愛とは、全人生をかけてアイドルにチェスを教えること。

フリルドスクエアと行く、奥深いチェスの旅。

喜多見柚の名局好局つまみ食い[すごいルーク+キング・エンディング / José Raúl Capablanca v.s. Savielly Tartakower, 1924, NewYork]

 

 久しぶり!柚だよー。

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 今日は6回目……7回目?8回目だった気もする……まぁいっか!アダムス・アタックのときとロッソリモ・アタックのときは、タイトルに日本語を入れたんだけど、これからは分りやすい様にアタシがそのゲームを選んだ理由みたいなものをちょろっと書いておこうかなって思って、書いてみたよ!

 というわけで今日の『好局つまみ食い』は、すごいルークとキングのエンディングが見どころのこのゲームを紹介~!

 

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(Figure.1 : 1. d4 f5 2. Nf3 e6 3. c4 Nf6 4. Bg5 Be7 5. Nc3 0-0 6. e3 b6 7. Bd3 Bb7 8. 0-0 Qe8 まで)

 白番カパブランカはアーニャさんが『星巡る物語』でも取り上げてたよネ!圧倒的な記録を打ち立て、歴代最強の呼び声も高い伝説のチェス・プレイヤーだよ!

 黒番タルタコワは、独創的な研究で後世に大きな影響を与えたプレイヤーとして知られているネ!『ハイパーモダン』って言葉を最初に言い出したのはタルタコワだって言われているし、動物園を訪れた後に思いついたオープニングに『オランウータン』ってつけたりとか、変わった人だったんだなぁって。旅が好きだったことでも知られているよネ。旅が好きな人って変わった人が多いのカナ?……なんて。

 

 1. d4 f5の形をダッチ・ディフェンスって呼ぶんだよー!ダッチ・ディフェンスの狙いとしては、こうやって駒組みを進めた後で、9. ... Qh5~10. ... Ng4と黒のキングサイドを攻め潰すこと! 

 

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(Fig.2 : 9. Qe2 Ne4 10. Bxe7 Nxc3 11. bc Qxe7 12. a4 Bxf3 13. Qxf3 Nc6 14. Rfb1 Rae8 15. Qh3 Rf6 16. f4 Na5 17. Qf3 d6 18. Re1 Qd7 19. e4 fe まで)

 黒の狙い筋に対してカパブランカが用意したのは、9. Qe2!これはさきほどのプラン通りに9. ... Qh5と黒が指す手に10. e4とセンターに強力なアドを築く返しを用意した手だネ。こうなると黒はちょっとどころじゃなく指し辛いので、カパブランカはこの一手でタルタコワに路線変更を強いた、ってことになるのカナ。

 ピース・エクスチェンジをした11. bcでは、白にはcファイルのダブル・ポーンと引き換えにbファイルがオープンになったので、ここからルークを使っていく選択が出来るようになったネ。ここで11. ... Qxe7は12. ... Qa3と白陣を危ぶめる狙いを秘めた当然の一着だけど、これにも手堅く12. a4と予め受けておくんだネ!カパブランカの強さは、勝ちやすい形を序中盤で作ることにあるのかもネ!

 受けの手といえば、ちょっとぼやっとして見える15. Qh3もそうだよー!これは15. ... e5に16. Bxf5を用意していて、黒から局面を開いて行こうとすること自体が阻止されているんだよネ。これで16. f4と突ければ、白は超強力なe5を手に入れることにもなるって寸法!

 将棋と違ってチェスでは駒の打ち直しができないから、予め相手の狙いを潰すために駒組みをしたら、大駒はソッコーで次の仕事場に向かうべし!このタイミングの読みがどれだけ精確か、それこそがミドルゲームの強さ、ひいてはチェスの強さなんだと柚は思うナ!17. Qf318. Re1はその典型例ともいえるような采配だよネ。こうしてeファイルにルークを呼び戻したカパブランカは、ピースの利きを伸ばしていこうと19. e4で局面を打開しに行くんだネ。

 

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(Fig.3 : 20. Qxe4 g6 21. g3 Kf8 22. Kg2 Rf7 23. h4 d5 24. cd ed 25. Qxe8+ Qxe8 26. Rxe8+ Kxe8 27. h5 Rf6 28. hg hg 29. Rh1 Kf8 30. Rh7 まで)

 大駒のエクスチェンジは白黒の差が縮まりやすい、つまりドロー率が上がるんだけど、カパブランカはなんてってったって『チェス機械』!針で突いたくらいの微差があれば、それをグイグイ広げて勝ち切っちゃうんだよ!

 27. h5は手拍子で取るには危険過ぎる攻撃の一着!27. ... ghと取ると28. Rh1 Kf8 29. Rxh5と進んで、この手は黒のdポーンも睨んでいるから黒はいきなりポーンをボロボロ失うことになる、これは怖いよネ。

 そして、アタシが持ってきたのはすべてこの手のため!そう、30. Rh7だよ!7段目を支配するルークというのは、ポーンとルークのエンディングに於いて極めて重要な意味を持っていて、それは簡単に言うと3つのアドバンテージを秘めているからなんだよー!つまり、

(1)黒キングを8ランクに幽閉して玉頭戦に参加させないように出来る

(2)初期位置の黒ポーンを一層し得る

(3)初期位置を離れた黒ポーンを後ろから手損なしに回り込んで鹵獲できる

ってことだネ~。

 本局は、カパブランカの棋風がはっきり出た名ゲームであると共に、ホントに優れた教材だとも思うんだ!それこそ、なんどもなんども並べて欲しいし、並べるたびに違った学びを提供してくれるような、そんなゲームだよ!

 以下は、39. Kf6で実際には決着がついていた、ってカンジなのカナ。この位置の白キングは白のパスポーンを支えながら黒のメイトまで見せている、超強力なキングだからネ。以下は、

30. ... Rc6 31. g4 Nc4 32. g5 Ne3+ 33. Kf3 Nf5 34. Bxf5 gf 35. Kg3 Rxc3+ 36. Kh4 Rf3 37. g6 Rxf4+ 38. Kg5 Re4 39. Kf6 Kg8 40. Rg7+ Kh8 41. Rxc7 Re8 42. Kxf5 Re4 43. Kf6 Rf4+ 44. Ke5 Rg4 45. g7+ Kg8 46. Rxa7 Rg1 47. Kxd5 Rc1 48. Kd6 Rc2 49. d5 Rc1 50. Rc7 Ra1 51. Kc6 Rxa4 52. d6 1-0

と進んだんだよ!

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(Fig.4 : 指了図)

 以下は52. ... Rd4 53. d7 Rc4+ 54. Kb7 Rd4 55. Kc8と進んで、次に56. d8=Q+が受からないんだネ!

 

 いや~、すごいゲームでしょ?アタシのお気に入り!

 

 じゃ、久しぶりのお便り紹介しちゃう?

 

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 柚さんこんばんは。Twitterのフォロワー数200人突破、おめでとうございます!

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 ありがとうございます~!そんなに興味を持ってくれた人がいるってだけで、嬉しいネ!これを見てチェスに関心を持ってくれた人がいたら、それは本当に幸せだな~って。

 200人突破企画、ということで何かやれたらなぁって思うんだけど、アタシは何にも思いついて無くて……てへぺろ!なにかやってほしいことや見てみたい企画案があったら、ツイッターにでもリプライくーださい!お待ちしてます~!

 

 最後はこの言葉で……

 ――こういった終盤戦を、カパブランカのように容易く、優雅に指し熟した者はいない。

 これは、レーティがカパブランカを称えた言葉として知られているんだよ!じゃ、またネ!喜多見柚でしたー!

