえよう。1873年、シュタイニッツがクイーンズ・ゲームによる高度なポジション・プレーを知らしめた事件である。

 

アナスタシア「ロマンティックスタイルは1930年代までその影響を歴史に留めますが、シュタイニッツやラスカーといったプレイヤーがユダヤ人であったこともまた、チェスの歴史では数奇な巡りあわせでした。ナチス・ドイツソビエト連邦、また冷戦時代のアメリカがそうであったように、戦争を模したゲームとして娯楽の世界チャンピオンとなったチェスはここにきて、政治的なプロパガンダの材料として、また戦争の道具に回収されつつあったのです」

 

 ポジション・プレーはやがてさらに洗練され、単にセンターをポーン構造でコントロールすればよいのか、とそれまでのチェスを根底から揺るがす概念を生むことになる。ハイパーモダンの時代であった。

 

アナスタシア「話は前後しますが、シュタイニッツは『近代チェスの父』と呼ばれていますね。それには理由が二つあります。ひとつは、彼のチェスが時代の転換点となったこと」

 

 そしてもう一つは、彼が初めての公式な世界チャンピオンだということである。チェスの団体が、古代インドに群雄割拠した領主とその私領よろしく乱立する時代を経て、国際的にマインドスポーツとして腕を競い合う趨勢が生まれていたのだ。1886年、ツケルトートにシュタイニッツが土をつけた試合は『公式戦』であった。

 

アナスタシア「公式である、ということと客観的である、ということはまた違った文脈であることに注意しないといけません。1924年に設立された国際チェス連盟がチャンピオンマッチを仕切るようになるまで、客観的な意味での公式世界チャンピオンというのは登場を待たねばならないのですね」

 

 設立当初の国際チェス連盟、FIDEの力は生まれたての小鹿の足腰よりも弱かった。なぜなら自立に必要なだけの力を秘めた大国であるソビエト連保は先述のようにプロパガンダ・ツールとしてチェスを見做していたため、FIDEの標榜する『非政治性』に与することをよしとしなかったからである。

 

アナスタシア「FIDEが取り仕切るまでのチャンピオンマッチは、チャンピオンの鶴の一声で決まる世界でした」

 

 我々が想起する最も大きい例は、1921年にエマヌエル・ラスカーを破って世界チャンピオンの玉座に輝いたホセ・ラウル・カパブランカはアレクサンドル・アレヒンに敗れた1927年までの7年弱、一度とて防衛戦を張ったことがないという事実だろうか。

 

アナスタシア「この、タイトルの私物化ともいえる時代は第二次大戦の終戦直後に訪れたアレヒンの死に殉じました。彼がタイトルを保持したまま急死したことにより、第三者機関がチャンピオンマッチを仕切る必要性を世界が認めるようになったのです」

 

 FIDEによる組織化を経てチェスは競技として現行のスタイルになった。しかしそこに波風が立たなかったわけではない。

 

アナスタシア「1993年は転機の年でした。世界が分裂したからです」

 

 時のチャンピオン、ガルリ・カスパロフと挑戦者ナイジェル・ショートがFIDEに叛旗を翻したのである。しかしながら、我々はすでにこの一件については、本企画の始まりにあたって彼の半生に伴行して観てきた。

 

アナスタシア「チェスにコンピュータが参入したのも、看過しえない出来事でした」

 

 チェスのチャンピオン、カスパロフをチェスで破るためにプログラムが組まれコンピュータが作られたように、シンプルな動機が技術の水準を引き上げるケースが最近にもあった。今や様々な分野に応用されつつある最先端AI・IBM Watsonはもともとクイズ番組のチャンピオンにクイズで勝つことを目的に作られたものである。巨額の研究費の投資により自然言語処理にブレイクスルーを齎すかと衆目を集めているこの人工知能の行方には期待と畏怖が入り混じった心境だ。

 

アナスタシア「人とコンピュータ、という構図で私たちは物事を最近捉えてしまいがちですが、コンピュータも元々、ルークと同じく自然界にない人工物です。『文化を守るためには、それを作り続けなければいけない』。今一度、人間の最も特筆すべき能力である、思考力と勇気の象徴を通して、私たちは自省するときに来ているようには、思いませんか」

 

 今を生きていく瞬間が積み重なって、歴史になっていく。

 書かれなかったことを、なかったことにしないために、生きていく。

 

 チェスは知恵の試金石である。

ーーゲーテ

 

アナスタシア「ダスヴィダーニャ、ダフストレーチ!」

 

(続く)

 

(ナレーション・川島瑞樹 / 文・鷺沢文香)

第10回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[クローズド・ゲーム > クイーンズ・ギャンビット > セミ・スラヴ・ディフェンス]

 

 こんばんは。今日はセミ・スラヴを一緒に観て行きましょう。前回も少し言及しましたね。立ち上がりはスラヴ・ディフェンスと一緒です。……まぁ、スラヴの亜種ですからね。

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 では、さっそく始めましょうか。

 セミ・スラヴの基本形はこうです。

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(Figure.1 Semi-Slav)

 ムービングは1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 e6と進んでこの局面になることが多いですが、この基本形になるならどのようにトランスポーズしても以下をセミ・スラヴと言うことも多い様ですね。クイーンズ・ギャンビットが穏やかな戦型だというのも、この寛容さに寄与しているのでしょうか。手順前後に厳格な他の戦型もありますからね。

 4. ... e6に替えて黒から4. ... dcと取り込むのがスラヴ・ディフェンスのメインラインでしたね。そして、実は4. ... dcとスラヴ・アクセプテッドのラインに入るよりも4. ... e6とセミ・スラヴに入る選択の方が2017年現在では僅かに多く指されている、というデータもあるようですね。セミ・スラヴはスラヴとクイーンズ・ギャンビット・ディクラインドのハイブリッドのようなイメージです。

 

 白の5手目を検討してみましょうか。

 (Fig.1)を見て分かる通り、黒には

(1)b7のポーンをb5まで突き出す

(2)dcと白のcポーンを奪う

 の二つの狙いが今ありますね。これに対して白は半手早く動くために、e3としてとにかくセンターに強固なポーン・ファランクスを築かんとする手や、Bg5とシャープにcポーンを犠牲にクイーンをピンする好戦的な手があります。他にはcd,Qb3,g3,Bf4などの手も考えられますが、これらはあまり指されない印象ですね。5. e3/Bg5でここの別れは83%を占めます。

 

 後者からの別れの方が短く纏まるのですが、説明の順序の都合上、前者から取り上げていきますね。

 

  • 5. e3の分枝

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(Fig.1.1 Semi-Slav, Main Line : Fig.1~5. e3)

 この手は前述のとおりd4~e3と強固なセンターを築くという狙いもありますが、それ以上に黒の黒マスビショップがBe7~Bg5と展開してくるのに対して予め強く制限を掛けています。セミ・スラヴのメイン・ラインと呼ばれます。

 対する黒の応手としては5. ... Nbd7が本筋ですね。ここで5. ... a6と突く手は、アクセラレーテド・メランと呼ばれるようです。他には5. ... Be7/Bd6などでしょうか。いずれもあまり指されません。

 6. Bd3 dc 7. Bxc4 b5とこの展開をメラン・ヴァリエーションと言います。セミ・スラヴを勉強する上では必ず押さえねばならないラインですね。

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(Fig.1.1.3 Meran Var. : Fig.1.2~5. ... Nbd7 6. Bd3 dc 7. Bxc4 b5)

 北イタリア、ミラノの街で行なわれたグリュンフェルドv.s.ルービンシュタイン戦で産声を上げたことに因んで、『ミラノの』という意味でMeranと呼ばれているんですね。ミラノなのにミランではなくメランなのは不思議です。

 黒はd5のマスを放棄する代わりに、白からテンポを奪って手順にクイーンサイドにポーンを展開することに成功しました。

 ここで白はビショップをどこに逃がすかという選択を強いられていますが、8. Bd3と戻すのが最も一般的でしょう。以下一例は8. ... a6 9. e4 c5と進みます。カパブランカをして『不可解な名手』と言わしめたラーセンは8. ... Bb7という手を歴史に遺しており、この手はインプルーブド・メランと呼ばれます。

 しかし、私たちが蔑ろにするにはあまりに忍びないラインがありますね。そうです、8. Be2です。覚えておいででしょうか、Peter Wells v.s.羽生善治戦で白番のWellsがビショップを引いた場所でした。

 けれどもやはり8. Be2は観ませんね。もっとも、6. ... dcも最近あまり見ない、というのもありますが……。日本のチェスは遅れていますから、ウェルズには侮りがあったのではないかと思いますが。それにしても前述のゲームは名局です。

 

 最近は6. ... dcに替えて黒から6. ... Bd6とし、以下7. 0-0 0-0 8. e4 de 9. Nxe4 Nxe4 10. Bxe4と進むのが主なラインですね。

 

 黒ではなく白から6手目に手を替えるならば、シュトルツ・ヴァリエーションと呼ばれる6. Qc2という手があります。資料によってはアンチ・メランと書かれているものもあるようですが、こんがらがりますね。

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(Fig.1.1.4 Stolz Var. : Semi-Slav, Main~5. ... Nbd7 6. Qc2)

 6. Bd3とするとその瞬間に6. ... dcと取り込まれたのがビショップに当たってしまうので、白はテンポを失ってしまいました。この手の言わんとするところはまさにそこにあって、dcと黒が取ってくれるまで白マスビショップは動かさなくてよいのでは?という逆転の発想にあります。カルポフが得意としていました。

 黒は6. ... Bd6と返すのがコモンリーで、7. g4(Shirov-Shabalov Gambit)や7. Bd3(Karpov Var.)と以下展開していきます。

 

  • 5. Bg5の分枝

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(Fig.1.2 : Fig.1~5. Bg5)

 続いてこちらのラインを観て行きましょう。将棋には「敵の打ちたいところに打て」という言葉があるようですが、クイーンをピンすると同時に、この手もやはり間接的に黒の黒マスビショップがg5に展開してくるのを阻害した手だと言えますね。

 ここで5. ... h6と突くのはモスクワ・ヴァリエーションと呼ばれます。以下6. Bxf6 Qxf6が一例ですが、6. Bh4(アンチ・モスクワ)というのもあるようです。

 ですが主要なのは5. ... dc 6. e4と進んだ形でしょうね。

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(FIg.1.2.1 anti-Meran/Botvinnik system : Fig.1.2~5. ... dc 6. e4)

 ボトヴィニク・システムアンチ・メランと呼ばれます。

 以下6. ... b5 7. e5 h6 8. Bh4 g5までは定跡進行ですね。なんだかキングサイドで、カレン・マキノ・アタックのようなことをやっています。

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(Fig.1.2.2 : Fig.1.2.1~6. ... b5 7. e5 h6 8. Bh4 g5)

 ここから9. Nxg5(anti-Meran Gambit)と持ち込むのが多いですが、ここで9. ef gh 10. Ne5と進めた形はEkstrom Var.と呼ばれています。