 

(続く)

 

第1回Blitzトーナメント第2回戦第2ゲーム[双葉杏 vs 速水奏](解説・北条加蓮 / 聞き手・綾瀬穂乃香)

 

綾瀬穂乃香「こんばんは。今日はトーナメントの2回戦から、第2ゲームの解説をしていきます。聞き手は私、綾瀬穂乃香が、解説は北条加蓮さんでお送りします。宜しくお願いします、加蓮さん」

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北条加蓮「うん、よろしくね」

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穂乃香「加蓮さんは2回戦第1ゲームで颯爽と勝ち上がりましたね。おめでとうございます」

 

加蓮「ありがと。でも、まだまだ。これから気を引き締めないとね」

 

穂乃香「そんな加蓮さんは、今日の対戦はどう見ますか?」

 

加蓮「そうねぇ……先手の杏は、ムラがすごいかなぁって。後手の奏は逆に安定してるけど、ちょっと棋風が独特よね」

 

穂乃香「そうですね。速水流というか、少し間の取りにくい指し回しではありますね。それでは、今日のゲームを紹介していきますね」

 

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(Figure.1 : 1. c4で双葉はイングリッシュ・オープニングを志向した。やや珍しい出だしだが、ここで早くも速水が少考している。)

 

加蓮「今日の棋譜コメは?」

 

穂乃香「今日は東郷さんです。『これで3回戦は無くなったから、棋譜コメを付ける方に回れるよ』って言ってましたね」

 

加蓮「手厳しいなぁ」

 

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(Fig.2 : 1. ... c5とcファイルでポーンがぶつかりあった。考慮時間は悩んでいたのではなく、作戦を確認していたようだ。速水はこの戦型に用意があるということだろうか。)

 

穂乃香「なかなか面白い出だしですね。私も使っている人を見るのは先手も後手もどちらも初めてです」

 

加蓮「癖が強いなぁふたりとも……。奏の初手c5はイングリッシュ・オープニングに対してシメトリカル・ヴァリエーションと呼ばれるラインに入る返しの手だね。ここからfファイルのナイトを跳ね合うから、対称形を崩さないってことで、シメトリカル」

 

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(Fig.3 : 2. Nf3 Nf6 3. g3 b6と進んだ。お互いフィアンケットを狙った手だ。)

 

加蓮「まぁ、ヴァリエーションの名前になってる割りにはすぐ崩れるんだけどね」

 

穂乃香「黒は右辺でフィアンケットを組むんですよね。キャスリングが立ち遅れそうな気もするんですが……」

 

加蓮「そのかわり連結で勝負するようなところになるのかな。癖というか、拘りというか……奏らしいっちゃ奏らしいなぁ。こんなのバランス感覚に自信がないと指せないもん」

 

 

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(Fig.4 : 4. Bg2 Bb7 5. Nc3 e6 6. 0-0 Be7とパタパタと手が進んでいく。両者は初手合い、先手の双葉は1回戦で驚きの采配を見せたが、速水流にどう立ち向かうか。そして後手は駒組みが決まったようである。)

 

加蓮「この形、なんていうか知ってる?」

 

穂乃香「白です?黒です?」

 

加蓮「黒の方」

 

穂乃香「うーん、本で見かけたことはあるんですけど、わからないです」

 

加蓮「これはね、ヘッジホッグ・ディフェンスって呼ばれている形だね。ハリネズミの、ヘッジホッグ。真ん中から手を作られると白は手痛い反撃を喰らうんだよ~」

 

穂乃香「針鼠防御ですか……?」

 

加蓮「そ。穴熊囲い、みたいで面白いでしょ?」

 

 

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(Fig.5 : 7. d4 cd 8. Qxd4 d6 9. b3 0-0 10. Be3 Nbd7 11. Rad1 Qc7と進んでいく。d4に陣取ったクイーンを武器に、白はピースを集めて速攻を狙っているようだ。)

 

穂乃香「わかりやすいけど受けにくい、はボードゲームの理想ですよね」

 

加蓮「そうだねー。だけど、たぶんこのゲームは、奏は受けないと思うな。カウンターを得意にする速水流とハリネズミは相性がいいなぁ。どこから手を付けても針が飛んできそうで怖いもん」

 

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(Fig.6 : 12. Rd2 e5 13. Qh4 d5 14. Rfd1 d4 15. Nxd4 ed 16. Bxd4 Bxg2と進んだ。これは黒番の技あり、チェスボードを斜めに割る様な華麗なエクスチェンジで優位を奪ったように見える。一方の白番双葉だが、不利を感じても指す手がなければ特に考えずそれを甘受しようというのは潔さか。)

 

加蓮「杏の場合、考えるのがめんどくさいだけだったりして……」

 

穂乃香「きっとそんなことないですよ!1回戦とか驚くくらいの大局観でしたし!」

 

加蓮「あれも、攻め合いがめんどくさいからって……」

 

穂乃香「あ、加蓮さん!局面の説明をお願いします!」

 

加蓮「そうねぇ……e5~d5~d4と手順にクイーンを追い払い、取れないポーンをぶつけて、ポーン・フォークを掛けたんだね。そして、真ん中が裁けるといきなりフィアンケットしたキングサイドのビショップが抜かれて、白のキングが危険になる。これは杏、ハリネズミの針に迂闊に触っちゃったかな」

 

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(Fig.7 : 17. Kxg2 Rfd8 18. Bxf6 Nxf6 19. Rxd8+ Rxd8 20. Rxd8+ Qxd8 21. Qg5 Qd4 22. Qe3 Qxe3 23. fe Ng4と白番から盤面を整理しに行った。一歩間違うと黒は畳み込まれかねない局面だったが、冷静に押し切ったと観ても良いだろうか。)

 

加蓮「黒はハリネズミの針、つまり前線ポーンをだいぶ損したけど、そのかわりエクスチェンジの手順でマイナーピースをまるまるひとつ多く残すことに成功してるからね。これはちょっと白としては纏めづらいかも」

 

穂乃香「ハリネズミ防御、優秀なんですね」

 

加蓮「優秀っていうか、ほんと独特なんだよね。拘りをもって指してないと、一日二日で指し回せるものではないかも」

 

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(Fig.8 : 24. Nb5 a5 25. h3 Nxe3+ 26. Kf3 Nc2 27. a4 Na1 28. Nc3 Nxb3の進行。初手に考慮時間を使った以外で、黒番の手の流れに淀みがない。反撃の筋が看破できないままに白は押し込まれてしまった印象がある。)

 

穂乃香「この黒の形、キングズ・インディアンのように、白の戦型を問わずに使えそうな気もしますね」

 

加蓮「確かに、システムとして見ても優秀だとは思うよ。ただ、微差を突き放して行く様な長時間のゲームにはあまり向かないかもなぁ。自分から手が作りにくいから」

 

穂乃香「そうなんですね」

 

加蓮「アタシの感触だけどねー」

 

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(Fig.9 : 29. Nd5 Bd8 30. Nc3 Nd2+ 31. Ke3 Nxc4+ 32. Kd4 Nb2 33. e4 Be7 34. Nb5 Bc5+ 35. Ke5 f6+ 36. Kf4 Nxa4 0-1となった。両対局者にねぎらいを述べ、また危なげなく勝ち切った黒番の速水には、次にどのような世界を盤上に見せてくれるのか、期待がかかる。)

 

加蓮「投了やむなし、か。最後の希望を繋いでたポーン得もこう無残に払われてしまうと、仕方ない感じかもね。ふたりとも、お疲れ様でした」

 

穂乃香「天才は初太刀で殺す、という言葉がありますが、そんなものを彷彿とさせるような一閃でしたね。お疲れ様でした。勝った速水奏さんは、3回戦で鷹富士茄子さんとの勝負に勝った宮本フレデリカさんと当たります」

 

加蓮「あー、次はフレデリカさんと奏なんだ!それもおもしろそうだなぁ。フレデリカさんは正統派な中に、独特の感性を秘めてるし、奏はもう発想からちょっと速水奏、って感じだし……」

 

穂乃香「そうですね、楽しみです。次に紹介するのは、第2回戦の第4ゲーム、アナスタシアv.s.桃井あずき戦の予定です。そちらもおたのしみに。綾瀬穂乃香でした」

 

加蓮「解説は、北条加蓮がお送りしました。またね」

 

(続く)

 

第9回 桃井あずきのチェス・プロブレム大作戦!