 9. Nxg5Nd5と返した形はAlatorsev Systemと言われますが、多くはここで9. ... hgとし10. Bxg5 Nbd7と進みますね。ここで更に別れ、11. g3(Lilienthal Var.)や11. Qf3(Szabo Var.)となります。このラインはクイーンズ・ギャンビットと思えないほど激しいラインで、研究がモノを言う深さでしょうね。実戦的には白黒、どちらにもチャンスはあると思います。5年くらい前まではときどきGM戦でも見た、と東郷さんが言ってましたね。

 

 今日は以上のように、セミ・スラヴを見てきました。

 今日は、セミ・スラヴの定跡整備に大きな貢献をしたカルポフの言葉を引用して終わりましょうか。これは、カルポフが世界チャンピオンに復位した際、「あなたにとってチェスとは?」という質問に答えたものと言われています。

――私の人生はチェスしかないほどつまらない人生ではない。

 私が生まれた国には、『将棋を通して人生の名人になれ』という言葉があるそうですが、チェスに打ち込むことで、チェス以外にも色んなものが得られたら、そう願ってやまない秋の夜です。綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)

幕間:アイドルはバトンを繋いでいく

 

速水奏「おはよう……あら?誰もいないのかしら?」

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奏(少し早かったかしら……?まぁ、今日の予定でも確認して、コーヒーでも淹れましょう)

 

奏(……あら?)

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奏(……ふぅん)

 

カポッ キュ キュキュ- キュッ キュッ カポッ

 

奏「……ふふっ♪」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

喜多見柚「おっはよーございまーす!……アレ?おかしいなー」

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柚「……むぅ」

柚「……!」

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カポ キュキュ- キュッ キュッ キュッ カポ

 

柚「……へへっ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

鷺沢文香(……)

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文香(……これは……)

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文香(1ムーブずつ書いて行けばよいのでしょうか……?それにしても、センターゲームですか)

 

文香(こういうのも……たまには面白いですね)

 

カポ ……キュッ キュッ ……ゴシゴシ ……キュキュキュッ カポッ

 

文香「……ふふ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

北条加蓮「へー、ホワイトボードでチェスか、面白いじゃん」

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塩見周子「ほんとだー」

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加蓮「えーと、なになに?」

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加蓮「……って、マロツィ・ディフェンス?!リレー形式だからって、みんな好き勝手やりすぎでしょ……」

 

周子「でも、こういうお遊びも悪くないやん?」

 

カポッ キュッキュ キュー

 

加蓮「あ、私にも貸して」

 

周子「ほな、先行ってるよー」

 

キュッキュ キュー ゴシゴシ キュキュ カポッ 

 

加蓮「……うん♪」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

バターン

宮本フレデリカ「フフンフンフン、フンボルトペンギーン♪」

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フレデリカ「おお……?そういえばアタシこんな落書きしたかも!」

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フレデリカ「ふむふむ……わーお♪デ・シュメット・ギャンビットかぁー」

 

カポキュッキュッキュー カポ

フレデリカ「フフンフンフン、噴射式離陸促進装置~♪」 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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佐々木千枝「うーん、これでいいのかなぁ」

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千枝「どうしよう……」

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千枝「……うん!」

タタッ カポ キュ キュ キュー カポ

 

千枝「これで、よし」ニヘラ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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周子「クイーン交換かぁ、ド派手に行ったね~!……お?」

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周子「誰かチェスセット出しといてくれたーん」

 

周子「ムズいなー。じゃ、これで……おっとっと、インクが出過ぎちゃった」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

文香「現局面は……」

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コトッ コト コトン

文香「……こうですか」

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文香「e4のナイトを逃げるのは……後手としてはつまらないですね。では、こうしてみましょう」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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双葉杏「これ、ドローで良くない?」

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周子「現局面これだから、まだいけるっしょー」

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杏「ビショップ、どこに避けるかだよね」

 

周子「んー、それしかないなぁ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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加蓮「Be6は渋いなあ。柚ちゃんらしいっていうか」コトン

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加蓮「ここで、Rhd1/Rhe1?Ne4……うーん?パッとしないかぁ、じゃ、これだね」

 

キュポン キュキュー キュッ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

文香「16. a4……実に北条流……こうなると黒は暴れるしかないでしょうね」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

奏「16. ... Rhd8ねぇ……間合いをはかってみようかしら……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

フレデリカ「うーわー、奏ちゃんずるいんだー♪」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

千枝「……えいっ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

加蓮「私でもそうしたなぁ……空気の読み合いとか、苦手でさ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

文香「ここでちょっと捻ってみましょうか……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

柚「ええっと……ええ……Rdc1とかRe1とかじゃなくてここでチェック……文香さんらしい突き落とすような手だなぁ……こっちだ!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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加蓮「Ke8に逃げるんだ。じゃ、この辺で決めに行ってもいいよね」

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キュッ キュー カポ

加蓮「ちょっとおっきく書きすぎちゃったかな……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

周子「ふい~、おつかれ~!……そういえば、リレーチェスはどうなったかなー」

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千枝「お疲れ様です」

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周子「おつかれ~。お、それが現局面?」

 

千枝「はい。でも、ここで黒の番なんですけど、指し手がわからなくて……」

 

周子「どれどれ~、あー……みんな、オープニングでふざけまくった割にエンディングは本気になっちゃってさー、って、シューコちゃんが帰って来る前に終わってるやーん」

 

千枝「やっぱり、終わってるんですか?」

 

周子「うん、もう、黒はどうやってもダメだねー。一番マシなのがa6かな?ま、でも延命に過ぎないか。じゃ、ペン貸してー」

 

キュポ キュ キュー キュッ

 

周子「……はい!こんな感じでいいんじゃないかなー。またこういうのやれたら面白いよね!」

 

千枝「……そうですね!」

 

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(続く)

イメージと読みの人生観

 

 本誌初公開の企画、「イメージと読みの人生観」をお送りする。内容は、クセモノ揃いのこの事務所でも一際の曲者たちの読みの能力と独特のチェス観に迫ろうとする、有名企画のパロディである。

 今回は司会役の工藤忍ほか、ブリッツ・トーナメントを制した八神マキノをはじめ、綾瀬穂乃香、鷺沢文香塩見周子双葉杏に参加してもらった。1つの局面図を見て、6人のアイドルにそれぞれの感想や読み筋を語ってもらう。同じテーマ図を見て、同じことを言うのは分析に信頼が持てるし、各人がてんで違うことを言い出すのもまた、チェスの深淵を肌に感じられるようで一興である。

 今回のテーマ図は3つ。ひとつはひとつは習いあるフレンチ・ディフェンスについてのそれぞれの見方が気になる所である。ふたつめは、ブライアン・ギャンビットをどう見るか。そして最後に、最新形への言及をしてもらう。

 

 テーマ図①

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(Fig.1 : 1. e4 e6)

テーマ図②

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(Fig.2 : 1. e4 e5 2. f4 ef 3. Bc4 Qh4+ 4. Kf1 b5)

 

テーマ図③

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(Fig.3 : 1. e4 c6 2. d4 d5 3. ed cd 4. Bd3 Nc6 5. c3 Qc7 6. Ne2 Bg4 7. 0-0 Nf6 8. Qe1) 

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第9回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[クローズド・ゲーム > クイーンズ・ギャンビット > スラヴ・ディフェンス]

 

 こんばんは。この前は『変わりゆく西洋将棋』でお逢いした方もいらっしゃいますね。その節はどうも……また、この講座では久しぶりということで、心機一転、また始めていきたいと思います。

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 この事務所のブログをきっかけに、チェスに興味を持ってくださったとか、実際に自分もプレイを始めてみてくださったという嬉しい声を時々耳にするようになったのですが、実際にプレイしてみようかしら、と思った方がオープニングの手引きとして身近に置いてくださったら嬉しいな、とそんな思いで始めたこの『早わかりチェス講座』、実は今まで1. e4で始まるゲームしか取り上げていなかったんですね。『黒番で相手が1. e4以外の手を指して来たらもうわからない』と、そんな意見を散見することもありましたが、もう大丈夫です!今日から、クイーンズ・ポーン・ゲームを一緒に見ていきましょう。

 

 ここからは少し復習となりますが、チェスのオープニングは白の初手でまず3つに分類することができましたね。そうです、

(1) キングズ・ポーン・オープニング……1. e4と突くゲーム

(2) クイーンズ・ポーン・オープニング……1. d4と突くゲーム

(3) フランク・オープニング……それ以外のゲーム

という分け方でした。そして、(1)のキングズ・ポーン・オープニングは更に黒の初手で2つに分けることができます。

(1.1) オープン・ゲーム……1. e4 e5で始まるゲーム

(1.2) セミ・オープン・ゲーム……それ以外のゲーム

でした。ルイ・ロペスなどはオープン・ゲームですし、センター・カウンターなどはセミ・オープン・ゲームですね。

 

 同様に、クイーンズ・ポーン・オープニングも黒の初手によって分けることができます。こちらは次のように、

(2.1) クローズド・ゲーム……1. d4 d5で始まるゲーム

(2.2) インディアン・システム……1. d4 Nf6で始まるゲーム

(2.3)その他のゲーム

と3つに分かれます。今日から、このクローズド・ゲームのラインを一緒に見ていきたいと思ってます。よろしくお願いします。

 

 ここで、さらにクローズド・ゲームを白の初手で分けることができるのですが、今日からは最も代表的な1. d4 d5 2. c4で始まるクイーンズ・ギャンビットを取り上げたいと思います。クイーンズ・ギャンビットの分岐は、

(Ⅰ)ジルバミンツ・ギャンビット……1. d4 d5 2. c4 b5

(Ⅱ)シンメトリカル・ディフェンス……1. d4 d5 2. c4 c5

(Ⅲ)スラヴ・ディフェンス……1. d4 d5 2. c4 c6

(Ⅳ)クイーンズ・ギャンビット・アクセプテッド……1. d4 d5 2. c4 dc

(Ⅴ)アルビン・カウンター・ギャンビット……1. d4 d5 2. c4 e5

(Ⅵ)クイーンズ・ギャンビット・ディクラインド……1. d4 d5 2. c4 e6

(Ⅶ)バルティック・ディフェンス……1. d4 d5 2. c4 Bf5

(Ⅷ)チゴリン・ディフェンス……1. d4 d5 2. c4 Nc6

(Ⅸ)マーシャル・ディフェンス……1. d4 d5 2. c4 Nf6

と、このようになっており、第9回目の今回は、この中からスラヴ・ディフェンスを取り上げます。クイーンズ・ギャンビットの基本形からは、a,b,c,e,f,g,hファイルのポーンを1マスまたは2マス突くか、ギャンビットを受けるか、はたまた白マスビショップを戦線に送り出すか、左右のナイトを跳ねる手しか指せる手はないのですが、この中でも名前がついているのはとりあえず上記の9ラインという感じですね。付け加えるならば、(Ⅰ)や(Ⅸ)は最近あまり見ないような気もします。