 

 みんな、久しぶりーっ

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 少し時間が空いちゃったけど、『桃井あずきのチェス・プロブレム大作戦!』、今日は9回目ということで、始めて行こっかー!

 前回の問題はこれだったね!

(White to Move, #7)

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 フリスクの出てるチェスを題材にしたドラマ、『シンデレラを探して』の第1話で扱われたゲームが、投了図以下Mate in 7ということで、それにちなんでプロモーションが絡むMate in 7のプロブレムを持ってきたんだったねーっ

 

 さてさて、プロブレムを目にしたらまずやることは、状況把握だよっ!

 白が1手パスした状態で、黒が次に動けるところはどこかな?

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 現盤面上では、黒のキングが動く手は全て自殺手だね!

 あとは……白の初手が1. e5なら1. ... deって取ることは出来るよね!なので、動けるのは、

1. ... d5 / e5 / Bf7 / Bh7 (/ de)

 というわけ!

 ここで、今度はどうやったら黒をメイトに討ち取れるかを考えてみよっか!

 すると、あずきたち白はキングとポーンしか持ってないんだよね……これじゃなかなか詰められそうにもないかぁ、って思ったら、プロモーションさせよう!って考えるのが自然かな?

 すると、今度はどのポーンが一番プロモーションに近いかなーっ、て考えるのが順当なんだけど、今回はどれかなぁ。

 

 まぁ、aポーンは厳しそうだよね。黒のa6のポーンがいるかぎり白のaポーンはプロモーションできないから、やるならキングで黒のa6を奪いに行かないといけないんだけど……

 ここで、残ってる黒のビショップが白マスビショップっていうのが曲者で、a6は白マスだから……なんと、黒は守ろうと思えばa6の白マスにいるポーンをビショップで紐付して守ることもできる、ってことなんだ。じゃあなかなか難しいか……

 eポーンも難しい、というか、e5と出た瞬間に取られるのが見えてるよね。

 とすると、gポーンかhポーンに限られるわけだけど、ここでこのプロブレムには罠が張られてるんだよーっ

 いきおい、1. g7+と出る手を指してみたくなるんだけど……

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 ここで、g8にいるビショップが邪魔で、hポーンはプロモーションできなくなっちゃった!

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 ここで、2. h6と突くのは2. ... Kxh6で意味わかんないし、かといって白が今度指せる手がほとんどなくて、これはしくじり大先生だよねーっ

 

 じゃあ1. h6はどうかというと……

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 この状態では、次にg7+と入ってもKg7~Kg6とするする逃げられちゃうし、といって次にh7と縛る手は2. ... Bxh7 3. gh Kxh7で二の矢がないんだよね……。どうしてもg8のビショップが邪魔で……。

 ビショップが動かざるを得なければ、g7+が入るんだけど。

 

 というわけで、初手は一発、1. e5が正解!以下は、

(1) 1. e5 de 2. h6 e4 3. h7 Bf7 4. Kxf7 e3 5. g7+ Kxh7 6. g8=Q+ Kh6 7. Qg6#

(2) 1. e5 d5 2. h6 d4 3. h7 Bf7 4. Kxf7 d3 5. g7+ Kxh7 6. g8=Q+ Kh6 7. Qg6#

(3) 1. e5 Bf7 2. Kxf7 de 3. g7+ Kh7 4. g8=Q+ Kh6 Qg6#

(4) 1. e5 Bf7 2. Kxf7 d5 3. g7+ Kh7 4. g8=Q+ Kh6 Qg6#

(5) 1. e5 Bh7 2. g7#

 って感じだよーっ!

 

 エンドゲームで、パスポーンが出来たときとか、エクスチェンジの手順中でパスポーンをひねり出せるときなんかは、あずきは自分でプロブレムを作っているような気分になることがあるなぁ。っていうのもね、プロブレムだったら、(Mate in 7)とか、(#7)とかって制限があるでしょ?これを、自分で読んでみつけるの!それが所謂終盤の『手数計算』とか『速度計算』っていうヤツかなぁって。

 理想を言えば、1手争いなんてしないで中盤で突き放して安全勝ちしたいけれど、なかなかそういうゲームじゃないよね、チェスって。その1手すら、相手に絶対に渡さない。そういう強さが、すなわちチェスの強さなのかなって思うんだ。

 

 今日は、ちょっと変わったパズルを持ってきたよ!

 白番、6手以内で『ドロー』にしてね!

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 最近は御天気がすぐれないねぇ……そんな夜こそ、チェス・パズルだよーっ

 また会おうね、桃井あずきでした♥

 

(続く)

 

星巡る物語 第3回 ~José Raúl Capablanca~

 

 ――私は、あまりに深く星を愛しているが故に、夜を恐れたことはない。

 

 これは天文学の父・ガリレオ=ガリレイの言葉である。

 思えば我々の身の回りに、夜ほどおどろおどろしさの比喩として引かれるものも少ないかもしれない。それは、生来動物が光を求めて歩く生き物だからだろうか。それとも……

 

アナスタシア「ドーブライ、ヴィエーチル……こんばんは、アーニャです」

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アナスタシア「星巡る物語イストリア、今夜で3回目です。さて、アーニャは今日は、どこにいるでしょうか?」

 

 ここはカリブ海に浮かぶ島嶼国。海峡を隔てて新世界と繋がるこの島は、その要所を示すかのように『アメリカ合衆国の裏庭』と呼ばれることもある。また、ラテンアメリカで初めて成立した社会主義政権にちなみ、『カリブに浮かぶ赤い島』という呼び名を聞いたことがある者もいるのではないだろうか。

 

アナスタシア「今日アーニャが来ているのは、カリブ海キューバハバナです」

 

 ハバナキューバの首都である。16世紀初頭、この島にコンキスタドールが居館を築いたことに、この街は始まる。ロスト・ジェネレーションの筆頭に上がることもある文豪・アーネスト=ヘミングウェイがまたとなく愛した街としても広く知られている。彼は晩年をこの街で過ごし、そして傑作『老人と海』が生まれたのである。

 

アナスタシア「髪を撫でる潮風に、命の匂いを感じますね」

 

 この地で生まれ、世界に影響を与えた文化は数多存在するが、その中でも最大級の賛辞と共に語られるのが、カパブランカ・チェスであり、その生みの親・ホセ=ラウル・カパブランカである。

 

アナスタシア「『最強のチェス・プレイヤーとは誰だと思うか?』この質問をすることは、無意味であり、またとても有意義です。なぜなら、時代が違えば評価の規準も変わるので、それを考えずに一概に評価することはできませんね?だから、意味がありません。しかし、こう問いかけることで、目の前の人がどんなチェスを愛しているのか、ということが何よりもはっきりと分かる、という質問という意味では、とても意義深いですね」

 

 私が答えるならば、誰の名を挙げようか。フィッシャーか、それともモーフィか、あるいは。

 そして、その問いを問い掛けた時に返ってくる答えの中には、必ず名前が挙がるだろうプレイヤーがいる。

 シュタイニッツ、ラスカーに次ぐ世界3番目のチェス・チャンピオンにして神の寵児、カパブランカは、1888年ハバナに生まれた。

 

・チェスの申し子として

 

アナスタシア「夜空に燦然と輝き、身を燃やした光を強く届ける星々の中でも、一際大きく輝く巨星、それがカパブランカです」

 

 彼がチェスを覚えたのは、もうすぐ4歳という頃だったと言われている。父親とその友人がプレイをする様を眺めていて、覚えてしまったというから驚きであり、またこの崇高な盤上遊戯と選ばれし者との邂逅は必然として歴史に織り込まれていたことを思わずにいられない。

 

アナスタシア「覚えてから3日後には、チェスを趣味としていた父親に勝ったというエピソードはその天才ぶりを示すあまりに有名なエピソードですね。作り話めいてもいますが、彼の人生を知っている者であればそれを笑うことはできませんし、あなたがもし知らないのであれば、知って行くうちにこれしきのことでは驚きを覚えなくなるでしょう」

 

 彼はすぐに地元ハバナのチェスクラブで随一の強豪に、クイーン落ちのハンデ戦ではあったが土を付ける。生涯を通し公式戦で35敗しか敗者の辛酸を舐めたことが無いこの卓抜した戦士は、凡そ成長ということをしたことがないかのようである。覚えた瞬間から、チェスは彼の細胞に浸透していたのかもしれない。

 

アナスタシア「8歳、プライマリー・スクールに通うホセ少年は毎週日曜日に教会に通うかの如き熱心さでクラブに通い詰め、家でも僅かな時間を見出してはチェスセットに向かっていたと言いますね」

 

 そこから3年、11歳のカパブランカの相手となるような者はすでにハバナにはいなかった。強くなることと無縁の才能、もともと強かったカパブランカは順当にそのキャリアだけを破竹の勢いで伸ばしていった。13歳のときには、マドリード生まれの移民でキューバ・チャンピオンであったジャン・コルソを圧倒したのである。

 

アナスタシア「18歳になったキューバ最強のプレイヤーは、経済的に裕福だった家庭の支援を受けて、コルソの出身校でもあるコロンビア大学に留学しました」

 

 しかし、このチェスの申し子は、64マスに没頭するあまりに専攻の化学を疎かにし、ついには中途退学するに至ったのである。

 

キューバの外交官として

 

 21歳のときに、モーフィ亡き後のアメリカンチェスを背負って立つ逸材と見做されていた当時の米国最強のマーシャルを下してその名を世界に広めたカパブランカ。彼はキューバの外交官に任じられた。

 

アナスタシア「1911年、彼が23歳の年に開かれたサン・セバスチャングランドマスタートーナメントでもマーシャルに勝っています。このときは他にルービンシュタインやビドマールといった並み居る世界クラスの強豪を薙ぎ倒して優勝、更に3年後のサンクトペテルブルクグランドマスタートーナメントでは時の世界チャンピオン・ラスカーに最終局で敗れ準優勝、同時にチャンピオンへの挑戦権を獲得しました」

 

 セルビア人の一青年・ガヴリロ=プリンツィプが引いた一発の引き鉄は、そのまま戦争を終わらせるための戦争の引き鉄となった。

 1914年に始まった第一次世界大戦は、ラスカーとカパブランカのマッチを21年まで延期させた。

 

アナスタシア「27年間、王座に君臨したエマヌエル・ラスカーと期待のルーキーとのタイトルマッチは、しかしいくらかの波乱を含めども最強のチャンピオンの防衛に終わるものだと世間は思っていました」

 

 24番勝負ということで始まったこのタイトルマッチは、カパブランカの4勝10分けの時点でラスカーが途中で棄権するという、誰も予想だにしない結末に終わった。まさか、27年間玉座にふんぞり返っていた絶対王者が、期待の新星とはいえ一勝もできずにタイトルを奪われるとは。

 

アナスタシア「こうして劇的な戦果を引っ提げて世界チャンピオンに就任したカパブランカは、世界中のチェス・プレイヤーの憧れとなりましたね」

 

・チェス機械として

 

 I have known many chess players, but among them there has been only one genius.  Capablanca!  ―Emanuel Lasker

 

アナスタシア「しかし、その輝きは、あまりに強かったが故に、少しの鈍りですら大きな波紋でした」

 

 1927年、ニューヨークで開催されたトーナメントで、アリョーヒン、ニムゾヴィッチ、ビドマール、シュピールマン、そしてマーシャルと並み居る強豪を挑戦者たちに迎え各個撃破。

 

アナスタシア「ミスをしない、ただそれだけのことでした。そして、それは何よりもチェス・プレイヤーとしての才能でした。堅実な序盤、華々しい中盤、そして芸術的なまでの終盤。すらりとした立ち姿に、俳優然とした振る舞い。プレイヤーの憧れとなったカパブランカは、いつしか『チェス機械』と呼ばれる様になっていました」

 

 生涯に35ゲーム、1914年以来の27年間で、たった5ゲーム。

 

アナスタシア「この数字がなんだか、わかるでしょうか。これは、ホセ・ラウル・カパブランカが生涯で喫した敗局の数なのです」

 

 583ゲーム、302勝35敗246分け。驚くべき数字だ。エマヌエル・ラスカーをして「ただ一人のチェスの天才」と言わしめ、『不敗の名人』とカパブランカが呼ばれた理由である。

 

アナスタシア「彼のチャンピオン生活がどのように終了を迎えたか、そのお話をしましょう」

 

 星の輝きに准えられる勝負師の運命は、惨酷だ。

 輝かなければ、星ではない。勝負の世界で残るのは記録だけだ。

 身を燃やして輝きを届けようとするその孤軍奮闘を人は汲んで、記憶する。しかし、記憶に残ればよいと甘んじるプレイヤーは、人の記憶にも残らない。

 

アナスタシア「盤上の詩人と謳われたアリョーヒンは、チェスの歴史上、誰よりも勝ちに拘る選手でした」

 

 彼は1924年のニューヨークで、ラスカー、カパブランカの後塵を拝し3位に収まっていた。そして、このときラスカーが彼を評した「彼はまだ上達しきっていない」という言葉が火をつけたのである。

 

アナスタシア「続く3年後、半ゲームの差でカパブランカに優勝を譲ったアリョーヒンは、『カパブランカに6ゲームも勝つ方法はちょっとわからない。でも、彼だって私にどうやって6ゲームも勝つというのだろう』と言いました。思うに、ここに両者の犬猿の仲は始まっていたのですね」

 

 アリョーヒンを挑戦者に迎えた1927年、カパブランカは世界チャンピオンを奪われることになる。ニューヨーク・トーナメントにエマヌエル・ラスカーが参加しなかったのは、カパブランカの密通があったと言われている。

 

 アナスタシア「アリョーヒンは、カパブランカから世界チャンピオンを奪った後は、格下の相手としかタイトル戦を戦わなかったとして、勝負師としての評価は彼の芸術的な棋譜の評価にやや劣ります。しかし、カパブランカだってまた、タイトルに拘りを持っていました」

 

 カパブランカは、少年時代の熱意に反し、このときにはチェスの研究をしないことでも知られていた。その漲る自信と、チャンピオンへの拘りの間ではチェス機械ですら搖動していたのである。

 

 アナスタシア「誰よりも強い執念を持って世界チャンピオンへの挑戦を遂に叶えたアリョーヒンは、綿密かつ入念な準備を携えカパブランカに挑戦、3ゲーム差でカパブランカから世界チャンピオン位を奪い取ったのです」