 ここで注意すべきことが一点ありまして、クイーンズ・ギャンビットはあまりにクローズド・ゲームの代表的存在となりすぎてしまい、2手目c4の本来の『ギャンビット』の意味が取り立てて斟酌されなくなってしまったという経緯があり、広義では1. d4 d5 2. c4から始まるすべてのゲームは『クイーンズ・ギャンビット』と呼ばれるのですが、狭義では1. d4 d5 2. c4 e6と進んだ(Ⅶ)の『クイーンズ・ギャンビット・ディクラインド』を指して『クイーンズ・ギャンビット』と呼び習わすことがあります。ネットの記事の閲覧や、観戦サイトのコメントを読むときなどで、『あれ?』と思ったときに思い出してもらえたらいいですね。

 クイーンズ・ギャンビットを学ぶ際には、dファイルのポーンが互いに突かれている、というのが大きなポイントになります。序盤の理解というのは各ファイルのポーンの性格の把握が寄与するところはとても大きいと思うのですが、中でもdポーンというのは最初からクイーンのヒモがついている最強のポーンである、ということを今日はぜひ覚えて帰ってもらいたいですね。クイーンズ・ギャンビットでは、このポーンにお互いピースの利きを集めていくので、必然的にこのポーンを巡って戦いが起こるようになります。

 

 まずスラヴ・ディフェンスの基本の形はこうです。説明の途中でとても細やかな変化に入ることもあるかと思うので、以下は自分の棋力などによって、必要と思うところを読んでくれればと思いますね。

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(Figure.1 Slav Defence : 1. d4 d5 2. c4 c6 まで)

 黒がこの作戦をとるメリットは、まずd5のポーンをc6と突いて支えてやることで、cd cdのリキャプチャを用意し、強固なセンターコントロールの礎を作る狙いにありますね。また、dポーンが早々に突かれているので、クイーンズ・ビショップ(白マスビショップとも言いますね。c8のビショップです)の進路が確保されていることも大きいです。白からcdと取って来ないようであれば、いつでもdcと黒から攻める手があるのも概ねプラスです。

 対してデメリットですが……c6を突いているためにNc6とクイーンズ・ナイトの活用を図る手が指せなくなっているのは無視できませんね。そして足の速いナイトの展開が図れないのと関連して、黒はスラヴ・ディフェンスでは駒組がやや立ち遅れる嫌いがあるのも事実です。白が素早く布陣を整えていくのに突いていき、ドロー含みで反撃を狙う、黒の腕の見せ所ですね。非常に緻密で論理的なオープニングなので、他のオープニングを得意とするプレイヤーであっても、勉強することで得られるものは多いでしょう。

 なぜスラヴというのか……それはアラピンやアレヒン、ボゴリューボフといったスラヴ民族のプレイヤーが深い研究をしてきたことと関係があるのでしょうね。16世紀にはこの形は知られていたようですが、1920年代に入ってから急激に定跡が整備されていった、という時代背景を持っています。非常に網羅性の高い研究が水面下にあるラインでもあり、1930年代の世界チャンピオンたちから脈々と、現在も第一線のグランドマスターたちに好まれているラインでもあります。

 

 チェスのラインは川の流れに譬えられるところがあります。まず主流を押さえ、そこから分枝の傍流を見ていくのが、概観をつかみやすいでしょう。

 

 (Fig.1)の基本形からは、3. Nf3とキングズ・ナイトの活用を図りながらキャスリングに近づける手がやはり多いですね。この手でモダン・ラインと呼ばれるラインに入りました。

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(Fig.2 Slav, Modern Line : Fig.1~3. Nf3 まで)

 3手目で白から手を変えるとしたら、クイーンズ・ビショップのダイアゴナルを抉じ開けながらセンターを強化するe3や、ぶつかっている駒を清算するcd、他にはNc3とこちらのナイトを跳ねる手もありますか。

 3. cdはエクスチェンジ・ヴァリエーションやエクスチェンジ・スラヴと呼ばれますが、後述するラインに合流することが多いのでここでの説明はしません。

 3. Nc3には黒が3. ... Nf6と返し、4. Nf3からメイン・ラインにトランスポーズすることが多いですね。手順前後でもあるラインに合流することをチェスではトランスポーズといいます。しかし、3. ... e5とギャンビットを仕掛ける強気な手もありますので、紹介しておきましょう。

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(c.f. Fig.2.1 Slav, Winawer Counter Gambit : Fig.1~3. Nc3 e5 まで)

 ワイナウワー・カウンター・ギャンビットと呼ばれますね。応じて白微有利と言われています。フレンチ・ワイナウワーにもこの名前が出たのは懐かしいですね。これが主流の3. Nf3から別れる最初の分枝です。

 

 メイン・ラインに戻りますと、3. Nf3には黒も3. ... Nf6と同じくキングサイドのマイナーピースの展開を目指すのが一般的でしょうか。

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(Fig.3 : Fig.2~3. ... Nf6 まで)

 他の手は……というと、例えば3. ... Bf5などはいくらスラヴがクイーンズ・ビショップの展開と相性が良いとは言え功を焦り過ぎというものです。以下4. cd cdと清算した後5. Qb3と手順に出る手がシビアで白勝勢でしょう。

 大きな分かれが一つあって、それは3. ... e6と突くものです。

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(c.f. Fig.3.1 Triangle System : Fig.3~3. ... e6 まで)

 3. Nc33. ... e6を返すのが、現在に至るまで、スラヴからのヴァリエーションの中でも非常に人気の高いものの一つで、セミ・スラヴと呼ばれます。日本のチェス愛好家の頭には、Peter Wells v.s. Habu, Yoshiharuの一戦が思い浮かぶのでしょうか。1日目2日目と2日間に分けて、東郷さんと和久井さんが解説をしてくれたのを思い出します。