 

 カパブランカ、39歳の年であった。

 以後彼は1939年まで、参加するありとあらゆる大会で好成績を収めた。1939年のブエノスアイレス団体戦で、キューバチームの大将として出場し、アリョーヒンを打克して優勝。これがホセ・ラウル・カパブランカの最後の公式戦であった。

 

 アナスタシア「3年後でした。カパブランカはニューヨークにて、53歳の若さで没しました」

 

 彼の死から溯ること約1年。同じ病院ではエマヌエル・ラスカーが最期を看取られていた。彼がカパブランカを称えた言が、冒頭のものである。

 ラスカーが惜しみない賞賛を贈った『たった一人の天才』。彼を戦友・アリョーヒンもまた、宿敵の死を最大限の言辞で送ったのである。

 

 Capablanca was snatched from the chess world much too soon. With his death, we have lost a very great chess genius whose like we shall never see again. ―Alexander Alekhine

 

 チェスはカパブランカ母語である、とレーティは言った。

 彼の母国はチェスであり、またカリブの海に浮かぶキューバ島である。

 

アナスタシア「伝説となったボビー・フィッシャーに、チェス史を変えたアナトリー・カルポフに、そして『同志パッハマンよ、君も知っての通り、私は首相であることが楽しくない。むしろ、君のようにチェスをしているかベネズエラで革命を起こすかしたい』と語ったことで知られているキューバ革命を指導した革命家チェ・ゲバラに。ホセ・ラウル・カパブランカの科学は根付いていきました」

 

 

 誰が最強のチェス・プレイヤーだと思うか。

 その質問は、どこまでも無意味で、愛ゆえに意義深い。

 そして、同時代の巨星たちが口を揃えて、『たった一人の天才』と呼んで憚らなかったひとりの男の等身大の光が、今日も64マスの宇宙に優しく降り注いでいる。

 

 勝ったゲームより負けたゲームの中に沢山勉強することがある。強くなるには、数百局と負けて学ばなければならない。

 チェスは疑う余地なく、絵画や彫刻と同じ芸術である。

――ホセ・ラウル・カパブランカ

 

アナスタシア「ダスヴィダーニャ、ダフストレーチ!」

 

(続く)

 

(ナレーション・川島瑞樹 / 文・鷺沢文香)

Kate's CHESS-English Lecture [Lesson 3]

ケイト「ハーイ、エヴィバディ!今夜はLesson 3をお届けするわ!パーソナリティのケイトよ!」

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依田芳乃「ぶぉー」

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ケイト「……ヨシノ、それハ?」

 

芳乃「ほら貝、でしてー。コーナーの初めに吹いてみるのもまた一興かとー」

 

ケイト「そうネ?ヨシノがそういうならそうなのネ?」

 

芳乃「そーくーる、でしてー」

 

ケイト「えーと、じゃあ、今日からは『ゲームで用いられる名詞』についてやっていきまショ!」

 

芳乃「申し遅れましたがー、あしすたんとを務めますはー、依田は芳乃でしてー」

 

ケイト「……」

 

芳乃「……?」

 

ケイト「……OK!」

 

芳乃「名詞、とはどのようにれっすんを進めていくのでしょー」

 

ケイト「やっぱり、実践の流れがいいカシラ?」

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ケイト「Pawnを進めるのを、advanceと言うのヨ!」

 

芳乃「あどヴぁーんす、前進、ですねー」

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ケイト「たとえば、こうやって進んだとするデショ?フィフスランクより向こうまで進んで行ったpawnを特にadvanced pawnなんて呼んだりもするわネ!」

 

芳乃「……言うなれば、伸び過ぎというようなニュアンスもあるかとー」

 

ケイト「そうネ!序中盤で進み過ぎたpawnはsacrificeに使われることはあっても、そのままpromotionするのは稀よネ……」

 

芳乃「世知辛いのでしてー……将棋でも、と金になって終盤の寄せに働くのは大概相手から取った歩だったりしますのでー……」

 

ケイト「Pawnを突き出すことはpushという、というのは動詞編でやったケド、これも名詞で使われることがあるワヨ!」

 

芳乃「いわゆる、「ポーンを一突きした。」のような感じでしてー」

 

ケイト「ここで今、白がe5とe-pawnをpushしたので、黒のe-pawnは進めなくなったわネ?こういうのをblockというワ!」

 

芳乃「相手のぴーす、特にぽーんのあどヴぁんすを、ぽーんをぶつけることで阻むのですねー」

 

ケイト「これはverbだけど、blockすることをblokadeと言ったりするワ。名詞でも使われたりして、文脈ネ!このとき、blockに働いているピースのことはblokaderと呼んだりネ」

 

芳乃「ぶろっけーだー、はぽーんだけなのですー?」

 

ケイト「序盤や中盤ではpawnをぶつけて相手をblockすることが多いけれど、end gameでは例えばこんなsituationも頻出するわネ」

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ケイト「これはblackのb-pawnがpromotionを狙ってきているのを、Knightでblockした場面ネ」

 

芳乃「なるほどー」

 

ケイト「例文練習を兼ねて、こう説明してもいいワネ。A blockade is a situation when the opponent has a pawn that needs to be stopped.

 

芳乃「妨害は、相手がぽーんを停止すべき必要のある状況でして

 

ケイト「そうネ!つまり、「進めたいpawnがそれ以上進めないようにする状態」とでもいえばわかりやすいカシラ」

 

芳乃「動詞と名詞が同じ形の単語、というのがちぇす用語には多い気がしますー」

 

ケイト「いいところに気が付いたわネ!ピースを取る、取り返すcapturerecaputureピースを解放するbreak、それからcheckなんかもパッと思いつくところそうヨ」

 

芳乃「こんとろーる、やふぃあんけっと、もそうでしてー」

 

ケイト「FianchettoはItaly由来だけどもうchessでは英語も同然に取り込まれているわネ!他にはen passantはフランス語由来ヨネ。名詞でも、副詞的にも使われるワ」

 

芳乃「けいとどの、そういえば質問がー」

 

ケイト「なにカシラ?なんでも答えちゃうワ!」

 

芳乃「『王手』はちぇっくでいいとしてー、『詰めろ』にあたる概念はちぇすにあるのでしょうかー」

 

ケイト「逃げられるmateのときはthreatで良いと思うし、『必至』のように「どう足掻いてもメイトされる状態」は、forced mateと言うかしらネ」

 

芳乃「なるほど、「強制されためいと」、なるほどー」

 

ケイト「それじゃ、今日はこのくらいにしまショ!」

 

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ケイト「One Point Lessonのコーナーよ!」

 

芳乃「ここでは、事務所のぷれいやーのあられも無い姿をお見せするのが恒例のこーなーとなっておりましてー」

 

ケイト「き、今日のVTRに行くわヨ!」

 

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Nina Ichihara : Hey! I'm sure you're a rabbit, aren't you?

(市原仁奈「おねーさん、うさぎの気持ちになってるでやがりますか?」)

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ケイト「www」

 

芳乃「副音声が間違ってるのでしてー」

 

ケイト「えー、rabbitネ!Fishとか、woodpusherって言ったりもするわネ」

 

芳乃「ずばり、『カモ』という意味でしてー」

 

ケイト「ニナはいったい誰のことをあんなに煽ってたのカシラ……マネしちゃダメヨー!」

 

芳乃「やっぱり、ちぇすと英語の勉強と称して、あいどるによからぬいめーじを植え付けていく碌でもないこーなーでしたー」

 

(続く)

 

第1回Blitzトーナメント第2回戦第3ゲーム[鷹富士茄子 vs 宮本フレデリカ](解説・鷺沢文香 / 聞き手・綾瀬穂乃香)

 

鷺沢文香「これは激しく、また短時間の勝負とは思えない程に長手数の勝負となりましたね……」

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綾瀬穂乃香「本当ですね……二人の対局者の執念と、闘志の為せる芸術でした」

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文香「こんばんは。……今日はトーナメントから第3ゲームを解説していきたいと思います」

 

穂乃香「よろしくお願いします。聞き手は私、綾瀬穂乃香が務めます!さて、第3ゲームは鷹富士茄子v.s.宮本フレデリカ戦となりましたが……どうでした?」

 

文香「……そうですね……まず、白番・鷹富士さんの選択した作戦が面白い、というのが一つ。それから、長手数メイトを読み切り勝ち切ったフレデリカさんの冷静と情熱のあいだで冴えた大局観が一つ、他にも、見る人によって色んな思いが溢れる名ゲームになったんじゃないかと、思いました」

 

穂乃香「ありがとうございます。文香さんも名局だったと振り返るこのゲーム、初手から観て行きましょうか」

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(Figure.1 : 1. e4 e5)

穂乃香「オープニングはオーソドックスなオープン・ゲームになりましたね」

 

文香「フレデリカさんは早指し戦で黒を持つときは初手e6やc6よりもe5やc5の方が多い気がしますね。定跡形に持ち込むことで序盤から、或いは中盤の入りくらいまでの読みを少なくすることが出来る、というのは合理的です」

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(Fig.2 : 2. Nf3 Nc6)

穂乃香「ナイトを跳ね合いましたね。白が戦型選択の権利を握っている局面です」

 

文香「フレデリカさんはこうなればなんでも受けるでしょうね。そのような予備知識が鷹富士さんにあったかは知りませんが……こうしてイタリアンなのか、ルイロペスなのか、はたまた……という局面になりました」

 

穂乃香「本ゲームは両者がほとんど時間を使わずに指していたのも印象的でしたね……」

 

文香「第1感で指している、というようなところでしょうか。頓死を掻い潜り、技を駆けあい、その心理戦と頭脳戦をほぼすべて5秒以内に返すという、人間業とは思えぬゲームでした」

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(Fig.3 : 3. Bb5)

穂乃香「ここで白がルイ・ロペスを選びましたね」

 

文香「ここまでは現在一番指されているラインといっても過言ではないでしょうし、何もおかしくはないのですが、ここからの数手をご覧になると、このゲームの行方にとても興味が湧くことでしょう……」

 

穂乃香「そういえば、今日は棋譜コメントはないんですね?」

 

文香「終局まで89手と聞いて、誰も付けたがらなかったのです……大人の事情です……」

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(Fig.4 : 3. ... a6 4. Ba4 b5 5. Bb3 Nf6)

穂乃香「3手ほど進めましたが、こう進むとデジャ・ビュを感じませんか?」

 

文香「……そうですね。本局は、トーナメント2回戦第1ゲームの東郷v.s.北条戦の前例を踏襲しているのが、ひとつポイントなのです」

 

穂乃香「あれもいいゲームでしたね。黒の工夫と構想が光りました」

 

文香「フレデリカさんがこれを選んだのは、前例を意識してのことでしょう。a6~b5でビショップを追ってしまえば手番を握って5. ... Nf6から攻めの体勢を築ける、と加蓮さんはあのゲームで語ったわけです」

 

穂乃香「これは茄子さんの頭にもあったのでしょうか?」

 

文香「両者ここまで淀みなく指している、ということがそれを証明しているように私は思います……。この形で指せないと思うのならば、4. Ba4に代えて4. Bxc6とエクスチェンジ・ヴァリエーションに持ち込む権利は白にあるはずですので……」

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(Fig.5 : 6. 0-0 Be7 7. a4 b4 8. d4 d6)

穂乃香「前例は6. Nc3とナイトを使う手でしたね。ここで茄子さんから手を替えました」

 

文香「ここまではお互いの研究でしょうね……。6. 0-0キャスリングを急ぎましたが、これは黒が黒マスビショップを動かしていないのでキャスリングできない状態を突いて一足早く入城しようという深謀遠慮のムーブです。黒もキャスリングを目指しますが、このタイミングでdポーンからセンターコントロールを目指すより先に端に手を付け7. a4 b4の交換を入れる、というのも凝った手です」

 

穂乃香「そういえば、東郷v.s.北条戦の感想戦では黒の方が早くキャスリングをしたことで、思い切った攻めの主導権が黒番の手に転がり込んだ、という見解でした」

 

文香「そうです。なので、白は左翼のピースを展開してバランスよくしようとするよりも、黒の仕掛け順を潰しにいった、と言うのが本局の序盤でしょうか」

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(Fig.6 : 9. de de 10. Qxd8+ Bxd8)

穂乃香「そして、8. d4が白から迫る手でしたね。低く謝るd3よりもよい、と見たのは10手目のこの局面で手番が白にあるから、でしょうか」

 

文香「そういう考え方も出来ると思います。更に現局面、クイーン・エクスチェンジを済ませたところですが、10. ... Bxd8と取り込んだ黒はこのビショップをこのままでは活用できない、というのも白の狙いの裡でしょう。働きが良くないのは瞭然ですので……もう一度展開を図るためにはBe7と出る必要がありますが、手損になりますね」

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(Fig.7 : 11. Be3 Be7 12.  Nbd2 0-0 13. Rad1 h6 14. h3 Rd8 15. Nc4 Rxd1 16. Rxd1 Be6)

穂乃香「(Fig.6)の局面では、黒はキャスリングもしていないし、ピースも立ち遅れ、完全に白の策に溺れたかに思われましたが……」

 

文香「手順に展開しただけなので、以前白が微妙に有利だとは思います。しかしこの局面だけ取り出してみれば確かに我々ヒトの目には、差がかなり縮まったか、あるいは無い様にも見えるのが面白いところです。15. Nc4は難しい手ですね。活かせれば突き放すことも可能だと思いますが、食らいつかれるとなかなか、という手です。やはり前例でBb3が咎められたのを気に掛けた一手ではあると思います。黒がBe6と出るのに先んじて白からNc4と跳ねておけば、ビショップ同士がいきなり衝突することが防げますから……」

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(Fig.8 : 17. Ncxe5 Nxe5 18. Nxe5 Bxb3 19. cb Nxe4 20. Rd5 Nf6 21. Ra5 c5)

穂乃香「難しい応接が続きますが、ここまでお互いほぼノータイムですか。異次元ですね」

 

文香「白は少し時間的余裕がありますが、黒は3分と短いです。なので、白としては黒に比べると少し時間を使うくらいの考慮で、黒の手を失くして行く様な手を指したい、という感じでしょうか」

 

穂乃香「マイナーピースがぶつかりあって、お互い手のつくりにくい中盤となりましたが……」

 

文香「白の21. Ra5が難しい手です。これを閉じ込めるc5が入って黒は少し余裕が出来た様にも思うのですが、エンドゲームでこのルークに暴れられるといきなり詰む可能性もありますので……」

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(Fig.9 : 22. Bxc5 Bd8 23. Bxb4 Bxa5 24. Bxa5 Ne4)

文香「結果的には、22手目からのエクスチェンジで白が大駒であるルークを失ったことが響いたエンドゲームとなったような気がします。ここは幽閉されたルークをどうにかしようとするのではなく、他に活路を見出すべきだったか、というのはお二方感想戦でも触れられていたことですが……」

 

穂乃香「白はポーン得しているので指せそうにも見えますが……チェスは難しいですね……」

 