 そして、トランスポーズでセミ・スラヴに合流させようという深慮の手として、このトライアングル・システムが指されることもままあります。c6,d5,e6の三角形がその名の由来でしょうね。

 セミ・スラヴはスラヴの派生とはいえ最早ひとつの別の戦型と呼んでも差し支えないほどに深く広い研究がなされているので、ここで入り込むのはやめて、改めて『セミ・スラヴ講座』という形で取り上げたいと思いますので、今日はご容赦を……。

 

 4手目では白はもう一方のナイトも跳ね出すのが多いですね。

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(Fig.4 Three Knights Variation : Fig.3~4. Nc3 まで)

 c2にポーンがいる状態でNc3と跳ねる形を、さながら『歩越しの桂』のようで嫌だという感覚を持つプレイヤーで、この白の形を好むがゆえにクイーンズ・ギャンビットを得意とする、という人は意外といるようですね。この形をスリー・ナイツ・ヴァリエーションといいます。

 4手目で白から手を変えるならば、カタラン・オープニングに近い感覚で指す4. Qb3/Qc2は、以下4. ... dc 5. Qxc4 Bg4/Bf5と難しい序盤になりますね。

 重要な分枝としては、ここで4. cd cdと進めるエクスチェンジ・スラヴがあります。先述の通り、3. cd cd 4. Nc3としてもトランスポーズしますね。

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(c.f. Fig.4.1 Slav Exchange / Slav, Exchange Var. : Fig. 3~4. cd cd / Fig.2~3. cd cd 4. Nf3 Nf6)

 以下は5. Nc3 Nc6 6. Bf4 Bf5と進んで、シンメトリカル・ラインと呼ばれる形になることが多いです。

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(Fig.4.1.1 Symmetrical line : Slav Exchange~5. Nc3 Nc6 6. Bf4 Bf5)

 シンメトリカル・ラインはドロー率が高く、白が少しでも怖気づいてしまうと引き分けに持ち込まれてしまうので一長一短ですね。ここから進めるならば白の7手目はQb3/Rc1/e3などでしょうか。

 他には4. e3と指すスロウ・スラヴと呼ばれる形も知っておきたいです。本筋の4. Nc3に対してビショップの展開を見込み4. ... Bf5と指すのは、5. Qb35. cd~6. Qb3とアドバンテージを手堅く稼がれるので推奨されませんが、4. e3に対してならこの手が入れられるので、以下は4. ... Bf5 5. Nc3 e6 6. Nh4と続くのがコモンリーでしょうか。ちなみに黒としては指せるならBf5はいつでも指したい手になります。スラヴの実戦で困ったら、入らないかまず第一に読んでみたい候補手ですね。

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(c.f Fig.4.2 : Slow Slav~4. ... Bf5 5. Nc3 e6 6. Nh4)

 

 黒の4手目としては、dc/e6/a6が歴史上多く指されて来ました。このうちメイン・ラインは4. ... dcとこのタイミングでぶつかったポーンを緩和しておく手です。この手で入るラインはツー・ナイツ・アタックスラヴ・アクセプテッドと呼ばれるようですね。

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(Fig.5 Two Knights Attack / Slav Accepted : Fig.4~4. ... dc)

 替えて4. ... e6とするのはセミ・スラヴへのトランスポーズを志向する手ですね。クイーンズ・ギャンビットではトランスポーズが多いですが、それはとりもなおさずクイーンズ・ギャンビットが穏やかな戦型だということの証左です。これも頭の片隅に置いておいてもらえると、うれしいですね。いきなり戦いを巻き起こすのでなく、自陣の準備を入念にして、陣形を整えてから戦いを起こしていく……そんな感じでしょうか。

 もうひとつあった、4. ... a6はなかなか深い手です。チェバネンコ・スラヴと呼ばれるラインに入るのですが、この手の意図は中央で白から嫌味をつけられないようにしながらクイーンサイドの発展を目指すということでしょうか。対して白はスペース・アドバンテージを主張する5. c5など指してみたいところです。以下一例として5. ... Bf5 6. Bf4 Nbd7 7. h3 e6など。

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(c.f. Fig.5.1 Chebanenko Slav / a6 Slav : Fig.4~4. ... a6)

 黒4手目の他の候補としてはいくつかありますが、ドイツのプレイヤー・カール=シュレクターの名を冠するシュレクター・ヴァリエーションとして4. ... g6とフィアンケットを目指すものや、サッチティング・バリエーションとして4. ... Qb6というのもあるでしょうか。

 

 さて、メイン・ラインに歩みを戻しましょう。スラヴ・アクセプテッドの4. ... dcの取り込みに対しては5. ... b5と突く手に備えながら、6. e4~7. Bxc4と黒が取り込んできたc4の地点を狙っていくのが機敏ですね。なので、これを目指す手として白はここで5. a4と指します。アラピン・ヴァリエーションといいます。

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(Fig.6 Alapin Var. : Fig.5~5. a4)

 5手目で白から手を替えるとすれば、e3e4かという悩みどころです。

 5. e3はアリョーヒンの名を貰い、アリョーヒン・ヴァリエーションと呼ばれます。

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(c.f. Fig.6.1 Alekhine Var. : Fig.5~5. e3)

 以下は5. ... b5と指す手にさらに分岐し、6. a4と手順前後にするならば6. ... b4は必須ですが7. Na2 e6と進めるのや、7. Nb1と進めるのがあります。