文香「そうですね……後から理屈をつけるのであれば、エクスチェンジで白が大駒を失っていることや、得しているとはいえ白は自陣にダブルポーンを抱えていること、さらにエクスチェンジ後のBa5が僻地に追いやられていて働いていない、ということなどがあげられますが……正直激ムズだと思います……」

 

穂乃香「激ムズですね……」

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(Fig.10 : 25. b4 Rc8 26. Nd3 Rc2 27. f3 Rd2 28. b5 Rd1+ 29. Ne1 Nc5 30. ba Nxa6)

穂乃香「ルークにピンされているのが辛いですね……」

 

文香「しかし簡単には土俵を割らない鷹富士さんの粘りも観る者の胸を衝きますね……少しでも間違えれば、まだ白から手を作ることも出来るようなところですし……」

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(Fig.11 : 31. Kf2 Nc5 32. Ke2 Rb1 33. Bd2 Nxa4 34. b4 Nb6 35. Kd3 Rb3+ 36. Kc2 Ra3 37. Bc1 Ra2+ 38. Bb2 Nc4)

穂乃香「エンドゲームで駒が少なくなってから、どのタイミングでキングを動かしていくかというのは微妙な判断の問題だと思いませんか?」

 

文香「そうですね。その機微はレーティングがどのレベルであっても付き纏う気がします。チェス・プレイヤーの影といってもいいかもしれませんね……」

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(Fig.12 : 39. Nd3 Nxb2 40. Nxb2 Kf8)

穂乃香「ナイトだけを残すというのはフレデリカさんも戦い慣れしているなぁと思いました」

 

文香「歩兵を女王に至るまでエスコートする騎士というのは、この世で最も誉れある騎士かもしれませんね。出来る人の方が少ないでしょう……ナイトの仕事は灰被り娘に魔法を掛けてクイーンにすることではないのです……」

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(Fig.13 : 41. Kb3 Ra1 42. Nc4 Ke7 43. Kc3 Rb1 44. Ne3 Ke6 45. Kc4 Re1 46. Kd4 Re2)

穂乃香「敵陣に潜らせたルークの、お手本のような使い方ですね」

 

文香「えぇ、その通りです。下から掃くように進め、どんどん盤面を狭めていくイメージがいいでしょう」

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(Fig.14 : 47. b5 Rd2+ 48. Kc4 Re2 49. Kd4 Rf2 50. h4 Rd2+ 51. Kc4 Rf2 52. Kd4 Kd7)

穂乃香「この数手のダンスは、エンドゲームを読み切っていたのでしょうか……」

 

文香「その可能性も大いにあると思いますね。ここから40手近い収束ですが、彼女なら読み切っても可笑しくない」

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(Fig.15 : 53. h5 Kd8 54. b6 Kc8 55. Kc5 Kb7 56. Kb5 Rb2+ 57. Kc5 Rf2 58. Kb5 g6 59. hg fg)

穂乃香「近接見合いでbポーンのプロモーションを止める手など、一分の隙もない終盤術です」

 

文香「そうですね、タイミングをミスしてしまうといきなりb8=Qとされて形勢が絶望的に逆転しますので……」

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(Fig.16 : 60. Kc5 h5 61. Kb5 Re2 62. Nd5 Rxg2 63. Nf4 Rg5+ 64. Kc4 Kxb6)

穂乃香「卓抜した終盤の読みが冴えましたね……最後の希望を持ったパスポーンも粉砕されましたか……」

 

文香「家に帰るまでが遠足、詰め上げるまでが戦争です……」

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(Fig.17 : 65. Kd3 h4 66. Ke4 Kc6 67. Nh3 Rg2 68. Nf4 Rg5 69. Ke3 Ra5 70. Kf2 g5)

穂乃香「このゲームの素晴らしいところはいくつもあるのですが、まるで私は中でも作られたプロブレムのように、収束に向けてすべてのピースが働いている、というのを挙げたいと思います」

 

文香「本当ですね……メイトに働く余りピースがない、と言うのも珍しい……」

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(Fig.18 : 71. Nh3 Kd6 72. Kf1 Ke6 73. Ke2 Ra2+ 74. Ke3 Kf5 75. Ng1 Rh2 76. f4 Rg2)

穂乃香「序盤を忘れてしまいそうなくらいの長旅路ですが、これ、モーフィー・ディフェンスで白がエクスチェンジ・ヴァリエーションを避け、a4~b5と追い返される順では白はもうやれないのでしょうか……?」

 

文香「そんなことはないと思いますが……事実、白から踏み込む変化にしては戦果乏しき状態が続いていますね……加蓮さんが開けたのはパンドラの匣かもしれません……」

 

穂乃香「……ということは、最後に希望が残っているかもしれない、と思ってもいいのでしょうか?」

 

文香「ふふ、今の私にはまだなんとも……」

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(Fig.19 : 77. Nf3 gf+ 78. Kd3 h3 79. Kd4 h2 80. Nh4+)

文香「騎士は騎士らしく、です。最後にダブルアタックが掛かりましたね」

 

穂乃香「ルークの役目もここまで、ですか」

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(Fig.20 : 80. ... Kg4 81. Nxg2 h1=Q)

文香「このプロモーションが見えているので、さきほどのダブルアタックは慌てることはありません」

 

穂乃香「ここからは8手メイトですね」

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(Fig.21 : 82. Nxf4 Kxf4 83. Kc5 Ke4 84. Kc6 Qh6+ 85. Kc5 Qf6 86. Kb5 Kd5 87. Ka4 Qb2 88. Ka5 Kc5 89. Ka4 Qb4#)

穂乃香「はい、最後は詰みに必要な3つのピース以外ひとつも盤上に残らない、という素晴らしいゲームでしたね」

 

文香「えぇ、両プレイヤーの闘志を称えたいと思います」

 

穂乃香「勝ったフレデリカさんは、第2ゲームの速水v.s.双葉戦の勝者と第3回戦で対戦ですね」

 

文香「そうですね。フレデリカさんがどうして加蓮さんの前例を踏襲した戦型を選んだのか、少し気になっています。まだまだ、この鉱脈には何か眠っているかもしれません……」

 

穂乃香「とても面白いゲームでしたね!聞き手は綾瀬穂乃香が務めました」

 

文香「本日はありがとうございました。解説の鷺沢文香でした」

 

穂乃香「またお会いしましょう」

 

(続く)

第8回 綾瀬穂乃香の早わかりチェス講座[セミ・オープン・ゲーム > フレンチ・ディフェンス]

 

 こんばんは。第8回目の『早わかりチェス講座』では、フレンチ・ディフェンスを取り上げます。

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 フレンチ・ディフェンスとは日本語では『フランス防御』とも呼ばれますが、これは郵便チェスの時代にフランスのチームがこの作戦を採用して高い勝率を上げたことに由来する、らしいですよ。私たちの事務所では、フレデリカさんの十八番ですね!

 

 既にほかの方の実戦紹介では何度も出て来たこの戦型ですが、オープニングとして体系が与えられていなかったので、せっかくセミ・オープンを紹介しているこの講座で取り上げようと思いました。お付き合いくださいね。

 

 白の1. e4に対し黒がひとマス謝って1. ... e6と受けるのがこのディフェンスの特徴ですね。

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(Figure.1 French Defense : 1. e4 e6)

 この手は防御力重視、といった感じでしょうか。なぜなら、ここを突いてe3のポーンを基礎にポーンストラクチャーを組もうとすると、どうしても黒はBc8が使いにくい展開となります。そのかわり、d5と突くdポーンとの連結がよく、防御力が増している、というわけなんですね。

 ここからは2. d4 d5と進むのが一般的です。

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(Fig.2 : Fig.1 ~ 2. d4 d5)

  このd5~e6の連結がきわめて堅い、というのがフレンチの主張ですね。堅さとは即ち相手にすると仕掛けづらい、ということなので、その仕掛けづらさを利用してどのようにポイントを稼げるかが黒の勝負、ということになります。

 ちなみに、これはフレンチではありませんが、e6と黒が突いて駒組みを上手く進めたゲームとして、第1回ブリッツトーナメントの1回戦、依田芳乃v.s.鷺沢文香戦がありますね。また、結果的に黒のこの手が上手く白の構想によって咎められたゲームとしては、同じくトーナメント2回戦の八神マキノv.s.塩見周子戦があります。

 つまり、序盤でd5を支える手として、e6という黒の手は結構理に適っている、ということなんです。ただ今紹介した二つのゲームとフレンチ・ディフェンスが最も異なるのは、白がeポーンを突く手に返す刀でe6と突いている、というところですね。

 

 この(Fig.2)の局面で早くもポーンがぶつかったのですが、これを『ギャンビット』だと観ることも出来ますね!ギャンビットについては、第6回の講座で一緒にやりました。取る手、取らない手、逆にギャンビットを仕掛ける手、という3つの応対がある、ということをあのときお話しましたが、ここで3. c4とポーンをぶつけるのはあまり白としては面白くないですよね。ポーン損の上に、黒のクイーンが進軍するきっかけを与えてしまいますから。

 なので、2. ... d5をギャンビットと見るならこの局面では取る手、取らない手が考えられます。

・取る進行

 フレンチのエクスチェンジ・ヴァリエーションと呼ばれるのがこの取るラインです。

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(Fig.3 Exchange Variation : Fig.2 ~ 3. ed ed)

 3. edと白がこのぶつかったポーンを払いに行くと、こうなります。序盤早々にキング同士が睨み合うこの展開は、お互いが技をかけあうことになります。

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(cf. Fig.3.1 : 1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nd2 c5 4. ed ed まで)

 こんなゲームがありましたね。そうです、アナスタシアv.s.宮本フレデリカの五番勝負第5局です。このあとはeファイルががら空きになっているのを利用して、白から積極的に技を掛けに行く展開となりました。5. Bb5+から激しくピースがぶつかり合う、華々しいゲームでしたね。このゲームにはまた後で言及します。

 

・取らない進行

 現在では、これを手に乗って取らない進行がメインです。当たっているポーンを躱しておく3. e5の他は、黒のBc8が初手1. ... e6によって立ち遅れるのを咎めようと、早々にマイナーピースの展開を目指すのが白の方針です。実質的には、3. Nd2, 3. Nc3の二択というのが現状ですね。ここでNb1を活用したいのが白なので、Nb1の駒落ち戦で黒がフレンチを採用するのは、棋理としては有用だと思います。それが、忍さんの番組でフレデリカさんとフリスクメンバーが4面指し、という企画を行った際の私の作戦でした。

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(cf. Fig.4.1 : 1. e4 e6 2. d4 d5 3. e5 c5 まで)

 b1のナイトが白は落ちているので、この3手目はほぼ3. e5に限定できると思っていました。そして、3手目にナイトが出て来る展開でも突きたい黒の3. ... c5から主導権を握ろう、というのは下手を持って指せると観ていました。あのゲームでは、キャスリングから端にナイトを跳ねて白のキングサイドの攻略を目指そうと思ったところ、華麗なビショップ・サクリファイスの順を読み落としていてTKOという不甲斐ない結果になってしまいましたが……。

 

 もちろん、平手戦であっても3. e5はあります。ニムゾヴィッチ・ヴァリエーションや、アドヴァンス・ヴァリエーションと呼ばれていますが、ぶつかっている状態で放置するのはいつでも黒から切られて気分が良くない、ということですね。

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(Fig.4 Nimzowitsch / Advance Variation : Fig.2 ~ 3. e5)

 黒は上手く主導権を取りたいです。なので3. ... c5とぶつけ、4. dcならば手順に4. Bxc5とビショップを展開しながら先にキャスリングまで見せてしまおうというような指し方があると思います。

 

 3手目にポーンを避けない手では、白としてはb1のナイトを使っていきたいところですが、これには2通りありますね。

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(Fig.5 : 2. d4 d5 まで)

 より前線を推し進める、という意味では3. Nc3の方が多く指されている手です。まずこちらを紹介しましょう。

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(Fig.5.1 : Fig.5 ~ 3. Nc3)

 この手は黒のd5のポーンを攻めています。ナイトの応援によって、白は次に4. edと取り込んでセンターを制圧する狙いが生まれました。

 なので、これを受けて黒は手を捻り出す必要がありますね。

 1つ目が、3. ... deと、先に清算してしまう手です。ルービンシュタイン・ヴァリエーションと呼ばれるラインになります。

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(Fig.5.1.1 Rubinstein Variation : Fig.5.1 ~ 3. ... de)

 2つ目は、この3. Nc3はd5のマスにナイトが跳べる可能性を作ったものなので、それが出来ないようにしてしまおう、という手で、3. ... Bb4とピンで出ます。

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(Fig.5.1.2 Winawer Variation : Fig.5.1 ~ 3. ... Bb4)

 わいなー……わいなヴぇ……え?わいなうあー?

 ……はい。ワイナウアー・ヴァリエーション、という形ですね!白は何もしないと次に4. ... deとeポーンをタダ取りされてしまいます。ピンされている限り、5. Nxe4と取り返しに行けないんですね。なので4. e5と予め逃げる手に、黒は用意の4. ... c5、ここでいつまでもピンされているのは白としても不愉快なので5. a3とビショップの居場所を尋ねるのが定跡になっています。ここでバッサリと5. ... Bxc3とエクスチェンジに行き、6. bcと取らせたところでは、黒は自分の黒マスビショップをショウダウンさせる代わりに、白のナイトも道連れに、更にcファイルにダブルポーンを作らせて良し、というのが黒が最善の応対と言われているラインですね。

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(Fig.5.1.3 : Fig.5.1.2 ~4. e5 c5 5. a3 Bxc3 6. bc)

 白が3手目に3. Nc3とナイトを跳ねる変化は、黒からこう指されたときに、cファイルにダブルポーンが出来てしまう変化があるんです。

 ここで、5. a3に代えて5. Bd2とビショップを間接的にぶつける受けもあります。それが、ボゴリューゴフ・ヴァリエーションと呼ばれる形で、実践例が宮本フレデリカv.s.アナスタシア五番勝負第1局ですね。

 

 これを踏まえると、代えて3. Nd2はどうかと考えるのも自然な流れですよね。

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(Fig.5.2 Tarrasch Variation : Fig.5 ~ 3. Nd2)

 これなら3. ... Bb4から黒がエクスチェンジを強制してきても、ダブルポーンができることはありません。

 この実戦が、先ほどの五番勝負第5局ですね。今日は色々な実戦譜をあいだあいだで紹介しましたが、そちらもぜひ合わせて観て頂けるとより理解が進むかなって、思います。

 

 フランス防御を紹介した、ということで、フランスという国のことわざを紹介して、今日は終わろうかと思います。

――心やさしいものにはチェスはできない。

 肉を斬らせて骨を断つ、そんな言葉が頭を過るような名勝負も多くありますね。盤上の殺し合いだ、という人もいるくらいです。それだけ命を賭けるからこそ、チェスというマインドスポーツは尊く、いつの時代も人を惹きつけて已まないのかなとも感じますね。またお会いしましょう、綾瀬穂乃香でした。

 

(続く)