 一方、5. e4と欲張ってみる手はスラヴ・ゲラー・ギャンビットと呼ばれています。私の事務所だと、ユリ・ゲラーの連想から『サイキック!』ということで堀さんが好んでますね。

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(c.f. Fig.6.2 Slav Geller Gambit : Fig.5~5. e4)

 以下一例は5. ... b5 6. e5 Nd5 7. a4 e6というのがあります。

 

 メイン・ラインに戻ります。ここで晴れて黒は5. ... Bf5と指し、ここまでがメイン・ラインとなります。ここでこの着手は、ビショップを好位置に出たいという狙いの他、6. e4を防ぎたいというのがありますね。この手で入る局面のラインは、チェコ・ディフェンスあるいはチェコ・ヴァリエーションといいますね。

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(Fig.7 Czech Def./ Czech Var. : 1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dc 5. a4 Bf5)

 5. ... Bf5に替える手はNa6/Bg4/e6とあります。

 5. ... Na6スミスロフ・ヴァリエーションと呼ばれるラインですね。以下進行例は6. e4 Bg4 7. Bxc4 e6 8. 0-0 Nh4など。

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(c.f. Fig.7.1 Smyslov Var.Fig.6~5. ... Na6)

 5. ... Bg4シュタイナー・ヴァリエーションあるいはブロンシュタイン・ヴァリエーションと呼ばれています。以下進行例は6. Ne5 Bh56. e4 e5など。

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(c.f. Fig.7.2 Steiner / Bronstein Var. : Fig.6~5. ... Bg4)

 5. ... e6はベルギーのマスターにちなんでソウルタンベイエフ・ヴァリエーションといいます。珍しいラインですね。

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(c.f. Fig.7.3 Soultanbéieff Var. : Fig.6~5. ... e6)

 

 メイン・ライン以後の分岐は6. Nh4と指すブレッド・アタック6. e3と指すクラシカル・ヴァリエーション、そして6. Ne5と跳ねるクラウス・アタックが主な分枝です。それぞれ少しずつ見ていきましょう。

 まずクラシカル・ヴァリエーションです。

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(Fig.8.1 Classical Var. : Main Line~6. e3)

 クラシカル・ヴァリエーションはダッチ・ヴァリエーションとも呼ばれますが、ここも少し表記の揺れがあります。というのは、以下の進行例である6. ... e6 7. Bxc4 Bb4 8. 0-0 0-0をダッチ・ヴァリエーションとするという説もあるからですね。ここで黒が6手目を替えて6. ... Na6として7. ... Nb4を見せるのはダッチ・ラスカー・ヴァリエーションといいます。

 

 次にブレッド・アタックです。これはBf5と出てきたビショップにいきなり当てて跳ねる手です。

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(Fig.8.2 Bled Attack : Main Line~6. Nh4)

 

 最後に、クラウス・アタックですね。同じくナイトを跳ねる手ですが、こちらは中央に使っていきます。

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(Fig.8.3 Krause Attack : Main Line~6. Ne5)

 クラウス・アタックの以下の進行としては、6. ... e6から7. f3 Bb4と進んだ例や、6. ... Nbd7から7. Nxc4 Qc7と進んだ例がありますね。

 

 本日はここまで、です。スラヴ・ディフェンス、ぜひドヴォルザークなんか掛けながら、盤上にスラヴの風と歴史を感じてもらえたら、私は嬉しいです。

 

 ラスカーはいいました。

ーーいい手を見つけたら、もっといい手を探しなさい。

と。チェスのオープニングがもつ歴史は、偉大な先駆者たちの飽くなき探求の歴史でもあると、そんなことを思います。またお会いしましょう、綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)

喜多見柚の名局好局つまみ食い[『イモータル・ゲーム』ブライアン・ギャンビット / Adolf Anderssen v.s. Lionel Kieseritzky, 1851, London]

 

 やっほーみなさん、柚だよ、ひさしぶり!

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 なんだか天気が不安定だねー、すごい暑い日もあれば、いきなり雨に降られたり……。でも、いいこと、一日ひとつ見つけられたらそれでいいかなって、へへっ♪

 

 今日紹介するのは、1851年のゲームだから……今からえーと……だいぶ昔!

 でも色褪せたかっていうと、とんでもない!『不朽のゲーム』、イモータル・ゲームと呼ばれてるゲームなんだ。柚が以前、アンデルセンの『エヴァーグリーン・ゲーム』を紹介したのを、みんな覚えててくれてるカナ?今日はそのアンデルセンの、もうひとつのm@sterpieceを紹介するよ~っ!

 

 白番がアドルフ・アンデルセン。数学者にしてチェス棋士っていう、まるで論理的に頭を使うために生まれて来たみたいな人だ~って話を前のときにしたよネ。

 対する黒番は、ライオネル・キーゼリッキーだネ。そ、キングズ・ギャンビット・アクセプテッド、通称KGAのラインの中にキーゼリッキー・ギャンビットっていうのがあったよネ!これこれ!これも柚が紹介したんだった!彼も、このイモータル・ゲームにキーゼリッキー・ギャンビットと、チェスの歴史において重要な役目を果たした人だよ!

 

 このゲームは、ロマンチック・チェスの代表的存在、ともいわれているんだよネ。ロマンチック・チェスっていうのは、別に恋愛映画みたいとかそーゆーイミじゃなくてネ!ロマン時代の……ってことらしいけど、チェスの歴史の流れはよくわかんない!から、これは今度文香サンとか奏サンに解説してもらおう!とにかく、意味としては『短期決戦的な殴り合い重視』、みたいなカンジ……合ってるカナ?ハイパーモダンとか、そういうチェスより大分前の、戦略を練って持久戦的に指すんじゃなくて、どんどんピース交換して最後にキングを乱戦で仕留めたら勝ち!みたいなゲームを指していうみたい!ちょうど、アンデルセンが活躍した時代がそこに当たってるみたいで、キングズ・ギャンビットやジオッコ・ピアノみたいな華々しい乱戦型が多くて、逆にクイーンズ・ゲームが全然指されなかったんだって。

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(Figure.1 : 1. e4 e5 2. f4 まで)

 このゲームも、キングズ・ギャンビットだネ!アンデルセンが早くも、自分のキングサイドを弱めるリスクを犯しながら仕掛けるー!

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(Fig.2 : 2. ... ef まで)

 黒は堂々、このギャンビットを受けたーっ!これで戦型はKGAに決まりだネ。

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(Fig.3 :  3. Bc4 Qh4+ 4. Kf1 b5 まで)

 3手目Bc4は今では主流じゃないカナ?感触的にはNf3って出るのが多い気がする局面。黒から3. ... Qh4+とチェックを掛けて、白のキャスリングの権利を奪ったネ。

 この速攻チェックで黒が良いような気もするカモだけど、これは後々白がNf3と跳ね出す手が直截に当たるので、どうせ追い払えるからダイジョーブ!ま、さっきも言ったけど3. Nf3はこのクイーンの進軍を阻む手だから、こっちの方が穏便カナって感じはするなー?

 ここでちょっと有利を稼いだから……って黒は続く4手目でb5と白マスビショップの活用を図ったところ!いきなりポーン損するからちょっともったいない気もするケド……こーゆー手は実際指されてたりもするから難しいトコロ!たとえば、1993年のナイジェル・ショートv.s.ガルリ・カスパロフでは、

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(c.f. Fig.3.1 Short v.s. Kasparov : 1. e4 e5 2. f4 ef 3. Bc4 Qh4 4. Kf1 b5以下、5. Bxb5 Nf6 6. Nf3 Qh5 7. Nc3 g5 8. d4 Bb7 9. h4 Rg8 10. Kg1 gh 11. Rxh4 Qg6 12. Qe2 Nxe4 13. Rxf4 f5 14. Nh4 Qg3 15. Nxe4 1-0)

 っていうゲームがあったネ!このKGA~3. Bc4 Qh4+ 4. Kf1 b5と突いたところをブライアン・ギャンビットって呼ぶんだって!

 ブライアン・ギャンビットはキーゼリッキーの他だと、あのポール・モーフィが白黒両方持って指してるカナ。ま、KGAは乱戦上等って形だからこの位はいいのかも。

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(Fig.4 :  5. Bxb5 Nf6 6. Nf3 Qh6 7. d3 Nh5 8. Nh4 Qg5 9. Nf5 c6 10. g4! Nf6 まで)

 白マスビショップを攻める黒9手目のc6に対して、これを逃げずに攻め合う10. g4の鬼手が炸裂!相手の大駒を責めるムーヴ、しかも自分の玉頭で、これは華々しいネ~。ちなみに、後世の研究では、ここでは代えて10. Ba4のがいい、って主張もあるみたい。ま、名局ほど後代のマスターたちが挙って研究するから、色んな悪手や疑問手が見つかるんだよネ。時代やプレイヤーを考えての鑑賞と、教材としての分析はまた別、ってことだネ!

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(Fig.5 :  11. Rg1! cb 12. h4 Qg6 13. h5 Qg5 14. Qf3 Ng8 15. Bxf4 Qf6 16. Nc3 Bc5 17. Nd5 Qxb2 まで)

 ビショップを逃げず11. Rg1が先を見通した好手で、ここから3手でアンデルセンは黒陣を押し返し抑え込むことに成功!こう見ると、黒はピース得ながら、圧倒的に効率の面で立ち遅れてるよネ。ピースがほとんど初形のままだモン。これはアンデルセンの凄さがわかってもらえるんじゃないカナ……!

 クイーンに最長ダイアゴナルを走らせキーゼリッキーも猛追するけれど、果たして。

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(Fig.6 : 18. Bd6 Bxg1 19. e5 Qxa1+ 20. Ke2 Na6 まで)

 19. e5がすべてを読み切った手で、20手目のこの局面から3手メイトなんだよネ。読み切れるカナ?劇的な詰め筋!

 ちなみに、18. Bd6 Qxa1+ 19. Ke2 Bxg1 20. e5 Na6って伝えてる資料もあるみたい。とにかく、ルークをバシバシ見捨てて鬼気迫る猛攻、ってカンジ!

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(Fig.7 : 21. Nxg7+ Kd8 22. Qf6+ Nxf6 23. Be7#)

  最後は、ルークどころかクイーンまで!すべての大駒を捨てての鮮やかな収束……!アンデルセンの類稀な腕力とコンビネーションが発揮された、名局中の名局だよネ。この『イモータル・ゲーム』、チェスの文学の中でも比類なき傑作って呼ばれてるんだって。なんども並べてみて欲しいナ!

 

 締めの言葉は……どうしようカナ。ん、これにしよ!

――運に頼る人はトランプかルーレットをやった方がいい。チェスは全く違う何かである。

 これはペトロシアンの言葉。人間どうしの勝負では、指されるのを待っているミスがそこかしこにあって、体調だとか、心理状態だとか、そういう兼ね合いで純粋な読み以外のものが入り込んじゃうことはあるけれど、それでもやっぱり、運じゃないんだよネ。そんなことを想う秋の夜長、喜多見柚でした!

 

(続く)